『第12章』WC予選リーグ
霧崎第一戦当日、控室で今日の確認をしていた。やはり去年のこともあり、チームの雰囲気は殺伐としている。
私は控室をでて、化粧室に向かう途中で霧崎第一のメンバー、花宮真と、目が隠れて見えないが、確か名簿では原さんと言ったか、その2人がいた。
「やぁ元帝光中で、現誠凛高校のマネージャーの藍澤雫さん?今日はお手柔らかに頼むよ」
スッと手を出され、握手を求められる。
幾分か噂や去年の話に聞いた感じより、温厚で優しそうな雰囲気だ。
『…こちらこそ、よろしくお願いします。』
握手を返そうと手が触れそうなところで思いっきり手を握られた。
『っ!…痛いです、花宮さん』
「フハッ、こんな細っそい手、すぐ砕けちまいそうだなぁ…よろしくなんて、するわけねーだろばぁか」
なるほど、外面が良くて、実は中身がこんな感じでクソなわけだ。少しだけ騙されたことに腹を立てた。
『…っ、離してください』
「っは、バカ真面目ちゃんかよ、そう言われてはいそうですかって離してもらえると思ってんの?」
なんなんだ全く。早く控室に戻りたいのに…。
何言っても無駄そうなので、とりあえず睨んでみた。
「ふっ、まぁいいさ、試合が楽しみだなぁ、誰もガラクタにならないといいな?」
『!?…試合は正々堂々お願いしますね』
「…くれぐれも、君も身の回りには気をつけるんだな?」
手は離されたが、何か含みがある言い方をされ、むかつくが今は試合前だ、とりあえずチームの元へ戻った。
そして試合開始前、アップが始まった。
「やぁ、調子いいみたいだね」
「去年、おまえがやった事忘れたわけじゃないだろうな」
試合前から噛みつく日向先輩。
「知らね!ソイツが勝手に怪我しただけだろ?」
そして何かの合図のように指をパチンと鳴らす。その挑発に飛びかかりそうになる日向先輩を止めたのは、事情を聞かされていた火神くんとテツヤくんだ。2人共、どんな卑怯な手を使ってこようとも負けないと花宮さんに宣言する。
「潰せるもんなら潰してみやがれっ!」
「何も無いと良いけどな」
そして花宮さんは横目で私をみた。
テツヤくんは神妙な顔でその視線を見つめていた
一年生も去年の話を火神くんから聞いて、率先して木吉先輩のテーピングを巻くと言ってきた。結果は巻きすぎだったけど…気合はみんな十分だ。
「勝つぞ!!!」
「「「おう!!!」」」
「全く不憫だな。やる気を出せば出す程、より残酷な結果になるだけなのに」
試合開始早々、テツヤくんがボールを持ち、バニシングドライブ
「人が消えるなんてあり得ねぇ!」
しかし、その山崎さんの目の前で消えてみせるテツヤくん、そこから木吉先輩との連携で先取点を取った。
「これがさつきの言ってたテツの新技・・・」
一方応援席の青峰は目の当たりにして楽しそうにニヤリとする。
「いつも言ってるだろう。天才だろうが秀才だろうが、壊れりゃタダのガラクタなんだよ」
花宮さんの前に立つ伊月先輩。
当然、去年の木吉先輩の怪我は故意なものとわかっているので油断はしていない。
花宮さんのフォローに近付く古橋さんにガッチリマークしているのは日向先輩だ。
「まだ始まったばかりだぜ。肩の力抜けよ」
去年にはいなかった顔。そしてファールと紙一重の荒っぽいスクリーンで日向先輩の行く手を阻む。そして、シュートが決まらないと、リバウンドを取ろうとした火神くんの足を踏んで動けなくする原さん。
しかも、原さんはボールをキャッチした後、ワザと肘を大きく振り回し火神くんを怪我させようとする。
『危ない!!』
寸止めで避けた火神くん。スクリーンだけじゃない。何をするにもとても荒っぽい。
そしてこれまでの泉真館との試合など、試合結果を見てみると、今まで霧崎第一と対戦した相手側は必ず負傷者が出ていた。
それでも、去年まではただの強豪校。花宮達2年が主力になってからラフプレーがあからさまになってきたのだ。
『…リコさん…』
「審判に見えないようにやっているわね…」
そして今度は古橋さんが日向先輩を襲う。それを木吉先輩が守るように防御した。
「ここはコートの中だ!ちゃんとバスケでかかって来い!!」
「そのつもりだけど?」
そう言うと、いきなりのカウンターで花宮さんがシュートを決める。
「惜しい!もうちょいであの眼鏡君潰せたのになぁ。邪魔すんなよな」
すれ違い様の花宮さんの言葉に青ざめる木吉先輩。
「チームメイトを傷付けられるのは我慢ならん!花宮!お前だけは必ず倒すっ!」
リバウンドに飛ぼうとした火神くんの足を踏みそこなった原さんは、真面目にスクリーンをやると口にして思いっきり火神くんのお腹に肘をぶち当ててきた。
ブチキレてしまった火神くんは、拳で殴りかかろうとした。
『だめ!火神くん!!』
その言葉に一瞬反応した隙に、ワザと足首を持って倒したのはテツヤくんだ。
「カッとなって全部台無しにする気ですか?」
自分達が先輩たちの為に出来る事はカッとなって殴る事ではなく、バスケで勝つ事だと。
「そうだったな、ワリィ…カントク!雫!一発ぶん殴ってください!」
リコさんは一発本当に頭を殴った。
「やんならこっちもバレないようにやりなさい!!」
『えぇ!?そういう問題ですか!?』
「オフェンスは、この先外から攻めてくれ」
木吉先輩がひとこと告げた。
「インサイドは俺だけでイイ。仲間が傷付けられるよりはマシだ」
それはすなわち、ラフプレーは自分1人で受けるという事。リコさんは逆に交代を口にするが木吉先輩は聞かない。
「この為に戻ってきたんだ。ここで代えたら怨むぜ、一生」
リコさんはその木吉先輩の圧に押し負けた。
そして、本当に木吉先輩を残して全員が外に出てしまった。日向先輩がシュートを外す・・・一斉に2人から攻撃を受ける木吉先輩。
「大丈夫!ゴール下は俺に任せろ!」
心配する日向先輩に笑顔を作りそう答える。
その後も、いやらしいくらい木吉先輩に集中砲火状態。
「イイわけねーだろ!俺に回せっ!!」
1人が遮る事で2人がやりたい放題木吉先輩を痛めつけている。1人でも木吉先輩のマークが外れるなら外から決めるしかない!
「こんなところで躓いている暇はねーんだよ!」
気負いが力んでしまい、日向先輩は外してしまう。
そして今度は火神くんが気負い過ぎて逆にチャージングを食らってしまう。完全に誠凛のプレイはから回っていた。
そんな火神くんの頭をポンと叩き、優しく周りを見ろと言う木吉先輩。
「俺たちは俺たちのバスケをやればイイ!」
一番傷付けられている木吉先輩のこの言葉に全員がハッとする。
「よく言うぜ、ガラクタ寸前のクセによ」
しかし、既に花宮さんの挑発など聞こえないかのような木吉先輩の言動に逆に花宮さんの表情が歪む。
「あ゛ー、ウザっ!そんなに死にたきゃ死ねよ」
指をパチンと鳴らすと共に、古橋さんがワザと木吉先輩を倒し、その上から落ちてきて肘が木吉先輩の目の辺りに落ちてきた。
額から血を流しながらも立ち上がり、木吉先輩はさらに言い放った。
「誠凛のみんなを守る!その為に俺は戻ってきたんだ!」