『第5章』IH秀徳戦
ハーフタイム中
みんな下を向いて、静かな誠凛ロッカールーム。そのみんなを励まさなきゃ…と思って、また変なことを脳内で考え出すリコさんの様子。
「み、みんな!」
「監督、いいよ。どうせなんかバカなこと言うんだろ。空気読め」
元気づけようとしてくれるのは嬉しいけど、正直勝てるイメージが無い、と難しい顔の日向先輩。
そしてみんなの脇で、黒子はじっとカメラを見ています。
前半の和成との様子をビデオで撮っていたのだ。
「何か、勝算あるのか?」
「え、さぁ?」
「さぁ、って…」
「勝ちたいとは考えます。けど、勝てるかどうかとは、考えたこと無いです」
このセリフに、火神くんは反応している。多分、気に入らなかったんだと…。
「ていうか、もし100点差で負けてたとしても、残り1秒で、隕石が相手ベンチを直撃するかもしれないじゃないですか」
『…すごい発想しているねテツヤくん』
伊月先輩が無理矢理、そうだな、と言い、みんなもうん、と頷いている。
「って、うんじゃねぇよ! てか、すごいなその発想」
冷静なツッコミは勿論日向先輩だった。
「いや、でも、全員腹痛とかは…」
「つられるな。それも無い」
「まぁね、それに比べたら、後半逆転するなんて、全然現実的じゃん」
小金井先輩の明るい言葉に、三戸部先輩も頷きます。
「とにかく、最後まで走って、結果は出てから考えりゃいいか。よし、行くぞ!」
「おう!」
そしてなんとか後半戦へ意気込みをあげている。
『テツヤくんは温存しよう、和成のホークアイの対策も考えないと…』
「はい、そうですね」
緑間くんも火神くんを見て、何かを感じているようだ。
ただ諦めているのとは何かが違う、って。
和成くんが日向先輩のボールを後ろからスティール。
それを緑間くんがシュート。
でも、シュート直前、火神くんが緑間くんのマークに入ります。その速さと高さに、戸惑う緑間くん。
だんだんジャンプの高さが上がっている。
“ 負けねぇ。絶対。もっと、もっとだ…!”
「お前は最後まで決してあきらめない。けど、全力を尽くしてそれでもダメなら、その負けは受け止める、ってことだろ。勝ち目が無いような強敵とやるのは、わくわくする。それでも最後は、勝たなきゃ何の意味も無ぇんだよ!」
ーーーーーーーーーーー火神くん…
火神くんは死に物狂いでジャンプをしている。
そして、緑間くんの手から離れたボールに、かすります!緑間くんは驚きに目を見開きます。
「バカな! こいつ、有り得るのか?試合中にどんどん高くなっている!」
ボールは、リングに一度弾かれ、その上をぐるぐる回り、最終的にはゴール。
「あっぶね!」
「てか、緑間のあんな入り方、初めてだぞ」
リコさんは、突破口を火神くんだと信じているようだ。
「…火神、お前何座だ」
「あ?しし座だよ」
“ただし、しし座の方とだけは、相性最悪! 出会ったら要注意!”
「まったく…本当によく当たる占いなのだよ」
試合、誠凛もまだ食らいつきます。
「集中力切らすな。切らしたら終わりだ!」
息が上がりながらも、ばっちり決めてくる日向先輩。
「ご立派だねぇ! けど、うちの緑間はもっと止まんねぇよ!」
和成から緑間くんにパス。
緑間くんに、火神くんがマンツーマンで付いている。ーーーーーーボックスワン。
観客も、根性あるな!と沸いている。
でも、火神くんを見つめるテツヤくんの目が、なんか気になる…。
「確かに、どっからでも打てる緑間を封じるにはこれしか無いが…」
『…少しまずいかもしれないですね、火神くん
』
「黄瀬との戦い、試合は確かに勝った。けど、それは黒子がいたからだ。俺ひとりじゃ勝てなかった。それでも試合に勝てるならいい。けど、もし、黒子がいなかったら…。もしこの先、黒子のバスケが通用しない時がきたら、負けるのか?嫌だ。負けるのなんてまっぴらだ!」
緑間くんのマークを厳しく当たる火神くん。
「無駄だぜ、前半黒子とふたりがかりでも止められなかったろ。しかも今は、2対1だぜ!」
和成がスクリーンになって、火神くんを阻んで緑間くんをいかせる。
「それでも止める!散々見せられたおかげで一つ見つけたぜ!てめぇの弱点!!」
「距離が長いほど、タメも長いってことだ!」
火神くんの伸ばした指が、ボールに触れます。
「また触れただと? バカな!」
「確かに重いバスケットボールを20m以上放るだけでも普通有り得ねぇ。通常よりはるかに長いタメが必要になる。けど、おいおい! 一度スクリーンでマーク外したのに!」
和成も信じられないように火神くんをみる。
そして、そのボールは、リングに弾かれ、ついに止めた!と沸くベンチ。
でも、その後ろから、大坪さんがそのままダンクを決める。
「そうだ、秀徳にはまだこいつがいた!東京屈指の大型センター、大坪泰介!」
「黒子や先輩たちに頼ってるだけじゃだめだ。
強くなってやる。誰かに頼らなくても勝てるぐらいに。俺ひとりでも勝てるぐらいに!」
大坪さんの手の上からボールを叩き落とす火神くん。
「高い…!」
「しかも、速い! 一瞬であの間を詰めたのか!?」
緑間くんや秀徳チームもびっくりしている。
けれど大坪さんの手に触れてしまい、火神くんはファールを取られてしまった。
でも、火神くんはそんなの意にも返してない。
「勝つんだ。俺ひとりでも…!」
“黒子っちと火神は、いつか決別するっすよ”