このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

『第10章』IH会場にて







試合が終わっても、私たちはまだ観覧席から立てないでいた。


「再確認したぜ。これが、キセキの世代…」

「冬にまた、こんなヤツらと」

「…勝てるのか?」

「いや、勝つ」

「とはいえ、まだ差があり過ぎる。今よりもっと、強くならんといかんな」


先輩方がそれぞれ感想をつぶやいていたけど、そこで、リコさんが立ちあがる。


「いつまでも呆けてらんないわ。帰って、早く練習するわよ!」


「え? 帰んの?この大会、他のキセキの世代も出てるんじゃ…」


「そりゃ、できれば最後まで見たいわよ」


「いや、だから。ホテルとか見っけて」


「ホテルか、おい火神。どこにそんな金あんだ! ボンボンか?お前実はちょっとボンボンか? ひとり暮らしのくせして。だいたいそんな何泊も増やしたら、監督の親父さんに殺されんだよ!」


「冬なんてあっという間だ! 帰って練習あるのみ!!」


「お、おう!」

「わん!」

「二号、しぃー」

「わん!」



「…雫ちゃん、あなたはこの後、どうする?」



みんな事情を知っているからこそ、私に注目を集めた。


『…とりあえず、心配なので、涼太くんに会ってきます、借りもあるので…。なので先に戻っててください、また今日中に戻れるかどうか、リコさんに連絡しますっ』


「そーだな、この間の借りもあるしなぁ、ちょっとだけ雫ちゃんを黄瀬に貸してやるかぁ」


日向先輩は頭をかいてそう言った。


「…僕も残りますよ」


『何言ってんの、テツヤくんは早く練習して、彼らに勝ってもらわないとねっ』


「でも…」


「なんだよ、危険な奴でもいんのか?その変えたいやつがよほどそうなのか?」


火神くんがテツヤくんの心配そうな表情に、怪訝そうに聞く。


『まず、会えるかもわからないし、連絡取るつもりはないから…。涼太くんに会って、一周して会わなかったらそのまま帰るよ?』


「……そうですか」


「まぁあれだ、なんかあったら連絡してこいよ!」


『うん、ありがとうね、テツヤくんも火神くんも』


そして私はいち早く観覧席を立った。











小金井くんがニヤニヤしながら聞いてきた。


「あれ?雫ちゃんやっぱ黄瀬と付き合ってんの??」


「ちげーよ!この間色々あったんだよ…」


「色々って?」


「雫ちゃんは県外のキセキの世代のある人と闘って勝たなきゃいけない理由がある。そして、WCがタイムリミットだ」


伊月くんが端的に説明をする。
この件を知っているのはスタンドメンバーのみ。あと、鉄平は知ってるのか気付いてるのか、察している状態だというところだ。


「…話していいか?黒子」


日向くんが念のため確認した。
黒子くんはもちろんです、と答えた。
日向くんと伊月くんの視線が私に向いた。カントクの私から話すのが確かにベストか…。



「私から話すわ。彼女は次のWCで、その相手に勝たないと、ここを去る羽目になるわ。県外のその人のところに強制送還されるのよ」


一年生トリオと小金井くん、水戸部くん、土田くんは驚いていた。
無理もない、私も予想はしていても、こんな対価があるとは思わなかったから。


「ただ、それをプレッシャーに感じたら彼女は悲しむわ!それを糧に、どうせ目指すのは日本一だから変わらないということ、それだけよ!」


「で、でもさぁ、そんな転校させるってできるの?普通そんなことできなくね?」


「いえ、彼はやります。彼の雫さんへの執着心は並ではありません。そもそも同じ高校に行かなかったのが奇跡なんです」


「…彼氏ってこと?」


「…今はわかりません。ただ、当たることになれば、その前に話さなければなりませんね…」


そこで火神くんが思いついたように話した。


「そんな奴に会ったら、今日拉致されたりしねーの!?…て、だからお前心配してたのかっ!?」


「…さぁ、僕が心配しているのは、彼女を幸にするのも不幸にするのも彼には容易いってことです」


そう黒子くんがいうと、静かに黙る男たち。


「考えたって仕方ないわ!今の私たちにできることは練習してWCで果たすのみよ!」



























桐皇ロッカールーム。
若松が勝利を祝って何やら叫んでいるが、今吉に水をぶっかけられて止められていた。


「毎度それやらんとあかんか?」

で、青峰はというと、もうさっさと帰ったとのこと。

「や~でも、今回けっこうヤバかったっすよ。むしろなんでいつもとテンション変わんねぇんすか」

「確かにまぁひやひやしたわ。ただ結局、どう転んでもうちが勝ったしな」

「あのバカ(青峰)だって、いっぱいいっぱいだったじゃないすか」

「そっか。お前らは知らんかったなぁ。青峰はまだ、底は見せてへん。前に一度だけ見せてもろたんや。あいつには、もうひとつ芽がある。まぁ言うてもあれはいつでもはできん。今回はやらんかった半分、できんかった半分、てとやろ。強いて心底心配したとすれば、あいつの中に残っとった、甘さ、てとこやな」








4/7ページ