『第7章』IH桐皇戦
第2Q残り30秒で青峰がコートに出る。
「よう、テツ。久しぶりだな。どんな顔するかと思えば、いいじゃん。やる気満々ってツラだな」
「はい。雫さんと桃井さんと約束しましたから」
「ははっ。言いたいことは大体わかるけどな。そらプレーで示すことだろ。まぁどっちにしろ、勝ってから言えよ」
「…はい」
「できるもんならな」
青峰がコートに入った途端、桐皇は、コートの端に人を寄せている。
“アイソレーション”
青峰がスペースを使いやすいように、残りが片側に寄っているのだ。
青峰にマーク付いているのは勿論火神くん。
両チームのエースの1on1…あっさりと火神くんを抜き去り、日向先輩も一瞬でかわす青峰。
そのままダンク…と思いきや、後ろから火神がボールを払った。
(あの一瞬で追い付いたのかよ)
「高い…!」
「つか、あの体勢であそこまで!」
この時、青峰はバランスを崩して、微妙な着地。ここでボールを取った誠凛、速攻を仕掛けようとするが、桐皇のディフェンス戻りも速い…軽く速攻とはいかない。
伊月先輩はテツヤくんにボールを回し、イグナイトパス(加速するパス)で、ボールはゴール下の火神くんへ。火神がダンク…と思いきや、後ろから飛んだ青峰がボールを叩いた。
「バランス崩して戻り遅れてたのに」
「速い…!」
青峰のスピードに、日向先輩もリコさんも、驚愕なだった。
ここでブザー。第1Qが終了した。
「あれ? 終わり?アップがてらサクッと一本決めるつもりだったのに」
「いいじゃねぇか、おい。10点差付けられて、どんだけ酷いかと思えば、なかなかマシじゃねぇの」
『……ノロすぎます』
「え?ノロすぎるって、どういう」
「え?まさか青峰がノロいってことじゃないよね??」
リコさんや一年生ベンチの降旗くんが聞いてくる。
『…その、まさかです。青峰の動きがノロすぎます、彼はもっと早いですし…』
(もっとデタラメに強い…)
誠凛ロッカールーム、インターバル10分間だ。
リコさんはレモンの蜂蜜漬けを持ってきていたけど、これは…
『…さつきと同じレモンまるごと…』
「切ってって、切ってって言ってるじゃん、いつも!」
「ちゃんと洗ったから、皮ごとイケるかと…いっぱい食べられるし!」
『あの、私作ってきたんで…よかったらどうぞ』
そして私は2つのタッパーをわたした。
『こっちが甘めと、こっちが酸っぱめです』
「えー!なに選べんのーー?てかうまそー!」
「これだよこれ!レモンの蜂蜜漬け!!」
「マネージャーいてよかったぁぁ」
「…うぅ、今度料理教えて!?師匠!」
師匠?私のことかな?
テツヤくんの様子がすこしおかしい。
青峰が現れてから、すこし様子が変だ。
『…テツヤくん大丈夫…?』
珍しく、後半も出させて欲しいと訴えている。誠凛メンバー、リコさん含め考えているようだ…確かに青峰相手にテツヤくん抜きはキツイと思う、フルにミスディレクションが続かないし、伊月先輩の目でも、既に随分効果が落ち気味だから、一度下がるべきだ、という意見が大勢。
「できます。いえ、やります。どうしても青峰君に、勝ちたいんです」
なんと、リコさんの作ってきたレモンをテツヤくんの口にブチ込む火神くん。
「いいから食って引っ込めよバカ!バスケはひとりでやるもんじゃ無ぇって言ったのは、お前だろ! 任せとけ」
「ちょっとは頭冷えたかよ」
「はい。それより」
「ん?」
「僕は開花してからの青峰君の底を見たことがありません。しかも、黄瀬君や緑間君同様、進化しているはずです。だから、この先の彼は未知数です。気を付けて下さい」
「はっ。望むところだよ」
テツヤくん、昔の相棒が相手だし、やっぱり楽しそうにバスケをする青峰をみたいんだろうな…
きっとわたしが征十郎に固執するのと同じように、彼も青峰にもしかしたら………。