『第13話』温泉と開会式








赤司が雫と消えた後も、残った人たちの動揺は残っていた。



「ちょ、どういうことっスか…夏って…まさか…っ!?」


「はい、黄瀬くんと青峰くんのインターハイを見に行った時です」


「ほっぺた赤く腫らして、首と肩に血が出るまで噛みつかれた跡があったんだよ…たく、カントクに2人きりにさせるなって言われたのによ…」


その言葉にキセキの世代の4人はかなり驚いていた。


「まじかよ…なにしてんだよ赤司」


「それでも、あいつの心は折れなかったのだよ、コンクールにも出ていた。強くなったのだな」


「…オレのせいっスわ、オレが赤司っちをあの時怒らせちゃったから…でも、好きな子に傷つけるようなことするなんて…どうかしてるっスよ…!」


「…まぁ、もともとぽたちんは赤ちんのだし、赤ちんがどうしようが勝手だとは思うけど…さすがにびっくりだわ〜」


(まじでオレ来た意味ゼロすぎる…)






「追いかけたところでどこにいるかもわかりませんし、また逆鱗に触れて良くないことが起きても雫さんは悲しみますし、一度戻りますか?」


「カ、カントクになんていうんだよ」


「正直に話すしかないでしょう…桐皇との試合も午後ありますし…」


「…そうだな…」



そして誠凛チームは戻っていった。



「…オレ探しに行こうかな…」


「…やめとけ黄瀬」


「青峰っちは心配じゃないんっスか!?」


「雫は自ら行った。なら来て欲しくねーかもしれねえだろうが…あいつが助けろって言ったら、オレはいつでも行くんだよ、ばーか」


「…うわぁぁ絶対夏オレのせいだ!雫っちごめん〜でも好きだぁぁぁ」


「黄瀬ちんうるさー」


「まったく、騒々しいやつなのだよ」



そしてキセキの世代もそれぞれ解散した。
みんな雫と赤司が何事もないように願うだけだった。























そして私は征十郎に連れられて、裏側の人気がいないところにきた。少し死角があるため、噂にはならないだろう。
そして征十郎は掴んでいた手を放し、向き合った。



『征十郎、なんであんなことしたの?』


「あんなことって火神の件かい?それは言っただろう、帰れと言われて帰らなかったからだ」


『…避けなかったら征十郎だって試合出れなかったかもしれないじゃない…もうああいうことはやめて』


「それは僕の心配をしているのかい?それとも火神みたいな被害者の心配かい?」


『両方に決まってるでしょう』


「…君が涼太だけでなく、火神にも信頼を寄せているのが気に食わないな」


『チームメイトだもの、当たり前のことを言わないでよ…。征十郎だって、キセキのみんなのこと仲間だし、大切だし信頼してるでしょ?それと同じことよ…』


さっき、征十郎が“かつての仲間”と言っていたのが嬉しかった。その意味も込めて伝えた。


「さぁ…どうだろうね。ところで、雫、明日の夜ここにきてくれるかい?」


そう言って紙にホテルの名前が書いてあるものを渡された。


『…今は敵同士だよ?』


「僕が来て欲しいと望んでいるのだから、雫はもちろん来てくれるさ。…洛山はここで泊まっている。安心していい、僕は1人部屋だからね、来ても問題ない」


『…断られるっていう選択肢はないんだね…わかったよ、着いたら連絡するね』


この間の時のように乱暴なことをしてこない(火神くんにその代わり振りかかったが)から私はクリスマスイブだからかな?とお花畑なことを考えていくことを決めた。
なんだかんだ私は“赤司征十郎”には弱いのだ。


「……雫」


私の名前を言葉にして、彼は私を抱きしめた。


「青峰との試合、楽しみにしているよ」


『うん、勝って洛山のところまでいくから…まっててね』


そして彼は珍しく優しく私にキスをした。
1回目は軽く。2回目は深く味わうように。





























「あら征ちゃん、おかえりなさい。かつての仲間に挨拶は済んだのかしら?」


「あぁ、久しぶりにみんなの顔が見れてよかったよ」


「…あの子にも会えたの?話せたのかしら?」


「出来る限り自制して優しくしたつもりだよ。でないとどんどん離れてしまいそうだからね」


「…自制しないと殺したくなるってどういう愛情なのよ…愛も深いと凶器になるわね」


「彼女が僕以外見なければ僕はいつでも優しいままでいれるのだがな…。とりあえず僕はこのまま桐皇の試合を見に行ってくるから、各自練習でも偵察でも好きなように過ごしていい」


「……勝ち上がってこれるかしらね」


「どうだろうね…だから見にいくんだよ」























「雫ちゃん!おかえりなさい!」


控え室に入ると、リコさんは私のほっぺたや鎖骨回りをジロジロとみて、ホッと息をついていた。


「フリいても意味なかったらしいな」


「あの場にいたら誰もがそうなりましたよ!?」


「雫さん、何事もなかったですか?」


『うん、火神くんに全部いったからわたしにはなにもなかったよ』


「赤司には面食らったけど…それだけだ!…それより今は頭の中はアイツでいっぱいだからな!」







もうすぐ桐皇との試合が始まる。









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