『第7章』IH桐皇戦
『リコさん、桃井さつきについて、言っておきたいことが…』
「お前の元カノ、よく見りゃ普通にかわいーじゃん」
「そうですか」
「おい、何かうぜぇんだけど、その言い方」
「まぁ、そうですね」
「は?」
「試合じゃなければ」
さつきは、誠凛に関するデータ全て、選手に渡してます。
火神くんがひとりアリウープをしようとしても、
「知ってますよ。そう来ると思ってたから」
がっちり守りかためて、リバウンドは桐皇が取ります。
「今の動き…初めての対応じゃねぇ」
「しかも、火神の外の確率の低さも、バレてる」
「…なるほど研究されてるわね。恐らくあの子に。桃井の正体は、情報収集のスペシャリスト」
『そうです、そして集めるだけじゃないんです。彼女はそこから予想までします』
何か手を打たないと、と動揺するベンチ。
「必要無いわ。このまま行くわよ。いくら正確な情報を持っていたとしても、それは過去の物。人間は成長するのよ。そんな常識も知らないで、知ったかぶってんじゃないわよ」
『違いますよ、リコさん…』
日向先輩はピュアシュータで、中に斬りこむことは少なかった。だからドリブルスキルを上げるために、予選後必死に練習した。
それを、初めて使おうとしているけど、おそらくこれもさつきに読まれているはず。
「知ってますよ。そうなると思ってましたから」
やはり桜井くんに読まれている。
「初めてのパターンだぞ。そんなデータは無いはずなのに」
『データに無い場合、普通なら対応できない。けれどさつきは集めたデータを分析し、その後、相手がどう成長するかまで読んでくる』
「その人の身長、体重、長所、短所、性格、癖。全部集めて、分析、解析、そして絞り込み。最後の秘訣は、女のカンよ」
「そうね…でも甘いぞ小娘」
『たしかに、彼なら…』
「そう、彼は次、何するかわからない!」
テツヤくんは予想困難、火神くんは発展途上。1年分多く研究されている日向先輩たちよりも、この2人のほうが、さつきの裏をかける可能性が高い。そう見て、ふたりを中心としたプレーを指示するリコさん。
「暴れろ、ルーキー!」
テツヤくんから火神くんへのアリウープのパス。
「このジャンプ、実物はマジふざけてやがる」
「わかってても止められへんか。まいるわ」
今のジャンプ…踏切のことがおかしい、着地も。
『リコさん!火神くんの足がもしかしたら!』
「っ!!まさか!完治してない!?」
そして交代で小金井先輩が入る。
『この間青峰と1on1して、完治までいかなかったんだわ…テーピングするから脚出して!』
「医者には問題ないとは言われているから、この試合は出てもらうわ…」
「サンキュー雫、いけそうだわ」
コートに向かいかけた火神に、リコさんが声をかけた。
「すまないわね。本当は、万全じゃない選手を出すなんて、やりたくないけど。火神くんがいないと、勝てないわ。全員一丸のバスケって言ったけど、そもそもそれは、ある人が教えてくれたスタイルなの」
『「ある人?」』
「私だけの力じゃ、まだ未完成で、みんなの力を引き出しきれない。挙句、ケガしてる火神くんに頼る始末。自分の無力さに、腹が立つわ」
『…リコさん…』
「何すかそれ…キャラ違うっすよ。練習メニュー作って、スカウティングして、ベンチで指示出して、マッサージにテーピング。むしろあれこれ仕事しすぎ。監督なんだから、どーんと構えてくんねぇと、試合中ぐらいは。つか、すまないわね、で送り出されても、テンション上がんねぇから、です」
ベンチ陣も、リコさんも、笑顔が戻ります。
「生意気言ってくれるわね、バカガミが。行って来い!」
「うす!」
『火神くん、頑張っ……ひゃ!!』
みんなの視線がわたしに集まる。
「そうそ。張り切ってくれよ。少しでも俺を楽しませられるようにさ」
青峰が私の肩を組んでいた。
『ちょ、急に絡んでこないでよ!』
「てめ、青峰!雫をはなせ!」
「やっと来たか。そっちのマネさんに絡んでないで、早よ準備して出てくれや」
「え~? つか、勝ってんじゃん。しかも、第2Qあと1分しか無ぇし…1分オレここにいていい?」
そしてまた私に強く抱き寄せる青峰。
「ダメです。出なさい」
「はぁ、まぁ、いーけど。じゃ、やろーか」
そうして私の頭をポンっと叩いて、上着をさつきに渡してコートに出た。