『第9章』夏合宿編







夕飯後、テツヤくんが火神くんを追いかけて出ていったのを追いかけた。
砂浜でランニングする火神くんに併走するようにテツヤくんは走り出した。


「冬までにやることは決まった。何度でも飛べる足腰を作ることと、左手のスキルアップ。俺は空中戦で、自在に動けるようになる!ただ、それを緑間に気づかされたのがムカつくぜ。だから走ってた。けどやっぱ、どいつもこいつも強ぇな、キセキの世代。緑間のディフェンス一つとっても、右で飛ばされただけだ」


「いえ、逆に言えば、それだけ火神くんを警戒してたとも」





“お前にできることは本当にそれだけか”

“ひとりで戦えない男が、ひとりで強くなろうなどできるものか”





「火神くんは、キセキの世代に空中戦なら勝てるかもしれません。けど、地上戦で勝てないかもしれません」

「んだとっ」

「それに、僕のパスも通用しません。火神くんがダメなら、今の誠凛で相手をできる人はいません。けど、今思い付きました。火神くんとみんなを生かすための、新しい僕のバスケ。パス以外に、僕だけのドライブを習得して、僕がキセキの世代を抜きます」



『…見つけたみたいだね…テツヤくんの新しいスタイル…』
















宿に戻った私は部屋に戻らず、外の入り口に座っていた。



明日はインターハイの準々決勝、この辺りで行われると泪からきいた。
インターハイ…涼太くんと青峰、そしてむっくんと征十郎がこの辺にいるはずなんだ。





でも連絡はしない。





だって、もしも私が行ったら、彼は見つけることができると言っていた。


本当なら連絡をして、行くということを伝え、確実に会いたい、顔が見たい。
でもそれはなんとなく、今の彼を認めてしまう気がして、敵なのに、わたしの好意を優先してしまうことになる。


それはなんとなく、負けな気がする。


そう、なんとなく……。



このネックレスはもう肌身離さずつけている。
これをくれたのは変わってしまった後の彼だけど、それでもこれをくれたときは、微かに前の彼を見た気がした。







“ あまり他のものたちと仲良くしすぎるな、これは僕のものであるという印にもなる”








『でも、そばにいてくれないのにね…これは首輪なのかな…私がどこにもいけないように…』








最近は目を瞑ると、インターハイ敗北した日を思い出す。









“雫っち…好きッスよ、大好き”



“オレが赤司っちの代わりにそばにいてあげる、支えてあげる…だから、泣かないで?”






涼太くんは征十郎が変わる前から私への想いが変わっていないんだと、あの日わかった。
彼はいつでも全身全霊で私に向き合ってくれた。






あれ、私…征十郎のことと同じくらい…涼太くんを思い出している…?











「雫ちゃん、寒くなってきたから風邪ひいちゃうよ?」

『伊月先輩…?』

「なにか考えごとか?」

『…いえ…そういえば伊月先輩も聞いていたんですよね、インターハイの日の…日向先輩には話したんですけど…』

「あぁ、日向から聞いたよ、カントクも知っている。WCしかチャンスがもうないことも…。オレは嬉しかったよ、雫ちゃんが、誠凛で勝ちたいと言ってくれて、オレたちを選んでくれて」

『…伊月先輩…私もインターハイで気づいたんですよ、彼に勝つためにみんなが必要なんじゃなくて、日本一になるのにみんなの力が必要なんだって…』

「俺は、イーグルアイ以外、大した取り柄も無いけど、それだけじゃダメだと思った。とにかく、バスケを知らなすぎる。秀徳は、全体でも個人でも、目的がはっきりしてて、漠然と練習して無い。そういうところが、秀徳の強さなんだろう。帝光にしてもさ、キセキの世代は、天才以上に、みんな自分のバスケがある。伝説のバスケ部でレギュラーを勝ちとるってのは、才能だけでできるほど、甘くないんだろうな」

『それで最近練習後にも…オーバーワークになります、休む時は休まないと、ダメですよ?日向先輩も、みんな最近無理しすぎです』

「はははっ、オーバーワークなんてならないさ、その前に雫ちゃんやカントクが気づいて止めてくれるだろう?」

『もう、私たちがストッパーになれってことですね?』


まったく、アナライザーアイと、わたしの聴覚の変化への気づきに頼るなんて…。まぁそれが私のマネージャーとしての役目だけど…


「…黄瀬は本当に雫ちゃんのことが好きで仕方ないんだね、あの日そう思ったよ」

『…すごいですね、伊月先輩はなにで悩んでいたかわかっていたんですね』

「考え事がインターハイのあの日のことだと思ったからね、その変えたい人のことを考えているのか、黄瀬のことか、どちらかだと思っただけだよ」

『…両方考えていました。明日、ここからインハイの会場近いので…もし見に行くことがあれば、会うのかもしれないと…』

「なるほど、そういうことか…。まぁ俺たち仲間は、雫ちゃんを無理やり転校なんてさせたくないし、幸せに過ごせるなら黄瀬でもその相手でも、黒子でも火神でもいいんだよ」

『何言ってるんですかもうっ、みんな優しすぎるんですよ…私の幸せとか、みんな…考えてくれていて…っこのチームでよかったです、本当に』

「悩むくらいならオレでも日向でも、誰にでも打ち明けてくれて構わないからな」










本当に誠凛の先輩方はみんな優しいです…
だから、ずっとこのチームで過ごしていきたい。






『ありがとう、ございますっ』






大好きです、誠凛高校バスケ部が…




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