『第9章』夏合宿編
夜、泪くんと真ちゃんと3人で自主練していた。
まぁ、泪くんから自主練という名目で、呼び出されただけだけど…おそらく真ちゃんは鈍いから気付いてないはずだ。
「でー?泪くん、わざわざ俺たち呼び出して、どうするつもりなのさ」
「ん?和くんなんのことかな?」
「自主練と言っていただろう、馬鹿め」
「あははっやっぱりいいコンビだよね2人とも、バランス取れてる…向こうが火神くんと黒子くんを影と光というなら、君らもそんなかんじ!」
「…高尾となどごめんなのだよ」
「でったー、真ちゃんツンデレ!…で、しーちゃんのことでしょ?なに、なんか隠してることでもあったりして?」
「む?藍澤の…」
泪くんとは長い付き合いだ、真剣な話で言いにくいことは、目線を合わせずボールに触りながら話す。いまもそうだ、何かするわけでもないのに、ボールに触れて、俺らを少し伺っている。
「…雫から言いにくいことなんだ、別に黙っていたわけでも隠しているわけでもないはずだ、ただ心配と重荷を恐れているだけ」
「…だから今から聞く話を聞いても、なんで黙ってたってしーちゃんを責めるなってことか」
「そ、話早いね和くん。緑間くんにも聞いて欲しいんだ、なんせ“彼”のこともよく知っているだろうしね」
「彼…というと?」
泪くんはこっちに目線をよこした。話すことを決意した現れだ。
「雫の目的、それは彼…赤司くんを元に戻すことだ。それは2人とも知っているなよね?」
俺と真ちゃんは静かにうなずいた。
「雫と赤司くんはある契約を結んでいる。そのことは?」
「契約?…聞いてないけど…なにそれ?」
「俺も聞いてはいない…が、赤司のことだ、なんの布石も用意せず、藍澤を誠凛に行かせるなどあり得ない話なのだよ」
「うん、そう。緑間くんのいう通り、彼が雫に与えた期限は1年間。要するに、次のウィンターカップだけしかチャンスはない」
「は!?」
俺だけ驚愕した。真ちゃんはやはりそうか…と言った、苦虫を潰したような顔だった。
「じゃあなんだよ、もしWC負けたら、しーちゃんは赤司くんを諦めるしかないってことか?それとも、誠凛バスケ部を辞めるとか?」
「そんなはずないだろう、赤司は藍澤に深い執着心を持っている…誠凛バスケ部どころか、誠凛を辞めて自分の元へくるように仕向けるはずだ」
「は!?転校させるっていうのかよ!?しかも確か相手は…京都だろ!?」
「そう、緑間くんのいう通り。俺と和くんが雫のことを理解しているように、緑間くんは彼をよく理解しているようだね…。俺はこの件で別に赤司くんに怒っているわけではないよ、そこまでして雫を好いているのであれば問題はないさ…ただ…“困るんだよ”」
「もし雫が彼に負けてしまって、彼を戻せず、彼に従うだけの彼女になってしまうと、“雫”が生きなくなる…それは困るんだよ」
泪くんはから笑いするかのように話した。表情は月明かりが陰って見えなかったが、泪くんの様子も少しおかしい。なにか、思い詰めて笑っているかのようだ。
「…それで、なぜ俺と高尾に話を?」
「そう、ここからが俺の頼みだ」
「誠凛だけで彼を戻すことができればそれでいい。だけど届かないこともあるだろう。そのときは君たち2人…秀徳も赤司くんを戻すために敗北を教えてくれないかな?」
「…もちろん俺はそのつもりですよ、元から、赤司と当たることがあれば全力でかかりますから」
「俺だってそうだよ、つーか言われるまでもないぜ!?」
「…そうだよな?そうだよな!当たり前のことを俺はわざわざ呼び出して頼んでいるんだよ。彼を戻さないと雫は永遠と幽閉される。それを止めるためにな…2人の連携プレーや秀徳はかなりいい調子だとおもう。俺はその両チームの勝利とためなら協力は惜しまないよ」
そして泪くんは茂みに目をやった。
俺は気を取られて気づかなかったが、今ならわかる。いつのまにいたんだ?
「だから、誠凛の君たちを信用してないわけではないからね?俺は俺のために保険をかけただけだ。勘違いはしないでくれ。俺はこの両チームどちらかが日本一になってくれればそれでいい」
茂みから火神と黒子がでてきた。
「…あんた、俺と黒子がいるのわかって話してたな?期間なんて関係ねえ、俺はいち早くこのチームで日本一になるだけだ!!ちょうどいいさ、WCがそのいち早くだからな!」
「…はい、その通りです。緑間くんたちにもなので負けるつもりはありませんから」
「火神と黒子…。望むところなのだよ」
「しーちゃんを京都になんか行かせるかよ!そんでお前らにも勝つってーの!」
「…良きライバル同士、頼んだよ。俺からの話は終わりだ。明日も合同練習よろしくな?」
泪くんもたまに思う…
彼もたまに雰囲気が変わる。
おちゃらけたような雰囲気の時もあれば、なにかたくらんでるような雰囲気のときもある。
俺の勘違いか?
しーちゃんの気持ちが赤司にあったとしても、執着だけでそばにただ置いておくなんて許せねえ。
彼女はやっと人間らしく成長したんだ。
仲間がたくさんできて、信頼もしているはずだ。
それを壊して赤司のそばで彼の独り占めなんてさせるもんか。