『第2章』海常高校と練習試合
体育館には誠凛バスケ部の熱気がこもった掛け声に満ちていた。1年生も正式入部が済み、新しいスタートを切ったばかりの部員たちは練習にも気合が入っている。
「雫ちゃん、カントクどした?練習試合申し込みに行くとか言ってたけど」
「先程スキップしながら戻って来ましたよ?オッケー頂けたみたいでなによりです」
「……!!スキップして?!……オイ、全員覚悟しとけ、アイツがスキップしてるってことは…次の試合相手相当ヤベーぞ。」
顔をひきつらせながら語る日向先輩に1年生たちは首をかしげる。当然私も同じだった。
そして練習中、テツヤくんから火神くんにパスが通ったかと思ったのもつかの間、火神くんが走り出す。
フルスピードから切り返してマークを振り切りダンクでシュートを決める。
「キレが同じ人間とは思えねー!」
「もしかしたら“キセキの世代”とかにも勝ってたりしてる…?!」
そんなことを口々に言い出す周りの部員たちにテツヤくんと顔を見合わせる。
「足元にも及ばない……とは言いましたけど」
『……でも…キセキの世代も成長する…』
そしてリコさんは体育館に帰ってきた。
集合がかかり、練習試合の相手が発表された。
「海常高校と練習試合?!」
「っそ!相手にとって不足なし!1年生もガンガン使っていくわよ!」
海常高校といえば毎年インターハイ出場が当たり前の全国クラスの強豪校である。そして……
確か黄瀬くんに誘われた高校が海常だったような…
「海常は今年“キセキの世代”の1人、黄瀬涼太を獲得したトコよ」
「…たしか黄瀬涼太ってモデルもやってたよな?」
「バスケも強くて顔もいいとか、羨ましいぜ!!」
「…まさかこんなにすぐキセキの世代とやれるなんて、ラッキーだぜ!!」
火神くんはテンション上がっているみたいだ。
黄瀬くんも卒業式ぶりだなーーーーーーー。
卒業式の日、黄瀬くんに中庭のいつもの場所でって呼び出されてすこしだけ話した。
「雫っちが黒子っちと同じ高校にいくとはね…でもまぁ京都よりはマシっていうか…」
『黒子くんと一緒に、バスケで戦うことを決めたんだ、いつか試合で会おうね』
「もちろんっス、負ける気はしないっスけどね!…赤司っちと離れて不安じゃないんすか?」
『私が選んだ道だから…後悔しないよ』
「…オレは去年から気持ち変わってないよ、赤司っちが雫っちを悲しませることがあるなら、オレは全力で奪いにいくっス」
ーーーーーーーーーだから覚悟してて。
卒業式の回想をしていたら、リコさんの慌てた声が聞こえてきた。
「何?!なんでこんなギャラリーできてんの?!」
部員たちが混乱している中、ギャラリーの先、その中心人物である背の高い黄色い髪の彼が声を上げた。
「あーもー…こんなつもりじゃなかったんだけど…」
5分待ってもらっていいっスか?と、彼はファンの子たちにサインを書いていた。
本当に5分後に彼はファンを捌いてこちらに向かってきた。
「お久しぶりです」
「お久しぶりっスね、黒子っち、そして…」
中学時代のように私を横からギュッと抱きしめる黄瀬くん。
背が昔より高いから、どちらかというと包まれているようなかんじだ。
「あぁーー雫っちだ、約2ヶ月ぶりの雫っち…相変わらず可愛いっス!!はぁ、いい香りがする〜」
『黄瀬くん、久しぶり…匂い嗅がないでよ』
(((うちのマネージャーに何してんの!?)))
「え、まさかお前ら付き合って…?」
「いえ、ただの黄瀬くんの片思いです。そして彼女から離れてください」
「え、ていうか、海常の黄瀬が…なんでここに?」
「いやー、次の練習試合の相手、誠凛って聞いて…黒子っちと雫っちが入ったの思い出したんで挨拶に来たんスよ!」
「とりあえず雫さんから離れてください」
「ちなみに黒子っちとは、中学の時一番仲良かったしね!」
「フツーでしたけど。」
「ヒドッ!!ていうか雫さんって…」
こうやって一喜一憂してコロコロ変わる表情の黄瀬くんをみてると、中学の楽しかったときを思い出すようで安心する。
変わっていくものもたくさんあったけど、そういえば黄瀬くんは変わらず私を想ってくれていたんだな…
そう思うと、抱きつかれても振り解くことなんていつの間にかできなくなっていった。