『第8章』IH予選後の軌道修正
IHに行かないことが確定したあとも、もっとどん底に落ち込むかと思われた雫は、すこし元気はないが立ち直ったみたいだ。
赤司くんが遠くに居ても、立ち直れるようになったのは雫自身の力か、雫の周りの影響か…。
どちらにしても簡単に壊れてしまっては困る。
俺には彼女を強くさせないといけない義務があるからだ。
「夏休みのあいだだけでも、選手ってのは成長するもんだからな。冬のウィンターカップに向けて、頑張れば赤司くんとも戦えるさ」
『泪…そうだね、IHだけがすべてじゃないもんね…』
「ひとつ壁にぶち当たったと思って頑張ればいいさ、お前も、誠凛もな」
『…うん、今ちょっとまとまってない気がするから、乗り越えられたらいいなって思ってるよ』
「…お前がそんなに強くなって…お兄ちゃん嬉しいぜ…っ!」
『あ、うん…それはよかった』
「つめてーなおい、あ、夏合宿俺、秀徳のOBとして行くからよ、日程決まったら言うからお前も合宿日決まったら言えよ?」
奏さんに言わないといけねえからな、と泪は言っていた。
合宿…強くなりたいな、私も。
そして通常通りの練習が戻ったと思ったが、やはりテツヤくんは青峰との勝負を引きずってるみたいで、ミスを引き起こしていた。
(まるで帝光中時代の一軍予備軍入ってすぐのときみたいだわ…)
そして火神くんは2週間の安静とのことで、練習は見学しろって言われているようだが休みみたいだ。
リコさんは練習に身が入ってないみんなを呼び出して、はっぱをかけた。
「次はもう負けられないわよ。わかってる? 冬は寒いわよぉ…」
「え? 冬?」
「そうよ。高校の頂点を決める戦いは、夏のインターハイ、そして冬の選抜、その年の最強を決める、最大最後のタイトル、通称ウィンターカップ。すべてをぶつけるのはそこよ!」
「今年、最後のチャンス、か」
「これで冬もダメだったら…全裸やるぞマジであの女は」
そしてちらっと日向先輩と伊月先輩が私の方をみる。…もしかしてこの間の、聞かれてたりしたのかな?
「そして…もうすぐあいつが帰ってくるわ」
『あいつ…ですか?』
「木吉鉄平!このバスケ部を作った本人よ!」
「え、マジ?」
「こりゃぁ、いろいろ起こるかもな」
練習後、テツヤくんがすこしボールに触っていくと言っていたので、ただ見ていた。
シュートの練習も珍しくしている。
帝光中のときも、たしか青峰が練習に来なくなってからこうなってシュートの練習してたな…
すこしデジャヴに感じる。
すると二号が誰かのところへ走っていった。
「何かコイツ、君と似てない?聞いていた通り、パス以外はからっきしなんだな」
「けど、いいんじゃねぇ? 俺は好きだよ、君のバスケ。間違っちゃいねぇ。ただ、まだ未熟。そんだけじゃん?」
もしかしてこの人が…木吉先輩…??
「飴ちゃんいる?」
『あ、ありがとうございます…』
「けっこうです」
「どちら様ですか?」
「木吉鉄平」
「木吉さん、ですか」
「この~木何の木気になる木~♪の木に、大吉の吉で、木吉さ」
「あぁ、はい」
「で、鉄アレイの鉄に、平社員の平で、鉄平だ」
「…あの、何か御用ですか」
「君は面白い」
「え?」
「バスケってのは、ジェネラリスト、つまり、何でもこなせるヤツのスポーツだ。乱暴な言い方をすれば、パスを出せるスコアラが5人いればOK。まぁ、そうもいかねーからポジションてもんがあるわけだし、スペシャリストは、シックスマンに置いたりする…。が、君ほど極端なスペシャリストは見たことが無い」
「あそこまで徹底して、一つのことを極めたのは驚異的だ。君は、そこが限界って、自分で決めつけてねぇか?ま、そんだけ自分を客観的に見て、割り切ったプレーをしてるのは大したもんだよ。けど、割り切りすぎかもよ。俺らまだ高校生だぜ?もっと自分の可能性を信じても、いいんじゃねぇの?」
とか、ひとりごと言ってみたりしてな~。と、木吉先輩はただ黙って聞いていた彼に話していた。
でもどうやら、テツヤくんの中にも何か響いたみたいだ。
この人は…一体どんなプレーをするんだろう。
純粋に気になった。