『第8章』IH予選後の軌道修正
誠凛体育館にて、日向先輩に呼び出されていた。
自主練したいのも本音だと思ったので、自主練しながらでいいと伝えた。
「…この間の予選最終日、実は雫ちゃんを探すようカントクに言われて、伊月と黄瀬といるところをみつけたんだ」
『はい、来てくれましたよね…私もどこから話を聞かれていたのか、少し不安だったんです』
「黄瀬がきてからは結構しっかり聞いちまってた…出るタイミング逃したっていうか…聞き耳立てたようで悪いな」
『いえ…黄瀬くんにも会うと思っていなかったので…』
「正直、伊月と思ったことは、負けちまって申し訳ないと思ったよ…桐皇戦が響いていたといえ、あと一歩の試合もメンタルで勝てなかったってのもあるし、雫ちゃんのおかげで目が覚めたのは確かだ。一歩遅かったけど、俺らは持ち直すことができた…」
「聞きたいことは2つだ、もちろん、答えたくなかったら無理に言わなくていい。ただ、俺らのことを雫ちゃんが信用してくれてることも知ってる、そして俺らも信用している。それだけだからな」
『…はい…っ』
“でも…っでも、征十郎を変えたかった…!!”
“1年間で、変えなきゃいけないの…っ”
「…変えたかった人…と、1年間っていうその期間はなんだ?」
私が答えようとすると、体育館の入り口にテツヤくんが入ってきた。
『…そうですね、テツヤくんにもちょうど話さなければいけないことですね』
「え?黒子は知らねえのか…ていうか今…うお!?いるし!!」
「すみません、僕も主将に話したいことあって、邪魔するつもりはなかったんですけど、…1年間ってなんですか?」
『テツヤくんにも話していない期間のことです。…まず、変えたかった人…それは私の大切な人です。彼は東京にはいませんが、全国には必ずくると思っています。私はその人に勝って、彼の勝利主義を変えたいんです』
「それは…キセキの世代のやつか?」
『はい…あることをきっかけに、彼はチームプレーやバスケの純粋な楽しさをなくしてしまいました。勝つことがすべてになってしまったから…だから私はチームプレーで彼に勝ち、前の彼を取り戻したいんです』
「…なるほどな、その相手が誰だとか、どこの高校かなんていうのはまだ聞かねーよ、俺らは全国に連れて行けなかった。なのに聞くなんてのはおかしな話だからな」
『いえ…いずれ話すことにはなるでしょうし、その時はみんなにお話しします。…そして期間のことですが、これはテツヤくんにも言っていないことです』
「1年間ってどういうことですか」
『彼には同じ高校にくるように言われていましたが、私はテツヤくんと誠凛にきました。彼にチームプレーで勝って元の彼を取り戻したいことも伝えています…が、彼は1年間でできなければ、私を転校させ、彼のところへ置くつもりです。それが誠凛にいく条件でした』
「は!?え!?なにそれそんな権利…」
「…いえ、おかしいと思ってたんです。彼が雫さんを3年間も手放すわけありませんから」
「て、ことは脅しとかではなく、まじでさせるつもりなのか…?」
(あり得ねーだろおい、どんな暴君だよ!)
『皆さんに変なプレッシャー与えてしまうと思い、言わないでおきました…』
そして日向先輩の言葉を待たずして、テツヤくんが話した。
「僕はこの先、誠凛の足を引っ張るだけです。
だから、木吉先輩をスタメンにしてください。雫さんの願いの足もひっぱりたくないです」
その言葉にテツヤくんの頭を叩く先輩。
「調子こくな、だアホっ!スタメンから外せだぁ? ベンチのヤツらのことも考えろよ!んなもんお前が言うな! 言うならこっちから言うわ」
「でも」
「ダメったら、ダメだ!」
そして、ため息をついた後、語りだす日向先輩。
「木吉の創部当初のスタイルはな、コテコテのセンターだったんだよ。身長が一番デカかったっていうのもあるが、うちではあいつしかできなかった。けど木吉が一番得意なのは、周りを生かすプレー、ポイントガードだったんだ。チームのために自分がセンターをやるのがベストだと考えつつも、本来のポジションでないがゆえの限界も感じていた。けどある日…」
“ゴール下の司令塔”
としてやるべきことを両方やったんだ。
それが結果としてうまくいったと。
「木吉とお前は違うけど、お前にできることは本当にそれだけか?ま、無理矢理やらせるもんでもねぇし、これ以上は言わねぇ。けど、どうしてもダメなら火神くらいには言っておけよあいつは、お前のこと信じてたからな」
『火神くんは、テツヤくんに頼りっぱなしで強くならないと思ってる。テツヤくんももっと強くなると信じて、彼も個人で強くなろうとしてるんだよ…?』
「!…すみません、ありがとうございました」
「おう、もういいのか?」
「はい」
『火神くんはストバスコートにいるとおもうよ?』
“でも、私は…っ誠凛で、勝ちたい…っ”
「雫ちゃんは、負けた俺らでも見捨てず誠凛で勝ちたいって言ってくれてた、その意味を考えろよ!黒子!」
『先輩っそこまで聞いてたんですか…っ』
「はい、ありがとうございます。雫さん…。僕も誠凛に入って良かった。先輩はみな素晴らしい人たちで、一緒に頑張る同級生もいい人たちばかりで。火神くんは僕を信じてくれた。僕は帝光中シックスマン、黒子テツヤじゃない。誠凛高校一年、黒子テツヤです」
「自分の為に、誰かを日本一にするのではなく、火神くんと、みんなと一緒に日本一になりたい。そのためにもっと強くなって、キセキの世代を倒します」
『!うん、そうだね、みんなと一緒に、日本一になろうね』
「この気持ちを、火神くんにも伝えてきます!」
そして彼は体育館を出ていった。
『日向先輩、さっきの話、リコさん含め、他の先輩にも話しても大丈夫でしょうか…?』
「あぁ、むしろ頼む、みんな心配してたかんな。その話聞いたからって、もう俺らを利用してるとかそんなん思うやついねーから安心しろ」
『…っありがとうございます』
またひとつ、モヤモヤが消え去り、夏休み合宿前にみんなに打ち明けることができた。
テツヤくんも新しく火神くんと分かち合うことができたみたいで、調子を取り戻していった。