『第7章』IH桐皇戦
そして決勝リーグ当日、誠凛ロッカールームにて…
リコさんがみんなにカツを入れた。
「インターハイに行けるのは、4校中3校。小金井くんも言ってたけど、一見難しくなさそうに見えるわ。けど…」
「リーグ戦だから1敗までは大丈夫とか、少しでも考えたらおしまいよ!大事なのは今! この試合、絶対勝つ!」
みんなが会場へ向かう中、私は1人中学時代の青峰を思い出していた。
楽しそうにストバスでしていた出会ったときほ表情…。
私のバスケ部に入るきっかけになった…。
“ …っすまねえ、俺はもう…お前が好きだって言ってくれていた、楽しいバスケをできねえ”
勝たなければならない。
征十郎との約束を守るためにも…。
「…雫さん、大丈夫ですか?」
『……青峰との試合、目を逸らさずに観れるか不安だな、マネージャー失格かもしれない…』
「…桃井さんとも約束しました。青峰くんを倒すと。雫さんも全国に連れて行きたい、それだけです」
『…ありがとう』
そして両チーム、ベンチへ。
さつきと目が会う…が、…青峰の姿が見えない…またサボりか遅刻か?
火神くんが若松さんに尋ねている。
「あの、青峰はいないんすか」
「遅刻だよ。あの自己中ヤローは」
「すまんのう。あいつおらんとうちも困るんやけど。後半辺りには来るて。うちらはまぁ、前座や。お手柔らかに頼むわ」
相手のキャプテンがそう言った。
前座と来ましたか。
試合開始前に伊月先輩は火神くんに確かめていた。
「もう、青峰と一回やったって?モチベーション下がったとか、無いよな」
「まさか。むしろブチギレてるよ。です。こいつらが前座だってんなら、挽回できないまで突き放して、世界一間抜けな主役にしてやらぁ」
「僕も賛成です。青峰くんは危険です。今のうちに、点差を付けた方がいい。いない人にムキになっても、意味はありません。目の前の相手が、全てです」
「よし、ちゃんとわかってるな。スタートから、全開だ!!」
日向先輩の掛け声から、試合開始です。
ジャンプボールは取ったけど、
伊月先輩がそのボールを取る前に、今吉さんに取られます。今吉さんがパスしたのは…。
「まずはうちの、特攻隊長に、切り開いてもらおか」
特攻隊長は…桜井くん、ポジションはSG。
「すいません!」
なぜか謝りながらシュートしていた。
クイックリリースで、モーションがめちゃくちゃ速い…しかも3ポイント。
そして桜井くんだけじゃなく、他の4人も、強い。
「タチ悪ぃぜ。前座なんてよ」
「嘘はついてへんよ。青峰が来たらわかるわ。ワシらなんてかわいいもんやで、ほんま。言うたやろ。前座やて」
リバウンドの若松さんも高いし、動きも早い。
今吉さんのシュート技術だってものすごく脅威だ。青峰がいない間に点差を付けておきたかったけど…
「まぁ、すまん。こっちの言い方が悪かったわ。前座ゆうても、青峰と比べて、っちゅう話しや。君らよりは強いで、多分」
想像以上に強い桐皇学園に点差をつけられない誠凛。
「これで青峰君がいないなんて、参っちゃうわね」
リコさんもそんな風に言っている横で、一年トリオは予選の桐皇学園のスコアを見ている。
そう、全て100点ゲームで勝ってきている…。つまり、正邦とは真逆で、超攻撃型のチームなのだ。
「すいません!」
「くそぅ、ブロックしづれえ!飛んだと同時に放って来やがる。つーか、謝るぐれぇなら、打つな!!」
桜井くんのシュートが外れ、リバウンド火神くんが飛ぶが、諏佐に取られシュートを入れられます。
桐皇学園のバスケットスタイルは、味方のケアは最小限、譲り合うような連携は全く無し。オフェンスもディフェンスもとにかく1対1。自分でボールを取りに行って、自分で決める。個人技でひたすらガンガン来る。
(あぁ、帝光のスタイルと同じだわ…)
『このスタイルは好きじゃないです』
「そうね!でもうちは…!」
「なるほどね。ある程度予想はしてたけど、やっぱりそういうスタイルっすか」
「せや。うちのチームは全国から選手を集めてる。ひとりひとりが実力ある分、我が強く、癖もある。ここ数年いろいろ試したんやけどなぁ、お手手繋いで仲よぅやるより、このやり方が一番しっくりくるわ。お互いおんなじ攻撃型チーム、面白くなりそうや」
「面白いかどうかはともかく、同じってのはどうかな。うちのスタイルは、あくまで全員一丸の攻撃なんで!」
(伊月先輩っ!)
伊月先輩が走りだし、今吉さんには火神くんがスクリーン。それから日向先輩にボールが繋がり、シュートを決める。
「1対1の勝負はともかく、試合にまで負ける気はねぇぞ。主将にもそう言っておけ、謝りきのこ」
「個人技重視のうちのスタイルと、連携重視のそっちのスタイル。どっちが上か、決めよか」
「さっき全員一丸とは言ったけど、よく忘れられるヤツがいるんすよ」
そして若松さんへのロングパスを取ろうと、テツヤくんが追いかけるけど…
「でも、低ーーーい!!!」
それを火神くんがフォローして速攻を阻止した。
「なんだ、あのショボいジャンプ! 取れねぇなら飛ぶな」
「取れました」
「嘘付けっ。そもそも、らしくねぇぞ。もしかして、お前のいた中学と、オーバーラップしてんじゃねぇだろうな。今の相手は桐皇学園だぞ。寝てんのか!」
(あ、私が重ねていたみたいに、テツヤくんも帝光中と重ねていた…?)
「……でも、取れました」
「嘘付けっ!」
『リコさん、あの2人本当にいいコンビになりましたね』
「そうね、ある意味バランス取れてるのかも」
そして今吉さんはニタリ顔で言った。
「けどまぁ、聞いてた通りや」
わたしには選手の言葉はある程度聞こえている。耳がいいからね。
そうだ、さつきの能力のこと、言わないといけない…。