『第2章』海常高校と練習試合





サラリと流すテツヤくんと、抱きつかれてスリスリされている私をみて、周り部員は困惑の表情を浮かべでいた。
そんな中部員の1人が持っていた月バスのキセキの世代特集を読み出す。


「黄瀬涼太、中学2年からバスケを始めるも恵まれた体格とセンスで瞬く間に強豪・帝光でレギュラー入り、他の4人に比べると経験値の浅さはあるが急成長を続けるオールラウンダー。」

読まれた記事にまたしても驚きの声が上がる。


「いやあの……、大げさなんスよその記事、ホント。“キセキの世代”なんて呼ばれるのは嬉しいけど、つまりその中でオレは一番下っぱってだけっスわ~、だから黒子っちとオレはよくイビられていましたよねっ」

「ボクは別になかったです」

「あれ?!オレだけ?!」


非難するテツヤくんに笑いながら泣く黄瀬くん。相変わらず私の拘束を解く気はないみたいだ。

“パシャ”


「そろそろ離さないとこの写真を拡散しますよ」

「ちょ、まさかそれ…誰に送るつもりっスか!?」


モデルだからスキャンダルが困るのかな?と思っているみんなだけど、おそらく違う。
テツヤくんのこのパターンはキセキの世代、主に征十郎への密告パターンだろう。


この状況で誰も動かない空間の中で火神くんがいち速く動き出し、黄瀬に向かってボールを投げたのが見えた。
あ、これ黄瀬くん取らなかったら私も痛いやつだ。



“バチィ!!!”



「っと?!った~、ちょ…何?!雫っちに当たったらどうするんスか!!」

「んなヘマ、キセキの世代がするかよ!せっかくの再会中ワリーけどせっかく来てアイサツだけもねーだろ。ちょっと相手してくれよイケメン君!」

「ちょ、火神くん!?」

黄瀬くんに向かって啖呵を切る火神くんにリコさん含め周囲は焦る。


「え~、そんな急に言われても…。あーでもキミさっき……、ん~…よし、やろっか!いいもん見せてくれたお礼!」

火神くんの申し出を請けてしまった黄瀬くんに更に周りの焦りが広がる。自分たちが身をもって知っている火神くんの強さと“キセキの世代”である黄瀬くんの強さ、果たしてどちらが勝つのか…といったところだろうか。

それよりも、今の黄瀬くんの言い方だと…まさか…っ!

「テツヤ君、まさか黄瀬君が言っているいいものって…」

「ええ、マズいかもしれません。」

「え?」


私たちの会話にリコさんが疑問の声を上げる。

「彼は見たプレイを一瞬で自分のものにする」

『それも模倣とかそんなレベルじゃありません。見たままのプレイとはいえ、そのプレイは黄瀬君の身体能力を兼ね備えたもの、完全に黄瀬君自身のものになります』


そして予想通り、先程火神くんが試合中に見せたフルスピードからの切り返しのダンクシュートを、火神くんも反応して阻止しようとするも黄瀬くんのキレやパワーに弾かれ圧倒されてしまった。


「…雫さんの言う通りでした。正直さっきまでボクも甘いことを考えていました。でも…彼は予想を遙かに超える速さで“キセキの世代”の才能は進化している…っ」


火神くんさえも歯がたたない黄瀬くんの実力に息を呑む面々。

そんな中、黄瀬だけが悠々と喋りだす。


「ん~…、これは…ちょっとな~。こんな拍子抜けじゃやっぱ…、挨拶だけじゃ帰れないスわ。……やっぱ、黒子っちと雫っちください。海常おいでよ、また一緒にバスケやろう?」

「……なっっ?!」

「マジな話、黒子っちのことは尊敬してるんスよ!こんなとこじゃ宝の持ち腐れだって!それに、雫っちの願いだってここじゃあ叶えられそうにないし、ね、どうスか?」


黄瀬くんの思わぬ発言に体育館は驚きながらも静寂に包まれる。
問われた私たちに視線が集中する。


「……そんな風に言ってもらえるのは光栄です。丁重にお断りさせて頂きます」

テツヤくんは深々と頭を下げた。

「文脈おかしくねぇ?!そもそもらしくねっスよ!勝つことが全てだったじゃん、なんでもっと強いトコ行かないの?」


「あの時から考えが変わったんです。何より火神君と雫さんと約束しました。キミ達を…、“キセキの世代”を倒すと」


断られた挙句、自分たち“キセキの世代”を倒すとまで言った黒子の発言に黄瀬は眉を寄せる。

「…やっぱらしくねースよ、そんな冗談言うなんて」

「冗談苦手なのは変わってません、本気です」

「……で、雫っちも同じ目をしているっていうことは、黒子っちと同じってことっスか」

『……うん。私もテツヤ君と同じ想いだよ。この場所で、誠凛バスケ部で私は頑張るよ」


黄瀬くんは口をつぐむ。


「……なんかオレ超ダサくないスか?あーあ、こんなはずじゃなかったのになぁ。今日のとこは一先ず帰るっス」


『ありがとう、黄瀬くん』


彼は私の願いを知っているから、心配しているのだろう。優しい人だよね、本当に。


「…ここでお礼言われちゃうとか、もう本当敵わないったらありゃしないっスよ…誠凛さん!ちょっと雫っち貸してください」


リコさんは校門まで黄瀬くんを送るよう私に言って、2人でその体育館を後にした。




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