『第9章』夏合宿編





「俺たちは今、重大な危機に面している」


と日向先輩が話しだした…
どうやら合宿二回行うために、宿は格安の民宿にし、食事は自炊とのこと。

「リコの料理の域を完全に超えている」

「食べ物じゃない」

そして練習メニューが殺人的すぎて夜は誰もまともに動けないとのこと。

そして、去年のことを思い出して吐き気を催す小金井先輩…


「でも今年は!!!」

「「「雫さまがいる!!!」」」



『あ、私作るでいいのですか?』


「いや、むしろお願いします」

「よそわせるのもだめだ、なぜかリコがよそうとまずくなる…」

「それどんな魔法ですか」


『…そんなに凝ったもの作らないですけど…大丈夫ですか?』

「雫さんの差し入れとか、お菓子とか美味しかったので安心できます」

「黒子のお墨付きかぁぁてか食ってたの羨ましい!!」

「いや、合宿は俺らも雫ちゃんの手料理が食えるわけだ!」

『あ、がんばります…っ』


(((鬼のメニューに唯一の癒しだ…)))












「え、この日に合宿?オレもだよ」

『泪も?具体的な場所はわからないけど、海の方なんだ』

「うちは毎年同じところだからな」

『じゃあこの日は家空くね、奏さんにいっておこう…あとその前に料理教わろうっと』

「え、なに雫がつくんの?」

『うん、民宿を格安にしたらご飯なしなんだって、だからマネージャーの私が作るの』

「…まじか、いいな」

『…泪シスコンだったっけ』









そしてやってきました夏合宿!


「おぉぉ、磯の香りが…急がねば」

「伊月黙れ」

「泳ごう~!!!」

「合宿だ、だアホっ!」

「ガキども、娘に手ぇ出したら、殺すぞ」

リコさんパパこわいなぁ…。
そして砂浜の上に置かれたバスケットゴール。
砂浜でバスケをやるみたいだ。
選手一人一人の個人能力の向上が目的とのこと。一つ一つのアクションの土台は足腰強化、そのための砂浜練習だ。
砂浜では、砂に足を取られる、ドリブルができない、バウンドでのパスができない、砂に力を吸い込まれて思うようにジャンプができない、
というかなりの悪条件なのだ。



そして、夕方からは体育館で練習。
人間が地面を蹴るのに一番重要な親指の付け根に、力が集約されるようになった。
砂浜練習の本当の目的は、これだったみたい。さすがリコさんだ。
そして、火神くんも、ジャンプして、普通にシュート。

「今のはダンクいけよ~」

「タイミング合わなかったのか?」

「むしろぴったりだったんじゃねぇのか?いや、飛びすぎをためらった?」

みんなすごく身体能力がうまく引き出されるようになったみたいだ。


そして私はみんながストレッチやお風呂に入っている間に夕食の支度に入った。
今日は無難にカレーライスだ。


『どうぞ、召し上がれですっ』

「うわ!うまそ〜」

「野菜むいてある…肉に火が通ってる…」

「米もふっくらだ…」

…さすがにそこは当たり前じゃないか?と思いつつ、みんなおいしいと完食してくれた。





そして私もお風呂に入って、少し湯当たりしたので外で涼んでいた。


「…雫さん、隣座ってもいいですか?」

『テツヤくん、涼みに来たの?どうぞどうぞ』

彼は私が座っている階段の隣に腰を下ろした。


「ずっと謝りたかったんです、桐皇戦負けてしまった時から…。全国連れて行けなくて、すみませんでした…」

『ううん、テツヤくんが謝ることじゃないよ、それよりウィンターカップに向けてやれることをやるしかないよ…どう?この間話してた、何か自分の手がかり見つかりそう?』

「…今はまだなにも…ちょっと焦ってきました」

『そっか…まだ時間はあるし、新しいスタイルを掴むまで色々試したりするしかないね』


「そうですね。それにしてもおどろきました、まさか赤司くんに1年間という制限を設けられていたなんて…IHのこと、連絡はしたんですか?」


『…うん、電話で伝えたよ、もっと冷たくされると思ったけど、意外と優しかったから戸惑っちゃったけど、やっぱり勝利主義の考えだったや』


「…そうですか。」


『テツヤくんも、青峰やみんなにバスケを楽しくやってほしいだけなのにね。またみんなで笑顔でできたらいいのにな…。』


「そうですね。そのためにも、チームで自分がなにをすべきか、考えます」


そろそろ戻ろうか、と立ち上がろうとしたところで、立ちくらみがおきた、が、テツヤくんが支えてくれたおかげで倒れずに済んだ。



『…っごめんテツヤくんっ』

「いえ…大丈夫ですか?」

『あ、うん、少し立ちくらみしただけだよ、ありがとう』

「…雫さんは、赤司くんのこと、まだ好きですか?」







『……私は彼のこと好きじゃない自分が今はもう考えられないんだ…』











「…そばにいても僕の入る余地はどこにもなさそうですね…。でも僕は雫さんの1番の理解者でずっといますよ」



テツヤくんの声は届かないように小さかったけど、私の耳にはしっかり届いていた。




ーーーーーーーーーありがとう、テツヤくん。






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