『第5章』過去と体育祭
テストも無事終わり、次は体育祭が開催される。
私は100M走と、クラス対抗リレーに出ることになった。
体力テストでの速さで自動的に決まってしまい、文句の言いようがなかったが、リレーに関しては赤司くんがアンカーなので、勝つ予感しかしなかった。
実行委員で赤司くん一緒に遅れて部活に行くことが多くなり、自然と帰りもなすがまま送られるようになった。ありがたいことだ。
「ついに明日だな、体育祭。委員会も部活も、そろそろ疲れが溜まってるんじゃないか?」
『同じことしてる赤司くんが大丈夫なら私は大丈夫だよ』
俺とお前は違うだろと諭されるが、彼がしっかりしていてリードしてくれるおかげでスムーズに行くことも多く、順調に進んでいるのだ。
『赤司くんに頼りっぱなしで申し訳ないよ、心強くて…私にもたくさん頼ってね、いつでもなんでも』
ふと赤司くんは甘さも弱さも見せてくれないと思ったから素直に頼って欲しいとおもった。
一軍の練習はハードで、なんなら吐いてしまう人も多い。彼は涼しい顔でこなしているようにみえるが、実際かなり辛いはずなのだ。
「そうだな…いつか藍澤にお願いしたいことがあるんだ、時期に頼むかもしれないな」
そのときはよろしくと、涼しい笑顔と一緒に言われたから、“その時期”とやらを待ってみようと思う。
『いつも家の前までありがとう』
本当に通り道らしいけど、歩く速さも合わせてもらっているので、ありがたいことには変わらない。
「……っ雫?いま帰りか?」
『泪、今日早いんだね。こちら同じクラスで部活も同じの赤司くんだよ』
赤司くん、これうちの兄なんだ、と教えたら、赤司くんも礼儀正しく自己紹介をした。
「雫の兄の泪だ。虹村が今主将らしいな、今年は優秀な1年がたくさん入ったとか…」
赤司くん、君もそうなんだろうな。と泪は続けた。
「今年も全中必ず優勝しますよ、もちろん来年も、再来年も」
そう赤司くんは静かに強くいった。
“百戦百勝”
それが帝光中バスケ部の信念である。
「雫、先帰って飯の支度頼むわ。せっかくの後輩くんと世間話して帰るから」
バスケの選手同士、話すこともあるのかな。
わかった、と同時に赤司くんにまた明日と伝えて家に入った。
「さて…すまんね、疲れてるだろうに引きとめちまって」
「いえ、ちょうど俺も伺いたいことがあったので」
そうか、まぁまずは俺が引き止めちまったし、俺から話すな。
そう言って彼女の兄、泪さんは聞いてきた。
「雫は元気にマネージャーやってるか?クラスでは浮いてないか?」
「申し分ない働きぶりです。仕事は完璧ですし、選手たちの気遣いや、サポートもしっかりしてくれています。クラスでは同性の友人もいますし、綺麗で近寄りがたいと言われてますが浮いているということはないです」
俺は本心で正直に伝えた。
浮いているわけではなく、彼女自身が神秘てきで近寄りがたいのだ。
最初は無関心で無機質などいわれたりもしていたが、友人ができ、俺とも話している中でみられるほんの些細な笑顔はほんとうに周りにコスモスが咲いたかのような華やぎがある。
「あいつ愛想ないし、人間関係に興味なかったり必要以上にコミュニケーション取ろうとしないし、ガキの頃から幼なじみ一人くらいしかいなくてよ、心配だったんだが…そうか、赤司くんいるなら安心だな」
ただ、彼女の雰囲気が柔らかくなることにより、そろそろ異性のアプローチが来るのではないかとも薄々おもっていた。
体育祭、夏休みと浮き足立つ季節が待っているからだ。
それはさておき、俺の本題に入らせてもらおうか。
「彼女の音楽は、なぜ3年前からいなくなったのですか?」
俺は3年前に消えてしまった、“絶世期の藍澤雫”の音楽がなぜなくなってしまったのか。
2年前からコンクールにはでていても、あれはまた“別の藍澤雫”であった。
「2年前から春までの雫は、赤司くんの納得のいく音楽ではなかったってことまで把握できたよ…さすがだ」
実は…と彼はさらに続けて言った。
ーーー母親が死んだんだ。
ーーーしかもピアノのコンクールの日だった。