『第3章』新協学園との試合
ある日の昼休み、リコさんから屋上に来るように連絡が入った。
屋上につくと、2年の先輩とリコさんが待ち構えていて、1年全員呼び出されたみたいだ。
「ちょっとパン、買ってきて?」
「は?」
「パン?」
「実は誠凛高校の売店では、毎月27日だけ、数量限定で特別なパンが売られるんだ。それを食べれば、恋愛でも部活でも必勝を約束される(と噂の)幻のパン」
「イベリコ豚カツサンドパン 三大珍味、キャビア・フォアグラ・トリュフのせ!!2800円!!」
「高っけぇ!!…し、やりすぎて逆に品がねえ!!」
「海常にも勝ったし、練習も好調」
「ついでに幻のパンもゲットして、弾みをつけるぞ!!って訳だ!!」
「けど狙ってるのは私達だけじゃないわ。いつもより"ちょっとだけ"混むのよ」
「パン買ってくるだけだろ?チョロいじゃん…ですよ」
そう、火神くんは疑うことなく、話だけ聞いて簡単だと思っている。
リコさんのあの言い方、なにかうらがありそうだけれど…
「金は勿論、俺達が出す。ついでに皆の昼飯も買ってきて。
ただし、失敗したら……
釣りはいらねーよ。今後、筋トレとフットワークが三倍になるだけだ」
なんだかこの笑顔、懐かしい。
笑顔なのに逆らっちゃいけない威圧感…。
「「「(コエー!!
え!?お昼の買い出しクラッチタイム!?)」」」
「ホラ、早く行かないとなくなっちゃうぞ?大丈夫。去年俺らも買えたし」
「伊月先輩…」
「パン買うだけ…パン……!!パンダのエサはパ「「「行ってきます」」」」
『あ、待って、私もーーーー』
「あら、雫ちゃんはダメよ?」
「雫ちゃんはオレらとお留守さ!」
「あそこは今戦場になってるからな、か弱い雫ちゃんを行かせるわけねーだろ」
なるほど、きっと“かなり混む”のだろうか。
「そしたら伊月くん、みんなのジュース買ってきてもらえる?」
「了解!…妖怪は了解…」
『あ、私もそしたら一緒にいきます!』
そして私は伊月先輩と自販機にきていた。
「なんか、こうやって雫ちゃんとちゃんと話すのは初めてかもな」
うん、さりげなくダジャレ入れてきたけど、スルーしとこう。
『そうですね、先輩達のバスケスタイル、すごいですよね…伊月先輩もイーグルアイを持っていてコートをよく把握していますし、日向先輩はクラッチシューターとしても、チームの士気をあげるキャンプテンとしても…素晴らしいと感じました』
「いやぁ、雫ちゃんに言われると嬉しいな!キセキの世代を見てきたんだから、オレらのバスケなんてみても面白みもないと思われてると…」
『…彼らとは全く別物の強さです。人間全てを持っている人なんていません。それをカバーするのに、努力や他人に力を借りて補おうとする、そんなチーム力がここの良いところだと思います』
「…そっか、正直オレも日向も含め、2年は並みの選手だよ。でも去年決勝リーグに行けたのは、みんなバスケが好きっていう気持ちだけは強かったと思ってるから、そこチーム力で補っていきたいと思っているよ」
『そうですね、私にも、ぜひお手伝いさせてください』
「みんなもう思ってることだから言うけど、雫ちゃんはもう誠凛にとって必要不可欠なマネージャーだからね」
『…ありがとうございますっ』
伊月先輩はダジャレを言わなければ本当に優しくて、よく周りを見ている冷静な先輩だ。
2年生の先輩たちが、帝光中のキセキのマネージャーをしていた私が、並みの選手のマネージャーなんて…と引けに感じていたのは知っていた。
それでも、私はやはり個々の力より、チームとしての力が上げられる、この誠凛バスケ部に尽力したいと思っている。
その気持ちが、伝わってくれたのかなと嬉しか感じた。
屋上に戻ると、2年生の先輩たちに“おかえり”と言われ、そのあとぐったりした様子で1年生が戻ってきた。
幻のパンは1年生で食べていいとのことで、私から食べていいことになった。
『…っ!これは…美味しいっ!』
そんなにうまいのか!?と周りが驚く中、次誰が食べる!?ジャンケンか!?となんだか騒がしくなり、なんなら食べていいと言っていた2年生も参加し始めた。
その隙にテツヤくんが私の後のところを食べた。
「……!これは……
めっちゃおいしいです」
「うお!?こんな幸せそうな黒子初めて見た!!」
(((黒子わざと食いやがった!?)))
(雫さんと間接キスなんてさせるわけないじゃないですか)
「まぁオレは食えればなんでもいいけどな」
火神くんは大きいBLTサンドを食べていた。
こーゆうチームで過ごすまったりした時間は久しぶりだな…。
『楽しいね、テツヤくん…』
「…はい、雫さん」