『第14章』桐皇戦編







ハーフタイムの控え室にて、テツヤくんが外に行ってしまったが、上着置いて行っていた。


「あいつ、体冷えちまうよな」


『…落ち込んでいたみたいだし、様子見に行こうと思うんだけど…』


「…オレも行く」


そして近くから出れる外には、ぼーっと考え方をしているような姿で、テツヤくんがいた。


「今、何考えてたんだ?慰める必要は無さそうだけど、ただ風にあたりに来たわけでもねーだろう?」


「・・・・・・・・火神君はバスケは好きですか?」


唐突な質問。
でも、難しい事を考えてたわけじゃない。けど、どうしてもこの試合に勝ちたいと言葉を続けるテツヤくん。


「本音は・・見たいんです。もう一度」


『…そうだね、わたしも同じ気持ちだよ』


以前のような、楽しそうに笑顔でバスケをやっていた青峰を。


「さあな、知るかよそんなの
ただ、負けたらそれこそ今と何も変わらねえ」


勝つためには、今全力でプレーするだけと言う火神くんの言葉に「はい」と答えるテツヤくん。


今頃きっと青峰は…嬉しくてしょうがないんだろうなぁ。
そして必ず後半、涼太くんのときのように調子を上げてくるはずだ。


『…青峰はもっと早くなるとおもう。火神くん気をつけてね?』


「あぁ!」





いよいよ第3Q開始時間。
戻ってきた青峰は、みんなの予想通り楽しそうな表情だった。


そして誠凛側も、みんなが驚きの表情を浮かべる中テツヤくんが登場する。


「勝つ為にはアイツが不可欠」


火神くんの覚醒だけでは青峰には勝てない。やはりテツヤくんの力も必要なのだ。


まずはボールを持った今吉さん、その前に立ちはだかる伊月先輩。
改めて誠凛全員の基本スペックが上がっている事を実感する。
しかし、関係無いと迷う事なく青峰にパス。
またも火神と1on1に。


「コイツ・・・!」


動き出す一瞬の表情で驚く火神くん。
あれで100%だと思っていた。だが違った。
アッサリと火神くんをかわし切り込んでいく青峰。その速さはゴール下にいた木吉先輩も追い付けない。


ところが・・・

テツヤと接触し、青峰はチャージングを取られてしまう。


「青峰君に僕の動きがわかるなら、逆も言えるでしょう?過ごした時間は一緒です。つくづくバスケだと気が合いますね、青峰君」


「やってくれるじゃねーか、テツ」


倒れたテツヤくんに礼を言いながら引っ張り起こす火神くん。そして青峰の背中を睨みつける。



ミスディレクションにより巧みにパス回しをし、日向先輩が3Pを決める。
しかし、日向先輩にイグナイトパスはキツかったようで、手が痛そうだ。


前まではイグナイトパスは火神くんやキセキの世代しか取れなかったけど、今では廻ではなければチーム全員が取れるようになった。




「健気やな~健気過ぎて涙出るわ……。ただな、真面目に頑張れば必ず勝てるとか、そんな甘ったるく世の中出来てへんで」



そう言ってニヤリとした今吉さんが今までと雰囲気が全く違う。


そしてフゥーと息を吐く青峰に、火神はまだ全力を出していなかった事に気付く。



「知っとるか?鏡越しにしか見えへんもんもあるみたいやで」


そしてテツヤくんのマークに、初めて今吉さんがついた。


『…さつき分析力は本当に厄介だわ』


「…黒子くんに今吉!?」



テツヤくんのマークに今吉さんを付けたのは、おそらくさつきがミスディレクションを攻略してしまったからだ。


「ミスディレクションが効いてない 完全な黒子封じ」


テツヤくんを見よう見ようとする程ドツボ。


「見ようとせんかったらエエ!」


テツヤくんがミスディレクションを発動させるのは味方と連携をする時。だから、必ずパスを出す前に相手とアイコンタクトを取る。要するに、テツヤくんではなくテツヤくんがパスを出そうとしている人間の方を見ればイイという事。その先に必ず彼がいる。


ミスディレクションをやぶるという事は封じる事と同義。現に、テツヤくんは完全にパスを出せなくなってしまった。


テツヤくんについたかと思えば自ら3Pを決めてみせ


「お返しだ!喰らえ」


だが、日向先輩の不可侵のシュートも既にさつきに攻略されてしまった。

注目すべきは軸足の爪先。

改めてさつきのデータによるディフェンス力を思い知らされる。


「おーおー、勝手に盛り上がりやがって。こっちもそろそろ、第2ラウンドといこうか、火神」


睨み合う両エース。フォローに行きたいテツヤくんは今吉さんに封じられ動けず。

現状、自分が行くしかないと思う火神くんだったが、先ほどの青峰のプレーがチラついてるようだ。


「集中力が足りねえぜ!」


どんな僅かな硬直も見逃さない青峰はスティールした。懸命に青峰の前に着く日向先輩だけれど、相手は青峰だ…、抜かれてしまう。
だが、そのおかげで火神くんが追い付いた。しかし、ジャンプから空中で火神くんをかわしてのシュート。信じられないような光景。


『野生を持つのは火神くんだけではない…もともと青峰もそうだったね…』



テツヤくんのマークがいつの間にか今吉さんから諏佐さんに変わっていた。もう、全員に彼が見えている。



“誠凛は万策つきた”



「あと1年あったらもっとイイ線いくやろ。来年、またチャレンジしーや」


だが、今吉さんのその言葉にテツヤくんが反応する。それは・・・


聞いてしまった。木吉先輩と日向先輩の話を。





「俺がバスケ一緒に出来るのはこの大会が最後だ」

「そんな・・一年は大丈夫な筈じゃ」

「思ったより早く悪化してるらしい」





関東大会はおろか、IHも無理だと医者に言われたと話す木吉先輩に、日向先輩が項垂れる。


「なんだよ、日向 暗くなるトコじゃないだろ?俺はこれっぽっちも後悔してないぜ」


今はおまえらと一緒に戦いたいと微笑んだ木吉先輩を複雑な思いで見つめる日向先輩。








「そんなに待てません。また今度じゃダメなんです。次じゃない……今勝つんだ!」



テツヤくんの言葉をあらわすかのような誠凛全員の表情。そして今まで以上の闘志。



それでも、気合いだけじゃ何も出来ないとニヤリとする今吉さんに伊月先輩は言う。
切れたんじゃない、切れさせたんだ、と。


すると、今まで今吉さんの目の前にいた伊月先輩が忽然と消えたのだ。


「なんや・・と?」


そのままシュートを決める伊月先輩。何が起こったのかわからないようで。あの今吉さんが一歩も動けなかった。


「今のは・・・黒子のバニシングドライブやんけ」


「消えたんじゃない。消したのよ。ミスディレクションが切れて初めて使える大技…“ミスディレクション オーバーフロウ”」



「僕自身に視線を集めやすくなるという事になります。その状態を逆に利用し、僕から視線を外せなくするんです」



圧倒的な存在感を放った火神くんを利用してのバニシングドライブ。それを完成させた際に逆の可能性を考えていた。

今度はテツヤくんが火神くんの立場に立ち、他の4人にバニシングドライブと同じ効果を与える。




でもこの技にはいくつか欠点がある。





ミスディレクションとは比べ物にならないほど、テツヤくんに負担がかかる事。

試合の終盤にしか使えない事。

さらには、ネタばらしをしながらプレイしているのと同じな為、次回以降、桐皇にはミスディレは2度と使えないという事。


同じ東京代表であるので、今後も何度も対戦するというのに。


「ここで負けるよりマシです」



「先の事はまたその時考えます」







「どんだけレート釣り上げてくるねん」



そう言うと、残り3秒の所で3Pシュートを決めてみせる今吉さん。
結局二桁差のまま、第3Qを終えた。




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