『第18章』セミファイナル
「(キセキの世代をいっぺんに相手しているようなもんだ。やっべ…マジ手がつけられねぇ。しかも、まだ3分…パーフェクトコピーの持続時間からいってあと2分、これが続くのかよ…)」
息を切らしながら、火神はそう思う。
「あぁ、しんど…。とりあえず、ちょっと休憩ッス。やっぱ、あの人らのコピーはしんどいッスわ。始まってすぐ、ぶっ倒れるわけにはいかねぇし…。試合はまだまだこれから、お楽しみは後にとっとかないとね。けどまぁ…目的は十分果たせたっスよ」
涼太くんはパーフェクトコピーを解いた。
「主導権もらった!」
「最悪だ…」
日向先輩は言う。先攻逃げ切り形ができなかったから…誠凛は予想に反して追う試合になる。
ミスの連発に、リコさんはフリくんを試合に出した。
フリくんの慎重な攻めにより、ペースダウンをし始めた誠凛。
「カントク。これって…」
コガ先輩が言う。
「えぇ、ビビりってのは言いかえれば、それだけ用心深いってことよ。つまり、無茶な攻めは絶対にしない。今回みたいにペースを変えたいときに彼ほど、うってつけな選手はいないわ」
『さすがリコさん…、頑張れフリくん!』
そして着実に誠凛は点を決めていき、慎重さを取り戻したところで第1Qを終えた。
『フリくんお疲れ様!』
「緊張したけど…やっぱいいな、試合に出るのは…」
ほっと顔を見せる彼。
「試合前に決めたプラン、いくわよ。以前の練習試合ではいなかった、うちの一番の戦力倍増要素、鉄平中心で責めるわよ」
「おう、任せろ」
試合が再開し、いきなり木吉先輩の攻撃で攻めていく誠凛。
「(やはり、きたか!)」
「こい!」
小堀さんが木吉先輩と対峙するが、木吉先輩の”後出しの権利”により誠凛に点が入る。
「くそっ」
「どんまい、小堀。オフェンス」
そして海常は笠松さんがマークする、伊月先輩の後ろには味方が誰もいなかった。
「アイスフレオージオか」
「(笠松のペネトレートスペースを作った!?つまり…1ON1か!)」
「(さっきの1年坊も頑張っちゃいたが、所詮まだ1年だ。物足りなかった分、思いっきりいかせてもらうぜ!)」
「(よーく見ろ。速さじゃかなわない。先を読め、左?いや、右だ!)」
その瞬間、笠松先輩の方が速かった。
「(そんな!読みはあってた。なのに…)」
笠松先輩が一筋縄ではいかないということだ。
「(うそだろ!? それでも追い付けない!?)」
日向先輩も驚いていた。
そのまま、笠松先輩がシュートを決めようとするが、木吉先輩が止める。
だが、シュートはゴールへと入った。
「まだまだだな!」
悔しそうな顔を見せる伊月先輩。
「(速い…。キセキの世代を除けば、今までやった選手の中で最速だ)」
「伊月!たぶん、この先同じパターンでガンガンくんぞ。相手はまず、お前を抜くのを前提に考えてる。ようは現状、お前が一番なめられてる」
「あぁ、分かってる」
(…伊月先輩。頑張れ)
そんな二人のやり取りを火神くんは…
「キャプテン!いきなりきつくね?ですよ」
そういうと、不機嫌そうに日向先輩は言った。
「あぁ?おまえこそ、いきなり優しくすんなドアホ」
「伊月がバスケ始めたのは小2のミニバスからだ。俺らの中で一番キャリアなげぇんだぞ。心配しなくてこのままヘコたれるたまじゃねぇよ。バスケにかけた想いは誠凛いちさ。頑張れ、なんて言うだけヤボだ」
信じる。それしかない。
火神くんがボールを回したとき、海常にボールをとられてしまう。
「しまった!」
「戻れ!」
再び、笠松さんと伊月先輩の対決。
「悪いがお前には止められねぇ」
抜く気満々の笠松先輩。
だけれどここで、身に付けた必殺技、イーグルスピアで抜かれた瞬間ボールを弾いた。
そして笠松さんはテツヤくんのスティールも警戒し、攻めあぐねていたところで涼太くんにパスを出した。
そしてしばらく、火神くんとのエース対決が始まり、どちらも譲らなかった。
(…涼太くん、足が…)
明らかにパフォーマンスが落ちて来ている涼太くん。そろそろ限界のはずだ。
リコさんや海常の監督も彼の様子について、気づき始める。
もう一度、火神くんとの対決。
しかし、火神の速さに追いつけずに、点を入れられてしまう。
「(まだだ…まだ、戦える! こんな形で終わるなんて…ダザ過ぎッスよ!こいつにだけには絶対…負けたくない!)」
黄瀬はそう強く思うが、そのタイミングで交代を命じられる。
「メンバーチェンジ!黒!」
声が響き、ぼう然とする涼太くん。
「黄瀬、交代だ」
海常の監督がそう言う。
「はぁ? なんで俺なんスか!今、抜けたら…」
涼太くんが監督に抗議をするが、笠松先輩が止める。
「黄瀬! 監督の指示に従え」
誠凛もその様子に驚く。
「交代?」
「まさか…」
火神くんとテツヤくんも少し驚いているようだった。でも、火神くんは薄々気づいている様子。
「黄瀬…(やっぱり…)」
笠松先輩は黄瀬にいつもの様子ではない理由を指摘した。
「足だな?」
その言葉に驚く涼太くん。
「多分…あんときからか」
灰崎くん試合で足を踏まれた時のことをいう笠松先輩。
「…バレてたッスか……けど!やらせてください。こんなもん、気合でなんとか…こんな形で負けるなんて、絶対に俺は…!!」
涼太くんは言いかけると、笠松先輩が言った。
「なら、こんな形にしちまった時点でお前の負けだ」
その言葉に驚く涼太くん。
「オーバーワークでお前がそれだけ、勝ちたかったってのは分かってる。それで痛めた足を灰崎にやられたことは俺だって、納得してねぇ。けど、それは言い訳にできねぇんだよ」
(もし、このままでたら涼太くんは完治するのにかなりの時間がかかってしまうかもしれない。笠松先輩はそれもきっと心配して…)
そしてベンチに下がった涼太くん。
悔しいという気持ちこちらにまで伝わってくる。
そして涼太くん抜きの海常も消して弱くなかった。そして私は笠松さんの言葉を聞いてしまった。
(ファントムシュートが攻略された!?)
『リコさん、早くテツヤくんを変えないと…』
しかしその言葉が届く前にマッチアップが始まってしまい、完全に見破られブロックされてしまった。
そしてこのタイミングで交代になってしまったのだ。
「すみません、交代直前にブロックされてしまいました。流れを切ってしまって…すみません」
「あれ?」
「思ったより、ふつう?」
コガ先輩と土田先輩が驚いたようにそうつぶやく。
「ショックじゃないのか…?」
「もちろん、ショックです。けど、大丈夫です。まだ、誠凛が負けたわけではないですし、それに…」
火神くんをちらりと見る。
『頼れるエースがいるもんね?』
言いたかったことが雫に言われ、驚き優しい微笑みを向けた黒子。
そして第2Q、エース火神くんの活躍で大きく点を伸ばせたのであった。