『第14章』桐皇戦編
誠凛ベンチではーーーーーーーーーーー。
テツヤくんの消耗が激しい。
木吉先輩の膝もギリギリ。
(最後までもってくれっ!いや、たとえ足が折れても!!)
「思い詰め過ぎだ ダァホッ!もっと俺らを信用しろよ。このチームは強い!おまえが作ったチームだろう」
そう言って、最後の10分を戦うために勢いよく出ていく日向達。
一方、第4Qが始まろうとしているのに立ち上がらない青峰。
指示も聞いてなかったと返す。
開始早々、テツヤくんのオーバーフロウとの合わせ技で3Pを決める日向先輩。
“悪ぃ、聞いてなかった”
その言葉に桃井の思いは帝光時代に戻る。
「青峰君って集中し過ぎて話聞いてない時ありますよね」
「だからと言って作戦を聞いていなかったら本末転倒なのだよ」
「燃える相手だとついなぁ
心配すんなって!ぜってぇ勝つからさ!!」
「少しだけど、昔の青峰君に戻ってる・・・」
「止められねぇ!クソォ、差が縮まらねぇ」
こちらが点を入れても、すぐさま取り返されてしまう誠凛。
青峰を止められない事に焦る火神くんだったが、日向先輩から切り替えていくぞとはっぱをかけられている。
「止められないのは一緒だ。だったらこっちは3点ずついくぞ!」
「ああ、信じてるぜ」
シュートを外す事を全く恐れない日向先輩の3P。信じているのは決まる率ではなく『仲間』
「外しても大丈夫だから打てるんだ!」
信頼を裏付けるように決まる3P
だが、今度は桜井さん⇒青峰(木吉先輩のプッシングを誘う)で3点追加。
そう。誠凛が仲間を信じているように、個人技チームである筈の桐皇もまた『青峰』を信じていた。入れては入れられるの展開で点差が縮まらない。
ここでテツヤくんの提案で、青峰に対しトリプルチームを。
青峰の一番厄介なところは、どんな体制からでもシュートを打ててしまう事。野生を身につけた火神くんですら止められない。このまま点の取り合いでは点差を縮められないのだとしたら・・・青峰を止めるしかない。
「それじゃ、少な過ぎるやろ」
青峰にパスという文字は無い。だからこそこの作戦は有効的。しかし、今吉さんはそれでは人数が足りな過ぎるとニヤリとする。
だが、この一度抜かれるというのこそテツヤくんの真の作戦。
火神くんが一度抜かれ、木吉先輩がブロックに飛んだ時に死角から火神くんをもう一度飛ばせる。それでも、青峰は強引に態勢を入れ替えてシュートを打つ。だが、青峰のシュートは外れた。
「テツ、てめぇ!」
ここでやっとテツヤくんが外させたと気付く今吉さん。そう。オーバーフロウで青峰の意識を
一時的にテツヤくんに向けさせたのだ。
“ リングから自分への視線誘導”
「僕には青峰君を止める力はありません。けど、誠凛は負けない!」
「やってくれんじゃねーか、テツ」
そして6点差まで点差を縮めても、引かずに当たる事を指示する日向先輩。
ーーーーーーーーーゾーンプレス。
この陣形は点は取りやすいが、突破されたら脆いもろ刃の剣。勝負どころを理解した誠凛の圧力に負ける形で若松さんから諏佐さんに出したパスは、テツヤくんにカットされそのまま日向先輩に。
それを必死に止めようとした桜井くんだったが、そのせいでプッシングを取られてしまった。3本のフリースロー。これを全部決めたら3点差。
だが、青峰は桜井くを怒るでもなく青峰はセットから外れる。
(いつからだろう?朝、欠伸しながら家を出るようになったのは)
(いつからだろう?勝っても何も感じなくなったのは?)
青峰の願いはただ1つ。
自分の全てを出させてくれる相手が欲しかっただけ。勝つか負けるかわからないクロスゲーム……!
「感謝するぜ、テツ…そして雫」
不気味なまでの青峰の笑みにハッとするテツヤくんとわたし。
『…青峰?……まさかっ!?』
リバウンドに入らない=神経を自分自身に集中している…?
フリースロウは3本とも決めた。これで3点差。だが、ここで青峰は変化の兆しを見せ始める。
「ありえない!ゾーンに入ったというのか?」
余計な思考、感情が全て無くなり、プレイに没頭する極限の集中状態 これがゾーン。
練習に練習を重ねた者のみ、その扉の前に立つのを許されるが、それでも気まぐれにしか開かない。
それを青峰は自力で開いてしまったのだ。
(帝光中時代でも、見ることのなかった青峰の本当の姿……)
こうなってしまったら、尋常でない反応の速さ。
未知の領域
多分、倍は速い。
そして火神くんと伊月先輩の2人がほとんど動けないまま点を入れられてしまう。
「死んでも食らいつくぞ!!」
時間はあと5分。
「いいねぇ、そうこなくっちゃよっ!」
実に楽しそうにシュートを決める青峰。
「最強は青峰や」
オーバーフロウを使った視線誘導も効かない。
「もう、青峰を止める術は ない!」
「青峰と、さしでやらせてくれ です」
タイムアウトを取った際、火神くんは日向先輩に頼みこむ。3人でも止められなかった青峰を1人で・・・勝算は無いけれど、
「俺が1人でやらなきゃダメなんだ」
キセキの世代に自分だけで勝てるとも思っていないし、必要ならベンチにも下がるくらいの気持ちを持っていると言いつつも、青峰にだけはーーー。
「2分やる。エースはおまえだ、好きにやれ」
許可を出した上で、後は全員で食らいつくと火神くんの背を押す日向先輩。全員の気持ちが火神くんに託された。
(青峰…なんて楽しそうにプレーしてるの?まるで初めて会ったときのような…楽しそう…)
青峰のゾーンで誠凛ピンチだというのに、わたしの心の中は焦りと同時に喜びが生まれていた。
「ここにきてエースに託すか。けど、正気の沙汰とは思えんで」
「俺とタメ張るつもりかよ!けど、おまえには無理だ。言ったろ、おまえの光じゃ淡過ぎだってよっ!」
火神くんがかわされると同時に木吉先輩がフォローに入るも阻めない。
(もっと・・もっとだ!)
そうなっても気力は萎えない誠凛。しかし、ここにきてオーバーフロウの効力も切れかけ、今吉さんにボールをカットされてしまった!
だが、このままボールが外に出てしまったら!
「まだだっ!」
テツヤくんが必死にボールに追いつき、中へと押し戻した。そのまま倒れこむテツヤくん。ボールを取った日向先輩⇒木吉先輩の連係で2点取る誠凛。
「ここで離されるわけにはいきません。みんなの思いを背負ったエースは絶対に負けない。信じてますから、火神君を」
『テツヤくん!』
そう言って青峰に微笑みかける。それでも、その火神くんは青峰を捉え切れない。
(クソォ、なんでだよ なんで俺はこんなに弱ぇんだ!嫌なんだよ、もう負けるのは…嫌なんだよ、こんなトコで終わっちまうのは)
今までの青峰との対戦が。仲間の姿が走馬灯のように
(嫌なんだよ、もう泣いてる仲間を見るのは)
黒子と雫の泣いている顔が浮かんだ。
青峰のボールがカットされたと思った次の瞬間・・・
『まさかっ…火神くんまでゾーンに!?』
「前言撤回するぜ、火神 最高だな、おまえ!」