『第16章』陽泉試合編
いよいよ、第3Qーーーーーーーー。
「紫原君も氷室さんも強いです。けど、負けるとは思ってません。コテンパンにしてきて下さい」
当たり前だ!とテツヤくんの拳に自分の拳をぶつける火神くんと木吉先輩。
「「任せとけ!!」」
おそらくむっくんVS木吉先輩、氷室さんVS火神くんになるはずだ。テツヤくんはいったん温存することに。
「待たせたな、遠慮なくやろうぜ 辰也っ!」
闘志を隠さない火神くんに
「イイ目だ。安心したよ だが、勝つのは俺だ!大我っ!!」
日本に帰国する直前の試合で交わした約束を今!
だが、周りも驚くほど完璧なフェイクに引っかかってしまった火神くん。すかさず立ち塞がった日向先輩と挟み撃ちにした・・・つもりだった。
しかし、火神くんだけでなく日向先輩すら全く反応出来なかった氷室さんの滑らか過ぎるシュート。スムーズ過ぎてシュートモーションに入っていた事に2人は気付けなかったのだ。
あまりに1つ1つの動きのクォリティが高過ぎる。それはまさに青峰と真逆
「まるで、流麗なダンスだわ」
リコさんがそう呟いた。
『…少し泪のバスケに似ています』
青峰とは真逆のバスケの基本の動きを忠実に極めた滑らかなシュート。
「見えてたのに、反応出来なかった…っ」
「ッシャー!」
氷室さんがガッツポーズを決める。
「まだだな。おまえ、まだ心のどこかで俺を兄として見てるんじゃないだろうな?」
どうしてそこまで拘るのか?
子供の頃は実力差があって何も感じなかったが、中学になる頃には実力差がほとんど無くなっていた2人。
「アイツにだけは負けたくない!」
無意識にセーブがかかってしまったタイガではなく本気のタイガと戦いたい…
「叩き潰したいんだよ」
そんな気迫漲るプレイ。
今度はフェイクじゃないとプロックに飛んだ火神くん。だが、以前見せたすり抜けていくボール。
「陽炎のシュート」ミラージュシュート
ブロックをすり抜けるシュートに信じられないと言う面持ちの日向先輩たち。
「敵同士。もっと殺す気で来いよ」
そこに交代の合図。火神くんと土田先輩の交代。試合と情を分けきれない火神くんの頭を冷やす為。だが、火神くんをおろしたメンバーで陽泉から2点取るのは・・・こちらの方が今は大問題。
「イージスの盾破りだ」
突破口を木吉先輩に求める日向先輩。そしてやってやると答える。
「やっぱり理解出来ないな、勝てないのに努力する人間の気持ちは!」
自分に貼りつく木吉先輩にそう声をかけるむっくん。
「勝てるかどうかなんて関係無い!目標に向かって努力するなんて楽しくてしょうがないさ!
おまえは楽しくないのか?バスケ」
木吉先輩の言葉に怒りが込み上げるむっくん。バスケの対しての想いは、どうも相入れることはなさそうだ。
「どうせ負けるのに小者が充実した気分になってんじゃねーよ!!」
むっくんがボールを弾く。だが、ボールはまだ生きていた。予測していたのか、伊月先輩がパスした先にはいつの間にか移動していた木吉先輩がいた。
“最初の一発が全てだぞ”
そのままシュート。なんとC(センター)の彼が3Pを決めてみせたのだ。
それをまぐれと片付ける陽泉。それでもアッサリと点を入れる氷室さん。
「伏線はここまでだ!行くぞ!イージスの盾破り!!」
「んじゃま、楽しんでこーぜ」
PGとして木吉先輩が立つ。それをウザイとイラつくむっくん。
『むっくんの子供っぽさを存分に利用した戦略的方法ですね』
むっくんをむかつかせて、冷静な判断をさせなくするのが目的だろうか。
「勝てるかどうか関係無いと言ったが、勘違いするなよ!負けるつもりも毛頭ない!!」
むっくんが誰のシュートにも追い付き対応出来るのは、反射神経+ガタイ。しかし、木吉先輩の中距離シュート相手となればどうしてもジャンプして止めなくてはならないため、次の動作に1テンポ遅れる。そこを突いた攻撃をしていく。
また同じ陣形で切り込んでくる誠凛。
飛ばなきゃいい。わかっているのに、相手が木吉先輩だと思うと怒りで釣られてしまうようだ。
「…雫、頼みがあるんだ!これ、捨ててきてくれねえか?」
1人2役こなす木吉先輩に負担がかかっているのを実感した火神くんは、兄弟の証であるリングを渡してきた。
「これは…氷室さんとの大切な思い出の・・・」
「イイんだ。持ってても俺には未練でしかねぇ」
氷室さんとの「過去」より、テツヤくん達との「未来」とじゃ、どっちが大切か決まってらぁと笑う火神くん。
そしてタイムアウト終了と共にコートに出ていった。
(……捨てれるわけ、ないじゃない)
「…大丈夫ですよ、雫さん。火神くんはもう誰にも負けません」
確信を持ったテツヤくんの言葉。
開始早々、ボールを持った氷室さんの前に立った火神くんの表情の変化に気付く。そんな火神くんに、抜く・・・これをフェイクで行いシュートに切り替える氷室さん。
しかし、一度は引っかかったと思われた火神くんが素早く反応しブロックしたのだ。体制と距離に追い付いた火神くんに驚きを隠せない氷室さん。
「こっからが本当の勝負だ、氷室ぉー!」
タツヤではなく氷室と呼ぶ火神くん。
「今度こそ捻り潰してやるよ」
ゴール下で待ちうけるむっくん。そんな彼に一瞬躊躇した火神くんだったが、すぐ考えを改める。
「答えは決まってんだろう!ここで引いたらエースじゃねぇ!!」
「調子に乗ってんじゃねーよ!!」
むっくんにボールごと吹き飛ばされた火神くん。何かやろうとしていたみたいだが…
そして木吉先輩にトリプルチーム。
パスの出せない隙をついて、岡村さんが木吉先輩のボールを叩く。速攻でシュートに飛ぶ氷室さん。止めようとした火神くんだったが、こんな時に汗で足が滑り飛べない。
ところが、1テンポ遅れて飛んだ筈の火神くんの指にボールが掠ったのだ!
『…!リコさん、あのミラージュシュートのトリックがわかりました』
「!?本当に!?それじゃあ突破口が…」
『…いえ、仕組みが分かったからと言って、止められるかどうかは…』
その後もなんとか伊月先輩にパスを出すものの、誰にもパスを回せない。しかたなく自分が飛ぶが外れる。余裕でリバンを取りに行くむっくんだったが、木吉先輩が奪い押し込んでみせる。
「きーよーしぃぃぃぃー!!」
だが、木吉先輩は変調をきたしていた。みんなの前で倒れてしまいそうになる。テツヤくんがいち早く気づき支えたが、本人は躓いただけ。大丈夫と言うけれど・・・
ーーーーー現在7点差。
『…木吉先輩…』
「やっとここまで追い付いたんだ!流れを途切れさせたくない!
勝とうぜ、みんなで」