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『第11章』真実とストバス








『記憶が一部ない…?変換って、どういうこと?』



「俺は赤司くんにも真実は話していない。が、彼はもしかしたらすでに知っているかもしれない。あの放火魔はたまたまなんかじゃないんだよ。そして犯人の狙いは雫、君だった」


『…わたし?なんで…』


「お前は優秀すぎた。そして元より音楽の才能の血筋の藍澤家は、尊敬や畏怖されることも多いが、反感を買うこともある。母親も父親も、祖父母も曽祖父母も代々そうだ。その中でもお前は別格だ」



「日本の音楽界では藍澤家と同じくらい才を持つのが“橙家”、聞いたことあるだろう?」



『もちろんあるよ、コンクールでいつも私の次にいて…事件の後はあの人が常に最優秀だったから……!?まさか、犯人って…』



「橙家とうちは昔からよきライバルで、常に一位を取り合っていた。向こうの今の父母も海外で活躍しているオーケストラを率いて活動している…。雫の独壇場になるまでは、それはそれは仲も良かったと聞いていたよ。もちろん、俺もね」



「橙家はうちの家系と同じ、父母に子供が二人…俺の同い年の娘、“ノア”と、お前の知っている息子、“ノボル”だよ。俺はノアと一位を取り合っていたよ。だが雫とノボルはその均衡を崩した…」



『私のせいで…?お母さんが…私が橙家との均衡を保たなかったから…っ?』



「それは責めるべきではないよ、藍澤家きっての魂が雫だからね。だから俺と親父は雫の感情を育て上げて完成させたかった。そしてこの事実を受け止めても、ノボルを完膚なきまで負かしてほしいと思っているんだよ」



『でもどうして放火なんて…殺害なんてして…誰が?』



「…ノボルは天才ではなかったんだよ。努力型の秀才だ。雫に勝てるはずがなかった。1年目はまだ彼も努力して雫を目指していたけれど、2年3年と経つと、彼は精神障害を起こしていったんだ。」



“なぜ俺だけ勝てない?”


“橙家の恥だと?”


“こんなに頑張っているのになぜ勝てない?”


“アァそうか、藍澤雫ガ邪魔ナンダ”



「そして君にショックを与えようと放火したみたいだけど、齢9歳がそんなことするなんて誰も思わないだろう」



『その父母は…?なんとも思わなかったの⁉︎』



「仲良かった両家だけど、ノボルの精神疾患でだいぶ感覚がやられていてね…。事故扱いとして受け止めているみたいだよ。そして雫が表舞台からさり、ノボルが勝つようになった4年間はとても喜んでいただろうね…そして彼は今、13歳から2年間、父母についていき、海外へ勉強しに日本から離れていた」



『…お父さんは橙家の動向を追って探っているということ?』


泪は頷いた。



「橙家は雫を殺そうまでとは思ってはいないけど、きっと音楽から離れてほしいと思っている。そのために何か起こしてくるということも…。もう橙家はノボル以外も敵とみなすしかないんだよ…」



『どうしてそんなことわかるの…』



そこで私の記憶はフラッシュバックを起こした。たしか母が亡くなってから父が戻るまでの1年…たしか音楽祭の前だ…。




手足は拘束され、耳にはあのとき母が弾くはずの曲が流れ、目の前でピアノの写真を燃やされた視界一杯に広がる無残な光景。




『私、誘拐されたことある…』



「あの事件を利用して、雫の精神をも壊そうとしたんだ…。そこから親父は釘を打つかのように、海外だけでなく、日本でも彼らの動向を追っている」



『…私、知らない間に守られていたんだね…泪にも、お父さんにもお母さんにも…』



「この夏、ノボルは帰ってきているし、おそらく音楽祭にも出るだろう。もしかしたら海外で戻り平静になっているかもしれないし、雫がまだあの不調のままだと思っているかもしれない…」



“つまり、これはノボルとの勝負”



全てを知った上で、音楽で彼を叩きのめす。
それが報復であり、橙家の負の連鎖を断ち切る手段だ。




『…私が彼らの負の所業を止めないと…』


「…まさかここまで強くなってくれるとは思わなかった、後一年は少なくともかかると…」


『…泪は、もしかして…橙家を止めたかった…?彼らをも救おうとしている…』


「…雫を利用するしかできなくて、不甲斐ないけどな…。ノアを救ってあげたいんだよ」




彼らの、橙家の負の所業を止められずにただ罪悪感を感じているノアを救いたい。





“ノアが救われないならオレも辞めるよ”




“オレなんかいなくても、優秀な妹がいるから”




“いつか、終わらせてあげるからね”






『…音楽祭に堂々と出る。そして春の音楽祭にも出ることを告げるわ、宣戦布告よ』













「ありがとな、雫……
ところでその傷どうした?」





『…色々あって乗り越えてきたのよ、察してくださいな』







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