『第12章』WC予選リーグ
『……ん…』
気付いたらどこかの控え室…というよりは少し埃っぽくて、ドアの外から漏れるような音も静かで何も聞こえない。
後ろに手を縛られ、足も縛られていた。
大声をあげないようにか、タオルで口元をぐるりと結ばれており、猿轡状態だ。
試合…始まっちゃってるよね?
これ以上みんなに不安を与えたくないのに…
「あ、起きたみたい」
「監督命令だからさぁ、こんなことしたくないんだけど、ごめんねぇ?」
どうやら見張りは2人、霧崎第一のベンチメンバーだろうか?すこしガラが悪そうだ…。
花宮真はたしか頭がすごくいい。
ということはこの場所も、この見張りを配置したのも、きっと打算であろう。監督というのもなぜか辞めていて、今は花宮真が監督だというし…。
声を発することができないため、できる抵抗はただ睨みつけることだ。
「睨んでも可愛いだけだよ?」
「これ手出したらまずい?」
「は?お前何言って…怒られるぞ!?」
「いや、この子脅せば別に何があったかなんてばれなくね?時間も20分もないし、ちょっと遊ぶくらい…ねぇ?」
そう言って2人は私の方をまじまじとみる。
これは本格的に逃げれないし、どうしよう…
「めっちゃ、この子別嬪さん…細いし人形みたい」
誰か助けて…….
その頃青峰は霧崎第一の控え室を見たがもぬけの殻だった。
「…さすがにいねぇか…頭いいんだっけなあのクソ野郎」
「あれ、青峰っち?もしかして青峰っちも雫っち探してる?」
「あんだよ黄瀬かよ…ここは誰もいねーぞ」
「やっぱり意図的に雫っちを…!?」
「あぁ、かもな」
「…なんだよそれ…なんかあったら絶対ただじゃおかない」
黄瀬は普段ちゃらけた喋り方するが、それがない時はかなりマジの時だ。
「一緒に探しても仕方ねえからな、お前あっち、オレこっちな」
「了解っス、見つけたらメールするんで」
そして手分けして人気がいなそうな部屋を探しまくった。
そしてオレはビンゴを引いたみたいだ。
立ち入り禁止の奥の電気もついていない部屋に人の動く影がみえた。
臨時のロッカー室かなんかだろう。
流石に内鍵がかかってるようで開かない…
「ま、関係ねーな」
オレは思いっきり飛び蹴りして扉を開けた。
弁償?んなもん霧崎のやつらにさせとけ。
中に入るとオレが予想するより遥かに拘束されていた雫の姿と…
セーラー服のスカーフが解かれ、上の服が下から上に捲られ下着がみえた状態の姿だった。
眉を寄せ、強く目をつぶっていたのか、目尻に涙が溜まっている雫の姿を見て、オレの中の何かがキレた。
「テメェら……」
「は!?なんで!?つーかこいつは青峰大輝!?」
「青峰っち!?……雫っち!!!」
黄瀬はすぐに嗅ぎつけたのか、雫の姿をみて真っ先に雫に駆け寄りブレザーを肩から掛け、拘束を解いていく。
「なんで海常の黄瀬涼太も!?誠凛のやつらじゃねえのかよ!?」
誠凛の中控えの選手で大柄なひとはいないし、喧嘩慣れしてそうなひともいない。
大柄で、凄みのある青峰と涼太くんの思いがけない登場で、見張りはすぐに離れる。
「…くそ!こいつら…っ!」
『待って!殴らないで!』
今にも殴りそうな勢いの2人をまず止める。青峰は私の気持ちを察してくれたのか、相手の胸ぐらを掴んで凄みを聞かせて伝えた。
「今回だけ見逃してやる…が、次テメェらのツラ見せたら容赦しねーぞ」
「よかったっスね、バスケやってなかったらオレ多分殺してたかもしれないっスよ…さっさとこの場から消えろ」
そして2人は去っていった。
『2人ともありがとう!…試合は!?今何分…』
「試合終了まであと5分ってとこっすかね…ちょ、雫っち怪我とか…」
「つかお前オレに触らせてねーくせにあんな奴らにおっぱい触らせてんじゃねーよ」
「青峰っちも何言ってるんすか!?」
とりあえず試合に向かわないと…!コートに駆け足で急ぎながら2人もついてきてくれている。
『全然2人来てくれたから何も、未遂だよ、すこし触られたくらいだし、怪我もしてないし、本当ありがとう』
そしてコートに着くと、日向先輩と花宮真が対峙しているところだった。
「あの、ポンコツの次は誰かな?」
「お前だけは絶対許さねぇ!!」
しかし、花宮のマークでシュートすら出来ずアウト・オブ・バウンズとなり。
その転がってきたボールを拾ったのは木吉先輩。
『皆さんごめんなさい!!遅くなりました!』
「「「雫ちゃん!!!」」」
「雫…」
「戻ってきたな、勝利の女神が」
(見張りの奴らなにして…あいつの後ろの方にいるのは…青峰と黄瀬!?…くそっ)
「この試合勝ったら・・・すっか」
そして日向先輩は華麗な3Pを決めた。
「この流れを作ったのは奴だ」
古橋は黒子を厄介だと感じる。そして花宮の様子が・・・
「ふざけやがって!全部、おまえのせいだ!」
伊月先輩はスクリーンで阻まれ、ボールは花宮。そして花宮の目の前にいるのはテツヤくん…頭に血がのぼった花宮は、テツヤくんにロックオンしたのだ。両手でボールを掴んだまま振り下ろしてくる。だが、寸ででテツヤくんは花宮のラフプレーをかわしたのだ!
「クソが!てめぇさえいなければ!!・・・なんて言うわけねぇだろ バーカ!」
何か仕掛けてくるかと身構えてるのを利用して抜く花宮。そしてそのままレーンアップと思わせてのティアドロップを決める。そして、小細工無しだっていつでも点は取れると舌を出してみせる。
誠凛を潰せなかったのは残念だが、このまま霧崎が勝てば仲良しゴッコは終わりとニヤリとする。
「ふざけるな!」
キセキの世代のバスケは間違っていると思って戦ってきたが、それでも彼らは花宮のような卑怯な事はしない!と叫ぶ。
「そんなやり方で、僕らの先輩達のみんなの夢の邪魔をするなぁーー!!」
そのテツヤくんから放たれた高速パスをそのままぶちこむ火神くん。
これで誠凛再逆転。だが、最後まで気は抜けない。手を緩める事なく攻め続けた誠凛の前に、霧崎第一は破れた。 76-70だった。
『勝った…これで…WCに…っ!!』
「「やったー!!!」」
「「よっしゃぁぁぁ!!」」
“兎にも角にもこれで始まるわけだからな。特別枠を設けられた今年がおそらく最初で最後だ。幻の6人目を含め、帝光の天才が全員出そろう”
「WCは、キセキの世代達との全面戦争だ!」