『第8章』IH予選後の軌道修正
そして、一週間後、火神くんが練習に戻ってきた。
『おかえり火神くん』
「…おう!」
「てめぇ火神、マジであれから顔出さなかったな」
クラッチな日向先輩に移行するかと思われたけど、殊勝に謝る火神くんに、ペースを乱されたようで、丸く収まった。
木吉先輩も今日から練習…
「さ、練習しようぜ」
なのだが、なぜかユニフォーム姿だった。
日向先輩にもツッコミ入れられていたけども
「久しぶりの練習で、テンション上がっちまってよぉ」
「やる気あんのか? あんのか?」
「おう」
「あんのかぁ」
「鉄平、もう大丈夫なの?」
「あぁ、もう完璧治ったよ。ブランクはあるけど、入院中何もしてなかったわけじゃぁ無ぇよ?」
「お、何か学んだのか?」
「あぁ、花札をな」
『は、花札…ですか?』
「相部屋のじぃちゃんに習ったんだ~」
「…だから?」
「面白いぜ?」
「バスケ関係無ぇじゃん!」
と突っ込む日向先輩と伊月先輩。
「あと、これだけは言っておこう。なけなしの高校三年間を懸けるんだ、やるからには本気だ。目標は勿論。…どこだ!!」
「は?」
「や、インハイの開催地って、どこ?」
「毎年変わるし、もう負けたわ!今目指してるのはウィンターカップ!」
「それは、今年どこ?」
「東京です、毎年ね!」
バスケ部を作った人と聞いてリスペクトしていた1年生たちも、どんどん木吉先輩に対するイメージ崩壊が進んでいるようだ。
「ま、とにかく、山登るなら目指すのは当然天辺だが、景色もちゃんと、楽しんでこうぜっ」
練習開始したけども、やはり火神くんの様子が少しおかしく、ピリピリ、1人プレーが目立った。
「あいつ、やけにピリピリしてない?」
「あぁ、最初は集中してるせいだと思ったけど、どうも違う。入部したてん時に戻ったみたいだ。まるで周りに頼ろうとしない。ひとりでバスケやってやがる」
『…火神くん』
きっと、青峰に負けてヤケになっているというよりは、ただ強くなりたいと思っている。そんなかんじだ。
火神くんには問題はないようにみえる。
引きずってるのはむしろ……。
「なぁ、火神くん。俺も、早く試合に出たいんだけどさ。上級生だからって、戻ってすぐ出してくれってのも横暴だと思うわけさ。だからよ、勝負してくんね? 1on1、スタメン賭けて」
木吉先輩が火神くんに勝負をしかけた。
「はぁ、変わってねぇなぁ。だからやなんだよ、あいつは。いつだって全力で、バスケバカで、ボケてて、そんで…。いつも何か企んでる…」
日向先輩も木吉先輩は止められないみたいだ。
そして勝負は火神くんが勝った。
ただ木吉先輩は背が高いのに、身のこなしも速くて、火神くんも驚いたようだったけども…。
火神くんは終わったらすぐ練習を切り上げていた。
「何考えてんだよ、木吉」
「いや~、強いな、あいつ」
「あんたが外れてどうすんのよ!」
「しょうがねぇだろ、ブランクなんて言い訳になんねぇし。これが実力だ」
「実力だ、じゃねぇよ。ボケすぎだ。足元見ろ! それ上履きじゃねぇか、だアホっ」
「ったく、まさかわざと負けたんじゃねぇだろうな」
「いっけね」
「素かよ!」
今日は練習試合、夏休み前の合宿の課題をみつけるため、リコさんがたくさん組んだうちのひとつだ。
ただ、今日はスタメン全員1年でやるという…
この件も、どうやら木吉先輩が絡んでいるようだ。
「あいつがどうしてもってね、一年生の試合も見てみたい、って」
「木吉、何だよ、一体」
「ん~?」
「俺にはわかる、木吉の考えが。この試合、多分負けるでしょ?最近火神はプレーが自己中になってる。けどそんなんじゃ勝てない。だからわざと負けさせて、ひとり強いだけじゃ勝てないことを教えるつもりだった」
「なるほど。すっげぇなコガ」
「え~、だってさぁ」
「まぁ、なくはないけど。あいつって、そういうの言わなきゃ気付かないほど、バカなのかな。迷いや悩みは、感じなかったけどな、俺には。むしろ何かに気づいて欲しいとしたら、彼の方だよ」
『…木吉先輩ってとても鋭いんですね、このすこしの期間で、あの2人になにがあったかよく知らないはずなのに、よく見ている…羨ましいです』
「ん〜?そうかぁ?俺は雫ちゃんの方がすごいと思うけど、火神のことも黒子のことも気づいてるんだろ?」
『…私は見てましたし、テツヤくんとも付き合い長いので…』
試合展開は、始まる前に火神くんがテツヤくんに自分にパスを出すなと言ったことで、黒子はパス先を探して、連携がうまくいっていないようだ。
結局試合は43-41で誠凛が勝った。
が、喜ぶみんなの横で、やっぱりひとりテツヤの様子がちょっと変だった。
練習試合後、私は日向先輩に呼び止められた。
「雫ちゃん、このあと少しいいか?話したいことがあるんだが…」
『はい、私も話したいと思っていました』
「えっ、なに?なに?まさか!?こくは…」
「だ、だアホ!ちゃうわ!コガたちは帰ってろ、マネージャーには俺の自主練に付き合ってもらうだけだ…」
「ほら、いくぞコガ」
そうしてなにやら騒いでいる小金井先輩を伊月先輩が連れ出していた。
その様子をテツヤくんが見つめていたことも知っていた。