『第10章』IH会場にて






タイムアウト後、また涼太くんにボールが渡っても、パスをした。

「おいおい、どーしたぁ? もうお手上げか?」

「べつに選択肢は1on1だけじゃねぇが、攻める気が無さ過ぎる!」


でも青峰にボールが渡った途端、涼太くんが気迫のマーク。

「ったく、ひっかかるぜ。攻める気は無いかと思えば、なんだ?そりゃ。負ける気もさらさら無ぇじゃねぇか。けどま、関係ねぇな。どっちにしろ結果は変わんねぇ」

青峰は涼太くんを抜き去り、シュートに行く。
でも、ゴール下で笠松さんがファウルを貰いに飛んでいた。

「うまい! いや、それよりすげぇ度胸だ。あの体格差で退くどころか、ファウル貰いにぶつかりに行くなんて」

そして青峰はチャージングを取られた。

「やってくれんじゃん、先輩」

「あぁ? 人ふっ飛ばしといて何だその態度は、一年坊主」




「けど、ひやひやもんだ。できるのか?」

「できるか、できないか、じゃねぇ。やるんだよ! うちのエースを信じろ!」




海常の人たちのこの声が聞こえた私は分かった。もしかして涼太くんは……!






“あぁ、くっそ。やっぱめちゃくちゃかっけぇなぁ。人には真似できない、唯一絶対のスタイル。この人に憧れて、俺はバスケを始めたんだ。普通のプレーは見ればすぐにできるのに、この人のは何度やってもできなかった。けど、わかってたんだ、ほんとは、なぜできないか。憧れてしまえば、超えられない”





「勝ちたいと願いつつ、心の底では負けて欲しくないと思うから、だから、憧れるのは、もう止める」





『涼太くんは、青峰のコピーをしようとしている…!?』

「そんな、できるのか?」

「そもそも黄瀬くんのコピーというのは、できることをやっているだけで、できないことはできません」

「は、はぁ?」

「つまり、簡単に言えば、飲み込みが異常に速い、ってこと。NBA選手のコピーとか、自分の能力以上の動きは、再現できない」

「だが逆に言えば、それでもやろうとしてるってことは、できると信じた、ということだ」




“憧れるのは、もうやめる…”





『…次ハーフタイム入りますよね、少し外の空気吸ってきます』

















外に出て、スポドリを買って戻ろうとしたところに黄瀬くんが出てきた。
なんとなく、彼なら1人になると思ったからだ。



「雫っち!?なんでここに!?もしかして…応援しにわざわざ??」

「昨日まで近くで合宿だったの、それでみんなでインターハイを見に行こうということになったんだ」

「ちぇ~。応援しに来てくれたんじゃないんスね」

私はスポドリを涼太くんに渡した。


『応援はしてるよ、ここだって涼太くんがでてくると思ったからきたんだよ』

「…そんなこと言われたら、まるで青峰っちよりオレを応援してくれてるみたいっスよ」

『うん、そうだよ』

「えぇ!?本当に…だって雫っちは青峰っちのバスケが…」

『涼太くん、青峰のコピーしようとしてるよね?』

「…バレバレっスかね??」

『私はできると思う、涼太くんなら、コピーできると思う』

「…そんなん、百人力じゃないっスか…ねぇ黒子っち?」


後ろを向くとテツヤくんが二号をつれていた。


「そうですね」

「なんかその犬…黒子っちと似てません??…じゃ、ちなみに。青峰っちと俺、勝つとしたらどっちだと思うんスか?」

「…わかりません」

「えぇ?」

「ただ勝負は諦めなければ何が起こるかわからないし、ふたりとも諦めることは無いと思います。だから、どっちが勝ってもおかしくないと思います」

「…ふぅん? せーぜー頑張るっスわ」

「あれ、何スか?」

「いぇ、てっきり、絶対勝つっス、とか言うと思ってました」

「何スか、それ。そりゃぁ、勿論そのつもりなんスけど、正直、自分でもわかんないス。中学の時は勝つ試合が当たり前だったけど、勝てるかわからない今の方が、気持ちいいんス」

『そんな涼太くんだから、わたしは応援してるからね』

「…ありがとうっス」















第3Qが始まり、今吉さんのマークに涼太くんがついて止めにいき、無理について今吉さんはファウルをした。
その速さは今までとははるかに違った。


「ナイスファウル、キャプテン!」

「若松。青峰が入ってきた日のこと、覚えとるか?ワシは頼もしいと思うと同時に、もし敵やった時を想像して、鳥肌が立ったわ。あかんわ。立ってもうた、鳥肌」


涼太くんのマークに若松が付いている時。
またしても、青峰のスタイルで涼太くんはシュートを放ち、若松さんも無理に止めに入ってファウル取られた。

「すっげぇ、黄瀬! ていうか完璧青峰みたいじゃん」

「いえ、多分まだ不完全よ。その証拠に、速攻とかで青峰くん以外がマークに来た時しかやってない。きっと、本人の中で、まだイメージとズレがあるのよ」

「つまり、黄瀬が青峰に再び1on1を仕掛けた時が、コピーが完成した時だ」


『ただ、青峰もぼんやり待つことはしません』


フリースロー2本決めて、海常46-58桐皇。
追い上げに盛り上がりを見せる海常サイドだったが、青峰がその流れを切るかのようにボールを投げシュートを決める。


「たらたらしてんじゃねぇよ、黄瀬。べつに間にあわなきゃそれまで、ってだけだ。てめぇの準備が整うまでおとなしく待ってやるほど、俺の気は長くねぇぞ」




海常も涼太くんのコピーが完成するまで、点差を詰められないように必死に守ってつめている。
早川さんのリバウンド、森山さんのブロック…。15点差ついたら追いつけるものも追えなくなるのを分かっているからだ。



「黒子っちの言ってたこと、最近ちょっとわかったような気がするっス。黒子っちの言ってたチーム、そのために何をすべきか。そして、俺が今何をすべきか」





“俺に勝てるのは、俺だけだ”








「じゃぁ、その“俺”が相手なら、どうなるんスかね?」





そして涼太くんは青峰に仕掛けた。

「待ちくたびれたぜ、まったく。とっとと倒して来い!」

そして、ついに青峰と重なるスタイルで、青峰を抜く、一気にゴールまで行く涼太くん。
その後ろから、青峰が追いかけ、無理に止めようとした。

「調子に乗ってんじゃ、無ぇよ、黄瀬!!」

「ダメ!!!」

さつきの制止の声が響くが、青峰はそのまま止めに行き、涼太くんの体にぶつかって、ファウル。
でも涼太くんは、青峰の体の後ろからボールを放ってシュートを決めた。これも青峰と同じスタイルだ。


バスケットカウントを取られ、青峰は4ファウルになってしまった。






涼太くん、悲しい顔してる………。







そう、さっきの笠松さんのもらいにいったファウルで、布石を打っていたのだ。


「なぁにが性格悪いや。あんたらのほうがよっぽどタチ悪いで、ほんま」

「誰がいいなんて言ったよ」







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