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『第16章』陽泉試合編


 


氷室さんを止めにかかる火神くん。
すかさず、先ほど同様、むっくんにパス⇒シュートをするが、即座に対応する火神くん。

それを見るや、再び氷室さんにパスを。

だが、先ほどとは違う。氷室さんの目の前には不屈の男・木吉先輩が立ちはだかる!




だが、火神くんじゃなければ止められないとシュートをする氷室さんだったが・・・


「読み切ればイイのよ!」


リコさんの言葉通り。火神くんと同じ事は出来なくても、後出しの権利を持つ木吉先輩なら…一度目のリリースのタイミングで飛んだ木吉先輩・・しかし、これは見方も引っかかる程の完璧なフェイク。
普通の人間なら反応してしまう。だが、十八番である氷室さんは引っかからない。
読み勝った!


「わかってたよ。読み勝てないのは」


実は、ワザと読み負けた木吉先輩。
ミラージュシュートの特質を読み切り、氷室さんの先を読んでみせたのだ!

止めたのは日向先輩だった。


伊月先輩からのパスで火神くんのシュート。しかし、ゾーンの限界か…?シュートは外れてしまう。カバーに飛んだのは木吉先輩。そしてすかさず日向先輩にパスを出し、土壇場で3Pを決める。


残り20秒で1点差。



『…むっくん…?』


むっくんの集中力が、雰囲気がおかしい。



1点差に絶対勝つと気合いが入る誠凛。しかし、陽泉も必死に最後の力を振り絞る。岡村さんのロングパス⇒氷室さんからむっくんへ。



「とどめをさしてやるー!」


止めに飛ぶのは火神くん。


「いけ!もうパスはイイ。ここで決めるのがおまえの仕事だ」


氷室さんはむっくんにそう言った。


すると、今までは押し勝っていた筈の火神くんが押されて行く。


「どうなってるんだ?これは今までのどのダンクよりも強ぇ」


完全に押し負けている。このままじゃ!


「諦めるな、勝つぞ!必ず!!」


火神くんの助けに入ったのは木吉先輩だった。2人のパワーはむっくんのダンクを防いでみせた。日向先輩がボールを掴み、そのままカウンター・・・と思われた。
しかし、信じられない速さでゴール下へ移動していたむっくんが立ち塞がる。


『むっくんが、ゾーンに入っている…!』


彼がゾーンに入ってしまったらもう、誰も止めることはできないだろう。



やっぱり、バスケのこと好きなんだね。



劣勢になるにも関わらず、嬉しい気持ちが確かにあった。



「俺たちは絶対勝つ!限界なんかいくらでも越えてやる!」


火神くんも再度最後の力を振り絞り、ゾーンに入った。


ここで火神くんがやったのはアレックスさんが教えていた技


流星のダンク(メテオジャム)だった。


みんなが驚愕の表情をしている中、残り4秒でとうとう誠凛が1点リード。勝負あった!誰もがそう思った。



だが、紫原は諦めていなかった!


「まだだっ!!」


「アツシ!」

慌てる木吉先輩と、それを見て即座にパスを出す氷室さん。火神くんは限界でもう動けない。

完全にフリー状態のむっくん。

しかし、シュートしようとした彼の身体に異変が起きた。


「飛べない?」


木吉PG以降、今までにないほどの連続ジャンプに・・・せっかくゾーンに入ったというのに、ここにきてその不可が一気に膝に来てしまったのだ。


「ふざけんな!ゴールはすぐそこだ!放ればイイだけ!」


「意図していたわけではありません。それでもこれは、木吉先輩たちの執念の結果です!だから、これで終わりだっ!!」


テツヤくんがむっくんの持っていたボールを叩く。それと同時に終了のホイッスルが響いた。


『テツヤくんは気付いていた…むっくんが飛べない事を」


確証があったわけでもなく、勝率も低くても一歩も迷いなくブロックに飛んだ彼は、諦めることを知らないのだ。


試合が終わり、握手を交わし合う各選手。しかし、氷室さん火神くんのところは・・・


「約束どおり、もう、兄とは名乗らない」


「ああ、わかったよ」


あくまで約束通りを貫く氷室さんを受け入れる答えをする火神くん。


「紫原、またやろうな」


むっくん近付き、そう声をかける木吉先輩。


「やだよ!だってもうバスケ辞めるし」


そう言ってそっぽ向いた紫原の背にさらに続ける。


「じゃあ、しょうがないな。もし、それがおまえの本音だったらな」


『むっくん辞めちゃわないよね?』


「まさか!だって彼が心底バスケを嫌いな筈ありませんから…雫さんだって聞いておいてにやけてるじゃないですか』


全く心配していない風のテツヤくんだけど、私も全然心配していなかった。



「次は勝とうな、アツシ」


氷室さんもまたそう声をかける。当然、答えは「辞める」と。しかし、心なしか声が震えている?


「そうか?けど俺にはそうは見えないけどな」



バスケなど好きでも何でもなかったむっくん。しかし、ゾーンに入ったという事はそういう事。

陽泉のみんなは彼の姿を微笑ましく見つめ、選手を激励し退場していく。


誠凛は喜ぶ間もなく、次の対戦相手を見る為、客席へと移ろうとしていた。




「次は準決勝だ!」




(また一歩、征十郎に近付いたよ…)


キセキの世代のみんなが、敗北を知ることで確実にチームプレイを取り戻していることを実感していた。



「セミファイナルで待ってます」



試合に向かう涼太くんに声をかけるテツヤくん



「もちろんっス…あ、雫っちに伝えておかなきゃいけないことが…」


「おい黄瀬!はやくこい!」


「ちょ、まって先輩!伝えないといけないことが、」


結局聞けずに涼太くんは笠松さんに連れて行かれてしまった。


『…なんだったのかな?』


「さぁな、どうせまたくだらねぇことだろ」


「…そうですね、愛の言葉でしょうし放っておきましょう」


『…二人とも涼太くんに既視感あるね』




そして私たちはコートを後にした。





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