『第5章』IH秀徳戦
「出てきたところで、前半同様、いや、それ以上に見えてるぜ!」
和成はテツヤくんをしっかりマークしていた。
火神くんには、緑間くんと大坪さんがダブルでマーク。ただ、さっきまでの彼ならこのままいっただろうけど、今はふたりを引きつけておいて、火神くんは水戸部先輩にパスを出す。
「ひとりで暴走していたさっきと違う…」
「黒子に殴られて頭が冷えたか。だが、お前の体力は残りわずかだ」
「もう、俺のシュートは止められない!」
「確かに、もうポンコツ寸前だ。けど…!」
“跳べるのはあと二回、一回はここぞっていうときに、残り一回は…最初に!!”
「まだ飛べたのか!だが、体力がほとんど空なのは確かだ。最後までもたせる気が無いのか?」
緑間くんも馬鹿ではない、ハッタリというのも気づいてはくるだろう。
だから問題は…
「随分期待されてるみてぇじゃん?けど、なんかしようっても、させねぇけどな。逃げられないぜ、俺の、ホークアイからは」
和成のテツヤくんへのマークを外すことが大切だ。
「死角が無い以上、高尾にミスディレクションは通じないぞ。どーすんだ、黒子」
「いや、多分厳密には、全く効かないわけじゃない」
「え?」
「高尾のホークアイは、コート全体が見えるほど視野が広い。だから、意識を他に逸らしても、黒子を視野に捉え続けるんだ。そこで、そこで黒子は、意識を自分から逸らす前に、逆のミスディレクションを入れた。つまり、自分へ引きつけるようにしたんだ」
伊月先輩が日向先輩に説明の間にも、和成はどうやら違和感を感じてきたみたいだ。
テツヤくんが異常に近く感じているみたい。
「止められても止められてもパスを出し続けたのは、高尾の意識を自分に集中させるため。狭まった視野なら、今度は逸らせられる!」
「見失った! 嘘だろ?」
「落ちつけ。黒子は見失っても、火神の位置はわかる!ボールと火神の間に飛び込めば…!」
走り出す和成、頭もいいのがやはりさすがというところだ。
「今度は取られません。これまでは来たパスの向きを変えるだけでしたが、このパスは、加速する!」
!これは、中学時代キセキの世代しか取れなかった…イグナイトパス!?
「ボールぶん殴っ…!あの球を取るほうも取るほうだ! ほんと、マジかよっ!」
「わかってるよ、でも…。ここで決めなきゃ、いつ決めんだよ!!」
火神くんは、緑間くんの上から、ダンクを決めた。秀徳メンバーにも、若干の動揺が走る。
「いつの間にあんなとこに。もう、わけがわかんねぇ!」
和成の目はもうテツヤくんを追えなくなったいた。
残り2分50秒でついに1ゴール差までにじり寄る。76-78で、秀徳がタイムアウト。
「まさか、まさかここまで追いすがるとはな」
「緑間くんは昔、ダンクを、2点しか取れないシュートと言っていました。君のスリーは確かにすごいです。けど僕は、チームに勢いを付けたさっきのダンクも、点数以上に価値のあるシュートだと思います」
タイムアウト終了後、秀徳ボール、緑間くんにパスが集められる。
「そう来ると思ったわ。火神くんのハッタリがバレれば、パスは緑間くんに集中する。パスの場所を教えているようなもんよ!」
緑間の手にボールが渡る前に、テツヤくんがスティールをする。
「王者に最も必要なプライドは、勝つことだ!」
日向先輩のシュートが、大坪さんにカットされる。
「緑間でいくってことは、同時に残りの4人でとにかく守れ、ってことだ。溜めて溜めて、一瞬の隙に緑間のスリーで、首を落とす」
残り15秒で、誠凛ボール。
日向先輩の前に、大坪さんがマークに付く。
スリーを最優先で止めにきた、ということだ。
それでも、誠凛にはスリーしか無い。
日向先輩が決められなければ…!
「お前のことは認めている。だからこそ、全力で止める!」
「これ以上、借りはいんねぇっすよ。さっきもやたら想いのこもったブロック貰いましたしね」
「こっちもぶつけたい想いは溜まってんだよ。
去年トリプルスコアで負けて現実を思い知らされて、それでもやっぱ、バスケが好きで、やっと、ここまで来たんだ!」
日向先輩が走りだします!
大坪さんには火神くんがスクリーン。
でもいまの体力無い火神くんのスクリーンはかかりが甘い。追い付ける、と思った大坪さんですが…。
日向はスリーのラインよりはるかに向こうに走っていた。伊月先輩が日向先輩にパスし、スリーが決まった。
残り3秒で、82-81です。
観客も、誰もが、誠凛が勝った!と思ったが、
『まだです!!!』
「まだ勝ってねぇよ!」
リスタートで、和成は緑間くんパスをした。
「なぜ俺が遠くから決めることにこだわるのか、教えてやろう。3点だから、というだけのはずが無いのだよ。バスケットにおいて、僅差の接戦の中、残り数秒での逆転劇は珍しくは無い。
が、場合によっては苦し紛れのシュートで、それが起きる場合もある。そんなまぐれを俺は許さない。だから必ず、ブザービーターで止めを刺す。それが、人事を尽くすということだ!」
「勝つんだ! 動けよ、俺の脚!前の試合もこの試合も、最後に足手まといでいいわけ無ぇだろ!」
限界を超えて、飛んだ火神くんだったけども…
「信じていたのだよ。
たとえ限界でも、お前はそれを超えて飛ぶと」
「しま…っ!!」
それを見ていた日向先輩も、驚愕していた。
「どんな心臓してやがる!残り数秒のこの場面で、フェイク? これが、キセキの世代…!」
そして、緑間が再びモーションに入ろうとする。が、しかし!
「僕は信じてました。火神くんなら飛べると」
「黒子…!」
「そして、それを信じた緑間くんが、もう一度ボールを下げると」
誠凛が勝った!!
リコさんは涙を流していた。
「やったぁぁ!雫ちゃん!!」
わたしはどこか他人事のように感じていて、まさか和成と緑間くんがいるチームに勝てるなんて…
でも、勝てたからこそ、“他のキセキの世代”の背中をつかんだような気がした。
“このチームでキセキの世代を倒したい…”
『…っあ……あれ…、なんか、涙が出てきた』
「雫さん、やりました、みんなで掴んだ勝利です」
テツヤくんの言葉で私はまた、大きく泣いた。
「整列だ。行こうぜ。たまには、おは朝も外すって」
「うるさい、黙れ」
しーちゃん、負けちまったけど、お前の信じたチームはやっぱつえーや。