『第11章』真実とストバス






夏休み終盤、私は今日は敵味方なく、ただの幼なじみとして和成と会う約束をしていた。







「つーか痛々しいっつうの、だいたい察しはついてるけどよぉ、ここまでやべーやつだったっけっか?」


『わたし後々考えたら夢みたいに思えてきちゃって、まさか想い人に平手打ちされて噛みつかれる日が来るなんて思わなかったよ』


「…しーちゃん驚くより怒っていい件だぞこれは……で、その様子だと彼の話をしにきたわけではなさそうだな」


『うん、ちょっともう一つ別の人と勝負することに勝手に決めてね…一応和成には伝えておこうかと思って』





そしてわたしは過去の話とノボルの話を和成にした。
彼は私が誘拐された話、犯人の狙いが私というのも知っていたのにはこちらが驚かされた。





「…そのノボルの逆鱗に触れてしーちゃん危ない目に合わないか心配なんだけど」


『そんな公に仕掛けてくるとは思えないから、きっとこの秋の大会では問題無いと思う。何かアクションするとしたら、春のコンクール前かな…』


「ったく、知らないところで無理しすぎなんだっつーの。言っとくけどなぁ、オレはその傷の件、赤司を許したわけじゃないからな…あと火を起こした黄瀬もな」


『なんで涼太くん…どこまで知ってるの?』


「いや、あの会場にいれば噂なんて耳に入るだろうが…黄瀬の想いだってオレ知ってるし」


『和成は私の保護者みたいだね……ありがとう…』


「…怖くねーはずねぇじゃん。なんで無理すんの?…こんなことするやつの眼をみて話すだけで恐怖で震えるだろ…押さえつけられて抵抗できないことでさらに怖いはずだし、痛みを与えられて平気なはずねーだろ」


和成のいう通り、あの場では征十郎の冷たい声だけで震えた。怒りを露わにした強い眼差しで怯えた。押さえつけられた手首や叩かれた頬、かみつかれた場所のジンジンする痛みで心が痛んだ。


立ち上がれば振り返ることなく、みんなの前でも笑顔で立てた。



でもやっぱり夜1人になると、ノボルの怖さよりもあの時の征十郎の方がよっぽど怖かった。
だから私はノボルに立ち向かえるんだと思う。




『うん、痛かった…し、ものすごく怖かった…憎悪も嫌悪も感じないのにあんな風に怒られて手をあがられると、きっと征十郎の本心じゃないと思って考えてしまうし、それでも“男の力”の強さは気をつけないとって改めた感じたし…』



「…赤司にされること全部しーちゃん受け止めてしまいそうで怖ぇんだけど…これはやりすぎだし、次はちゃんと拒否しろ。力の差で歯向かえなくても、本気で嫌がる相手に、依存するくらい好いてる女にできないだろうからな」



『…わかったっ、まぁ今回は言っちゃいけない言葉を言ってしまったから私も悪いんだけどね』


「なんて言ったの」


『ひたすら前の征十郎と今の涼太くんならって比較しちゃった』


「あーーーー、それ地雷な気がするわ」

















カフェを出て、ストバスで少し遊んだあとに解散した。
俺は忘れないうちに“うちのエース様”に連絡をいれた。そしてメールの返信はすぐにきた。




“そうか。もちろん行くのだよ”




真ちゃんはしーちゃんのファンだからな。
それにしても、試合見に行こうって誘ったときは“いやなのだよ”で返して来やがったのに…







そして“ノボルくん”の顔でも久しぶりに観に行こうとするかな。
しーちゃんが感情を閉ざした1番の原因作りのむかつく野郎の顔をな。





















オレはあの誘拐された日を忘れはしない。
死ぬほど後悔した日……。




さらに母親が亡くなって感情をなくした雫のそばに居続けようと思っていた。
でもその時オレもまだ10歳。
受け入れるだけの心の広さなんてもったいなくて、なんでもっと前向かねえんだよ、なんでもっと友達作らねーんだよって考えるようになってしまった。






いつも何も言わずにお互い授業やクラブが終わったら一緒に帰るのが日課だった。
なるべく1人にしないように、オレは他の友達とかと遊ぶときは必ず雫を家に届けてから行くようにしていたし、とにかく1人にさせないようにしていた。



いや、むしろそのせいで雫は協調できないのでは?


てかなんでオレばっかこんな損な役割もってんだ?



“一回くらい、突き離しても大丈夫”


“むしろその方が雫のためかもしれない”






「オレ、今日クラブの連中と残ってバスケして帰るから、先帰っていいよ」






雫はうんともすんとも言わず、ただ深く頷いていたし、オレも少しの罪悪感だけでバスケしてたら雫のことなんて忘れていた。





その後、家に帰ってきたとき、雫といないことに奏さんと泪くんに驚かれると思わなかった。




「雫ちゃん帰ってこないから心配で…」


「和くん雫なんか居残りとか言われてた?」




その瞬間、オレはしてはいけないことをしてしまったんだと、小さいながらに察した。





「オレのせいだ…オレがバスケ優先にした。雫より他の友達をとった……探してくる!!」






そのときは橙家のことなんて知らなかったから、本当になにか危険な目にあったと思った。
雫はあれ以降ボーッとしているし、なにに対しても危機感が全くない状況だった。






なんで一番大切なトモダチなのに、幼なじみなのに、突き離してしまったんだろう。







夜9時になると、さすがにオレも泪くんのところへ戻った。泪くんは決してオレを責めなかったし、むしろ謝られた。





警察に言うのかと思ったけど、泪くんは心当たりがあるようで、誰かと連絡をとっているようだった。

俺はその日藍澤家に泊まった。

雫が帰ってきたのはその日の日付が跨ぎそうな時間だった。
連れてきてくれたのは、中学生の泪くんくらいの女の人で、泪くんの知り合いみたいだった。






“ごめんなさいーーーーー”


“こっそり連れ出すことしかできなかった”






雫は涙の後もすごくて、泣きすぎたのがわかった。寝ているようだったけど、起きた瞬間彼女が壊れてるのがわかった。




やめて、燃やさないで、助けて、お母さん、と何かに怯えるように頭を抱えておかしくなっていた。
病院に連れて行き入院することになって、安定剤かなにか、落ち着かせるようなものを投入する生活が1ヶ月弱続き、戻った雫は記憶の消去をしていた。






あぁ、俺のせいで雫がこんな目にあった。





だから絶対次こそ守り抜くと決めた。
彼女が俺でなくてもいいと思っていても、俺はそうすることでしか自分を許すことができない。








「大切なトモダチ、幼なじみ、そして俺の好きな女になっちまったしなぁ…。さて、エース様にもノボルのこと話してやらねーとな」









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