『第10章』IH会場にて
フリースローを勿論決めて、海常51-60桐皇。
9点差なんて、あって無いようなもんだ。
涼太くんはもう青峰のコピーを完成させ、青峰は4ファウル…下げられてもおかしくない状況。
今吉さんは青峰にパスするが、青峰がミスしたところを、すかさず涼太くんがボールを取り速攻にいく。マークは桜井くんだ。
でも、彼のスピードについて行けず、抜かれてしまう。動きだけならまだしも、速さまで青峰と変わらない。
その後ろから、青峰が走りだした。
“ったく、4ファウルは俺のドジだった。けど、これは黄瀬の望んだ展開か? 違うな。チームが勝つための戦略と受け入れてはいても、本心じゃこうなって欲しく無かったはずだ。とはいえ、まさか、あんなツラされるとはよぉ。しかも、何だ? さつき、その心配そうなツラは。何だ? その慌てたツラは。どいつもこいつも、カン違いしてんじゃねーよ!”
ゴール目前のボールを青峰がブロックした。
「4ファウルぐれぇで腰が引けてると思われてたなんて、ナメられたもんだぜ。けどなぁ、特に気に食わねぇのはてめぇだ、黄瀬。いっちょまえに気ぃ使ってんじゃ無ぇよ。そんな暇あったら、死に物狂いでかかって来やがれ!」
「…いいっスね、さすが。あれで終わりじゃぁ、拍子抜けもいいとこっス」
たしかに、青峰は4ファウルでびびってプレーができなくなる人じゃない。
第4Qが開始した。
どんな奴でも4ファウルでは動きが鈍る。そういう周囲の考えとは逆に、青峰は、4ファウルで変わらないどころか、凄味を増している。彼はそういうプレーヤーだ。
開始早々1本決め、直後涼太くんが青峰と全く同じ技でゴールを決める。
その後もずっとそのパターンで、青峰も黄瀬も一歩も引かず、お互い全く同じ技でのゴールが続きます。
第4Q残り1分余り。
涼太くんの体に、変調が見えた。かなりの負担がかかっているせいか、脚に来ている。
それでも何とかゴールを決めた様子だ。
残り1分07秒。
海常98-106桐皇、点差は縮まってはいない。
「一瞬も気が抜けない。頭痛くなりそっスわ」
「しんどいわねぇ…」
「ほんと、疲れたぁ」
「あんたじゃなくて!!」
小金井先輩は見てるだけで疲れてしまったみたいだ。
「ここまで流れが変わらない試合は、初めてだわ。中の選手はそうとう精神削られてるはずよ」
「特にキツイのは、追う海常だ。長時間、8点差と10点差を繰返し、差が縮まらないまま、時間がどんどんなくなっていく」
「緊張の糸は、いつ切れてもおかしくない」
「諦めるか。チャンスは必ず来る。あいつ(黄瀬)が踏ん張ってるのに、簡単にへこたれっか!」
「認めてやる。…どころか、最後まで気は抜かねぇよ。その目をしてる限りは、最後まで何が起こるかわかんねぇ。…テツと同じ目をしてる限り」
「ったく、頭が真っ白になってきやがる。あいつらふたりもよくやるが、こっちもほとんど、ひたすら往復ダッシュしてるようなもんだ、くそっ」
ここで桜井くんが、集中力を切らしてパスミスを誘ってしまう。弾いてしまったボールを拾ったのは、涼太くんだ。
残り1分のこの場面で、決めれば残りの差はスリー2本分、逆に、落とせば、一気にタイムリミット。
涼太くんに、追いついたのは勿論青峰。
これがきっと最後の一騎打ちになるだろう。
「どう来る? 右か、左か、もし俺が逆の立場なら…。左フェイクからクロスオーバで…」
「右! だから裏をかいて、そこからもう一つ!」
「左…。の、裏をかかれたら。右か、左か、手の内をお互い知りつくしてる相手に、読み合いなんざ無意味!」
ふたりの読み合いに終止符を打ったのは。
黄瀬はいきなりフォームレスシュートを打つように見せかけ、笠松にパスを渡そうとした。
ブロックのために飛んでいた青峰は、そのまま体勢を変え、ボールを弾いてパスを防いだ。
「千載一遇のチャンスを逃したな」
「…なんで」
「ここまでよくやったが、最後の最後にヘマしたな。あのまま1on1だったら、お前にも勝つ可能性はあったかもしれねぇ。あの時お前は、目線のフェイクを一つ入れた。と、同時に、右サイドの笠松を見た。が、俺ならあの場面で目線のフェイクはしねぇ。つまり、パスは一見意表をついた選択だが、逆に言えば、俺の動きに無い、一番予測されやすい選択だ。俺のバスケは仲間を頼るようにはできてねぇ」
「唯一のチャンスを逃した…。この試合は、もう」
「切り替えろ!」
「試合は、まだ終わっちゃいねぇぞ!」
笠松さんの声で戻った涼太くん、でも、海常も疲れがピークに達しており、ここからの点差は縮まらなかった。
「俺の勝ちだ、黄瀬。らしくないことをしたせいで、あっけない幕切れだったな。結局敗因は、最後の最後にチームメイトに頼った、お前の弱さだ」
「…そうかも、しれないっスね。けど、俺だけじゃここまでやれなかった」
「だから、負けるだけならまだしも、俺だけ諦めるわけには、いかねぇんスわ!敗因があるとしたら、ただ、まだ力が足りなかっただけっス!!」
「…あたりまえなこと言ってんじゃねぇよ」
結局、最後のダンクの力比べは青峰が勝ち、青峰はダンクを決めた。
そこでブザーがなり、試合終了。
海常98-110桐皇で終わった。
整列の合図がかかる。涼太くんは完全に足に来ているようで、立てないみたいだ。
悔しさに、歯を食いしばり、コートに拳をぶつける涼太くん…。
青峰は、何か思う事がありそうですが、そのまま立ち去った。
「立てるか、もう少しだけ頑張れ」
「…先輩、俺」
笠松さんは、涼太くんを起こしてやり、肩を貸して列に向かった。
涼太くんの頭を撫でてあげている笠松さん。
「お前はよくやったよ。それに、これで全て終わったわけじゃない。借りは冬、返せ」
私はこの試合をみて、勝手に涙が出てきた。
何が悲しかったのか、悔しかったのか、嬉しかったのか…
当事者でない私にはわからないけど、ただ胸が苦しくて、涙がこぼれた。