『第7章』IH桐皇戦
試合終了後、観客席では黄瀬と緑間が話していた。
「じゃあな、黄瀬」
「速っ。ちょっとはショックとか無いんすか、この結果に」
「俺より、黒子と藍澤の心配をしたほうがいいのだよ」
「え?」
「青峰に黒子のバスケは全く通用しなかった。
精神的にも、そうとうなダメージだろう。しかも誠凛はまだ若いチームだ。この修正をひと晩でするのは容易では無いのだよ。残り二試合に影響が無ければいいがな…藍澤も、残り二つの試合に影響が出たら、赤司に会えないのだからな」
試合終わった後のロッカールームはとても静かだった。そしてみんなが出て行ったあと、火神くんはテツヤくんに声をかけた。
「なぁ。これが、限界なのかもな。正直、もっとやれると思ってた。けど、このザマだ。圧倒的な力の前では、力を合わせるだけじゃ、勝てねぇんじゃねぇのか」
テツヤくんは、その火神くんの言葉に、帝光時代の青峰の言葉を思い出したようだ。
“テツ、お前の言ってたことは、間違ってねぇと思う。けどやっぱ、ダメだわ。俺の欲しいもんは絶対見つかんねぇ。俺に勝てるのは、俺だけだ”
そして火神くんはロッカールームを出て行った。
『火神くんは青峰とは違うよ…?だから重ねないで、真意を確かめたほうが……』
「わかってます、わかってますよ…」
『…テツヤくん…』
火神くんは決別ではなく、意思のように感じた。でも、テツヤくんはもう青峰の時と重ねてしまっているようにみえる…。
そして残り2試合、勝てばIH出場だった。
けど、火神くんの欠場と、テツヤくんの不調により、チームバランスは崩れ、残りの2試合も負けてしまった。
「…やはり桐皇戦が大きく響いてるわね…」
『IH、いけないんですね…』
「…、雫ちゃ…」
『…っ、先に帰っていてください…』
「ちょ、マネージャー!?」
「雫ちゃん?どこいくの?」
「…スタートラインにも、立たせてやれなかったな、俺のせいだ」
「火神くん?」
「……すみません、僕のせいです」
「…だアホ、明日からまた練習して、リベンジするぞっ」
「とりあえず、雫ちゃんが心配だわ…だれか…」
様子を見ると、どうやら1番行って欲しい一年コンビはダメそうだ。
「日向くんと伊月くん、見に行ってあげてくれる??」
わたしは外の会場裏のすみで膝を抱えていた。
負けてしまった、わたしも心のどこかで、4校中3校なら勝てると思っていたのかもしれない。
こんなに青峰に勝てなかったことが、試合に影響するとは思えなかった。
征十郎に言わないと、青峰に負けてしまった、戦えない、と。
でも、やっぱりチームプレーなんて幻想とか言われたらどうしよう。
やっぱり前の征十郎じゃダメで、変わった後の方が正しいと思われたらどうしよう。
『…ぁぁ……っうぅ….』
手に持つ携帯が震える。
私の手が震えているんだ。
涙が落ちてくる…
「……!…雫っち…」
『りょ…たく…』
(何でここに…)
「今日の試合結果みて、心配になって探してみたっス…探しにきてよかった」
そして彼はしゃがみこみ、私を覆うように抱きしめた。
『…負けちゃった…っ』
「うん」
『青峰にも…、全国にも届かなかった!!』
「うん」
『征十郎にも…届かない…っ』
「…うん」
『青峰に、オレのところ来たほうがよかったって言われたんだ…っ』
「そっスか…」
『でも、私は…っ誠凛で、勝ちたい…っ』
「そっスね…分かってるっスよ、もう…」
(だからもう、海常に来てなんて言わない。彼女が今の居場所を好きなの知っているから)
『でも…っでも、征十郎を変えたかった…!!』
「うん…まだチャンスはあるっスよ…IHだけじゃあない」
『……1年なの』
「?何がっスか?」
『1年間で、変えなきゃいけないの…っ』
(1年間?3年間ではなく?…確かに、赤司っちが彼女を3年間手放すとは思えなかった。ていうことは、まさか!!??)
「…もし負けたら、まさか行くっスか?向こうに…?」
雫っちは静かに頷いた。
『私、誠凛のみんなで勝ちたいっ…』
いいな、誠凛のみんなは、こうやって信じられて、縋られて…オレならもっと頑張るのに、もっと近づくことできるのに…
「歯痒いったら、ありゃしないっス」
オレはただ泣きじゃくる雫っちを抱きしめて、頭を撫でた。
こーゆうことも彼氏のするべきことなのに…本当赤司っちは何やってるんだか…
脅して、悲しませて、彼女を縛って…こんな状況でも、駆けつけられずに知らないでいるなんて…
「雫っち…好きッスよ、大好き」
『…っ涼太くん…』
「オレが赤司っちの代わりにそばにいてあげる、支えてあげる…だから、泣かないで?」
彼は両頬と額に私に優しく、でも絡めとるようにキスをした。
「ずっと好きっスよ、オレは雫っちが笑顔ならそれでいいし、悲しむ顔なんて見たくないっス…これ以上泣いたら唇にチューするっスよ?」
『……っ、泣き止む!待って、あとすこしだけ…』
「…ダメっスよ、時間切れーーーーーーー」
「おーい雫!…ここにいたのか?帰るぞ!!」
「カントクもみんなも心配してるよ?」
!日向先輩と、伊月先輩…
『あ、すみません…でも今はちょっと…』
「オレが送るんで、心配しなくて大丈夫っス!」
「黄瀬…お前今手出そうとしてたよな??」
「誰かさんたちに邪魔されたんでもう今は手出す気ないっスよ…泣き顔みんなに見られたくないとおもうんで、素直に送りますって」
「……あぁ、頼んだ」
たく、誠凛の先輩方聞いてたくせにあそこで出てこなくても……まぁ、実際分かってて止められなかったのはオレなんスけどね…
雫っちの弱みに漬け込もうとするなんて、野暮なことしそうになったっスわ…
「さて、泣き止んで落ち着いたら、送るっスよ」
『…ありがとうね、涼太くん…』
吐き出せて、すごく楽になった…
“ オレが赤司っちの代わりにそばにいてあげる、支えてあげる…だから、泣かないで?”
素直に嬉しかった、寄り掛かりたくなってしまった…。
征十郎に言わないと…、負けちゃったって…。