『第6章』決勝リーグ前
そして決勝リーグの前日ーーーーーーーーーー
プール練のときに、さつきとテツヤくんに言われたことが頭に残っていた。
明日は決勝リーグ、勝ったら全国の舞台で会える確率がグンと上がる。
メールの内容を考えても全然思いつかなくて…
なにより、声がすこしでも聞けたら…
でもどうしよう、向こうはもう私のことなんてもうなにも考えてなくて……
新しい彼女とかいたらどうしよう。
あれ、私ってまだ彼女だっけ…
あ、やばい泣きそう。
ネックレスを握り締めながら、私は連絡先から“赤司征十郎”を選択して、通話ボタンをおした。
プルルルルル…プルルルルル…
「…雫かい?」
『せ、征十郎……あの、今、すこし平気?』
「あぁ、ちょうど部活終わって帰るところだ。問題ないよ」
私はほっとして、とりあえず試合の報告をした。テツヤくんの新しい光…火神くんのこと、練習試合だけど黄瀬くんに勝ったこと、地区予選で緑間くんに勝ったこと…
『それでね、明日は決勝リーグで、青峰のところと当たるんだ…』
「たった3ヶ月なのに、なかなか早い展開で面白いじゃないか」
『うん、早く征十郎倒せるように、がんばるね』
「…僕のところも順調だ。僕が試合に出なくても、十分に勝てるくらいにね」
『…征十郎出てないの?』
「あぁ、出なくても勝てる試合ばかりだからな」
『そっか…相変わらずだね』
「…それにしても、連絡するの遅いんじゃないか?」
『え!いや…全国にまだ届いたわけでもないのに…とか、征十郎忙しいかな…とか…考えてたら出来なくて…』
「お前は僕のものだろう、いつでも連絡していいに決まっている」
それは、私はまだ征十郎の彼女ってことだよね?他にいないってことだよね??
『やっぱり、電話にしてよかった…』
「…そうだな、僕からも連絡することにしよう。待っていてもなかなか来ないことがわかったからな」
『征十郎からきたら、私も嬉しい…』
「………」
『?征十郎?』
「あまり無防備に過ごさないように、明日も青峰やほかのやつらと関わりすぎるなよ」
相変わらずな威圧的な言い方、もの発言だし、愛の言葉なんかないけど、それでもやっぱり嬉しいし、
好きだーーーーーーーー。
『わかった、征十郎も身体に気をつけてね…部活お疲れ様』
「あぁ、ではまた」
〜♪〜♪〜♪〜
なんだろう、征十郎と話すと無性にピアノ弾きたくなる!
それに火神くんに自分のなすべき事を話せてすこし楽になったかも…
“光として俺が強くなってやる”
単純に嬉しかった。
「…もう弾かないとおもってたんだけどな…9ヶ月ぶりくらいか?」
てことは、赤司くんにでも会ったのか?
それとも試合に勝ったとか、なにかイイコトがあったのはたしかだな。
シューマンの“飛翔”なんて華やかな曲、いいことがなきゃこんな音色出せないわな。
頑張れよ、雫、そして誠凛ーーーーーーーーーー
一方京都洛山高校では…
「赤司ー!あれ、赤司は?」
「シーっ!征ちゃんいま電話中なんだから」
「えっ!誰とだれと!?」
「見てみればわかるわ…すごくいい表情をしているから」
“雫か?”
“お前は僕のものだろうーーーーー”
“……”
「え!?あれ赤司だよね!?別人みたいな顔になってるし、声も優しくね!?」
「きっとあのストラップの相手よ…」
「あぁーあの押し花の?なんでわかんの?」
「あのストラップ見つめてるときの表情と似ているからよ♪」
「お前らそんなところで赤司みてなにしてんだ?」
「ちょ、シー!!」
「なにしている?」
「「あ、バレた…」」
「征ちゃんが珍しく慌てた様子で電話に出ていたから…気になっちゃったのよぉ」
「え、彼女!?赤司の彼女!?かわいい!?」
「赤司でもやっぱ1人の男だなー!ハッハー!」
「…いずれ会うことになるだろう。…彼女…それもそうだが最も大切なひとさ…、かわいいか、だと?そんなもの当たり前だ。可愛いなんかで表しきれないな」
(((すっげぇベタ惚れじゃん…)))
そう言ってすこし微笑んだ征ちゃんは、いつもの威圧的な笑みじゃなくて、素の彼を初めて見た気がした。
雫……ちゃんねぇ……