『第4章』正邦との試合
「9点差かぁ~君は…誰っ? てか、出てたっけ、試合!?」
「黒子テツヤです。出てました」
「うっそマジ!? 存在感なさすぎっしょ!」
という会話の裏で、火神くんと日向先輩は大ショックを受けている様子。
(過去対戦済みなのに忘れられてる)
(しかも普通に名乗ってる)
「ねぇ、知ってる?去年うちの先輩たち、第1Qで20点差付けたらしいんだ。だから俺、30点差くらい付けたくってさ~!ま、がっかりしないでね!」
日向先輩を先頭に、2年生組はカチンときているのかわかる。
この津川くんはすごくおしゃべりで、相手の嫌がる発言を物ともせず話すんだなと思った…。
わたしは苦手なタイプだ…。
「わかりました。がっかりしないように、頑張ります」
テツヤくんも少しくらいオーラが見えている。
そしてその発言以降、ミスディレクションでディフェンスの裏からテツヤくんがパス回しをして、第1Qは同点で終わった。
「さっきまたこいつが馬鹿言ったようだな」
「あぁ、まぁ、ぶっちゃけ去年のトラウマ思い出したし」
「すまんな」
「けどま、全然いっすよ。乗り越えたし」
津川くんはブツブツ言っていたけど、こちらはバスケで勝負して負かすつもりだから、ギャフンと言わせたいと思った。
『テツヤくんさすがだね』
「さすがにカチンときました」
そして始まった第2Q。
正邦のディフェンスが、益々厳しくなってきて、津川くんを抜けない、火神くん…、
でも、テツヤくんとの息の合ったプレーで、うまく対応していた。どうやら津川くんにはテツヤくんがまったく見えていないようだ。
『前よりもふたりの息が合ってる』
「…火神くんの汗の量が、尋常じゃないわ」
「まだまだ! もっと苦しんでくんないと」
津川くんの呟きがわたしの脳裏に突き刺す。
『リコさん、やばいかもです…何か仕掛けてきそうな気が…』
そしてそれは的中した。
火神くんが4つめのファウルをとってしまう。
引っ込めるしかないと、リコさんは判断していた。
「オレ、大丈夫っ…すよ!!」
「ま、どっちみち後半はお前ら2人抜きでやるつもりだったしな」
「次の緑間くんいる秀徳を倒すには、火神くんと黒子くんが不可欠なのよ…」
「火神くん、言う通りにしましょう。僕は先輩たちを信じます」
「まぁ心配すんな。正邦は、俺たちが倒す」
「ヤバくなったら出ます」
「4ファウルが何言ってんだ、まかしとけ!」
任せられる仲間がいるってすごくいい。
先輩たちの改めてこの試合への覚悟を感じた。
「あ~らら、いなくなっちゃった。ちょっと物足りないけど、ま、いっか!」
津川くんが日向先輩のまえでまたおちゃらけたように話した。
ただ日向先輩のクラッチタイムに突入していたので、強く言い返している。
「ガタガタうるせぇぞ、この茶坊主」
「今からお前に先輩への口のきき方を教えてやる。ハゲ」
そして水戸部先輩がダンクを決め、さらに点を重ねていく誠凛。
「さっきの話しが聞こえたが、まさか秀徳に勝つつもりとは、うちも舐められたもんだな」
「あぁ、あんなん建前っすよ。これは俺達にとっての雪辱戦。後輩たちの力借りて勝ったところで、威張れないじゃないすか。とどのつまり、先輩の意地だよ」
そして実際、伊月先輩ものもう一つの目、イーグルアイで逆サイドにいた正邦の選手をスクリーン代わりにし、相手を驚かせた。
「マジかよ。あれじゃ上から全体を見れるくらいじゃないと…」
「雫ちゃんはだいぶ前から気づいていたみたいだけど、伊月くんは見えるのよ。イーグルアイを持ってるからね。彼は身体能力は恵まれてないけど、頭の中で視点を瞬時に変えられる。つまり、ものをいろんな角度から見れるから、常にコート全体が見えてるのよ」
説明を聞いた火神くんはかなりびっくりしていた。
「今のシュート、ナイスじゃないっすか!」
「今すぐ交代するか…死ね」
「日向くんたちは万能じゃないけど、みんな一つは特技を持ってる。しかもそれを1年間磨いてきたのよ」
『頼もしい先輩たちだよね、火神くん?』
「あぁ…すげえ!ウズウズするぜ!」