『第10章』IH会場にて







夏合宿も終わり、近くのインハイ会場に私たちは向かった。リコさんも観戦するために合宿をここにしたみたいだ。
今日の準々決勝は海常VS桐皇…つまり、黄瀬涼太VS青峰大輝の試合を観戦しようと観覧席についた。



「黒子、どっちが勝つと思う?」

「わかりません。キセキの世代のスタメン同士が戦うのは初めてです。ただ、黄瀬くんは青峰くんに憧れてバスケを始めました」

「そうなのか?」

「そして、よくふたりで1on1をしてました。
が、黄瀬くんが勝ったことは、一度もありません」

『…何回も何回も、練習後もやっていたけどね…』


そして試合が始まろうとしていた。


「負けねぇっスよ、青峰っち」

「あぁ? 随分威勢いいじゃねぇか、黄瀬。今まで一度でも、俺に勝ったことがあったかよ?」

「今日勝つっス。なんか負けたくなくなっちゃったんスよ、無性に…雫っちの分も勝たないといけないんで」


まずは海常ボールから…
エースは黄瀬だ、と笠松さんは涼太くんにボールを集める。
初っ端から、黄瀬VS青峰のエース対決だ。


いったん涼太くんが抜くけれど、後ろからボールを取られてしまう。


「相変わらず甘ぇな、ツメが。そんなんで抜けたと思っちまったのかよぉ?」

スティールしたボールは若松さんへ、ディフェンスがついていたため、桜井くんにボールをパスした。
桜井くん得意のクイックリリースで、先取点は桐皇のスリー。


次も涼太くんにボールが渡り、コピーした桜井くんのクイックシュートを放つ。

「人真似は相変わらずうめぇな。が、それじゃ勝てねぇよ!!」

青峰の速さが勝り、後から手を出したのに、ボールは青峰の指先に触れ、リングに跳ね返されたシュート。
リバウンドは桐皇が取り、今吉さんがカウンターを仕掛ける。これで流れは一気にうちや、と思った今吉さんだったけども…
今度は笠松さんがスティール!

そして、そのままシュートを打った。

「そんな簡単に流れをやるほど、お人好しじゃ無ぇよ!!」

スリーが決まって、同点になった。


「あそこでいきなり打って、決めるのかよ!立て直して、きっちり攻めてもいい場面で、すかさず返して、流れをぶった切った!」


笠松さんのキャプテンシーに、日向先輩も驚いていた。



「フォローぐれぇ、いくらでもしてやる。ガンガン行け!」

「先輩…」

「けどガンガンやられていいとは言ってねぇ!」

「すんませぇぇん。うわぁぁ」








「なるほどぉ。頼りになる先輩だな。ひとりじゃダメでも、みんなでなら戦えるっスってかぁ?テツみてぇなこと考えるようになったなぁ。負けて心変わりでもしたかぁ? 眠たくなるぜ」

「はぁ? そんなこと、一言も言ってないっスよ」

涼太くんのディフェンスの番だ。

「まぁ、確かに黒子っちの考え方も認めるようになったっス。海常を勝たせたいなんて気持ちなんてのも、出てきた。けど、何が正論かなんて今はどーでもいいんスよ。俺は、あんたを倒したいんだよ。理屈で本能抑えてバスケやれるほど、大人じゃねーよ!」

「…やってみな」


青峰の速さと切り返し。誰も付いて行けないと思ったところで、抜かれかけた涼太くんが、止めに入った。
でも、そこで終わらない青峰はそこからフォームレスシュートを放つ。涼太くんも負けじと、ジャンプして、完全にボールを捉えた。


青峰を完璧に止めた!と沸く場内。

「さすがにたまげたで。1on1で青峰止めた奴、初めて見たわ」

「まさか、マジで止めるとはな」

「青峰っちと毎日1on1やって、毎日負けてたのは誰だと思ってんスか。あんたのことは俺が一番よく知ってる」

「なるほど」












“青峰っち、勝負っス!”


“もっかい! もっかい!!”


“やぁだよ! 今日は終わりだ。もう何時だと思ってんだよ”


“くっそー”











あの頃も1on1を遅くまでしていて、さつきとよく見てたのを思い出す。
負けて悔しい筈なのに、涼太くんはあのときから笑っていた。






さつきの先読みディフェンスで、エース以外のところに影響が出るかと思われたが、分かっていても止められない速さで挑んだ笠松さんのプレーで、18-13、海常リードで第1Q終了した。


これで流れは完全に海常に行った雰囲気。



「まさか青峰、また手ぇ抜いてたりしねぇだろうな」

「いえ、おそらく本気です。黄瀬くんが、それを上回ってるとしか」

「海常リード…正直驚いたな」

「あぁ」

「黄瀬がここまで青峰を圧倒するなんて。確実に強くなってる」

「一ついいか?」

木吉先輩が質問を投げかける。

「ん?」

「お前ら、どうやって海常に勝ったの?」

「う…」

「…気合い、とか」

「…うぅーん」

「青峰くんが本気とは言いましたが、彼は、尻上がりに調子を上げて行く傾向があります。そして上げるとしたら、そろそろだと思います」

『…そうだね、動きがそろそろ上がってくるころかもしれない』



そして第2Qが始まった。

「あと一つ、忠告しとくわ。誰が相手でも、青峰は負けん。最強はあいつや」

「何企んでるか知らないが、うちの黄瀬だって」

「ははっ、企む? そんなもんあらへんよ。企みなんてもんは、ワイらみたいな小物がやることや。格の差や、単純にな。理由なんぞ、いくらでもある。例えば、敏捷性、アジリティ」

今吉さんが話している間にでも、青峰は涼太くんをカットした。
さっきよりやはり動きが上がっている。

「読まれてる…いや、それよりも、速い!!」

「俺のことを一番よく知ってるって言ったか?逆は考えなかったのか?」

今度は青峰オフェンス。

「左、からの右クロスオーバ!」

止めた!と思った涼太くんだけど、更に逆に行く青峰。

「そして、スキル」

読み合いでは涼太くんが勝っていたはずが、重心の変化から、強引にもう一つ切り返した青峰。さらにバスケットカウントも取り、あっという間に18-18の同点になった。


海常オフェンス。ボールはやはり涼太くんに集める。

「わからん人やなぁ、おたくの黄瀬くん。人真似はうまいみたいやけど、そんだけや。黄瀬くんが勝てん最大の理由、彼だけの武器が無い。ただのバスケで青峰に勝つのは不可能や」

「なぁ、あんた、よく性格悪いって言われねぇか?」

「おっとぉ? いきなり厳しいやんけ」

「わかってねぇのはあんたのほうだよ。技術を真似て身に着けるってことは、学ぶってこと。つまり、成長するってことだ」


笠松さんのターンアラウンドを真似て抜こうとした涼太くんだけど、青峰はやはり追いついてくる。




ここで海常はタイムアウトをとった。




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