『第3章』春の日常
学校生活も慣れてきた頃、季節も梅雨前になった。
クラスにも慣れてきて、もともとグループとかつるむような性格でもないので、その時々で話す女子がいるくらいだ。
よく話すのは“なっちゃん”と“つーちゃん”だ。
なっちゃんが吹奏楽部で、何回かコンクールで見てくれていたみたいで、私のフルートのファンと言ってくれた。
つーちゃんは陸上部で、運動神経もよく、どちらかというとサバサバした子だった。
そして2人から得られる情報はとても多い。
クラスの話では、やはり赤司くんはダントツ紳士で優しい王子様キャラで赤司様と呼ばれている。隠れファンクラブもあるらしい。
他にもサッカー部の田中くん、バレー部の小松くんと、結構運動部のイケメンがうちの1組には多いということ。
バスケ部の話では、バスケ部の一軍はみんな人気があるということ。
青峰も緑間くん、むっくんもそれぞれ人気があるということだった。
むっくんはさつきがつけたあだ名で、長い苗字なので私もむっくんと呼ぶことにした。
ミドリンと呼ぶ度胸はなかったが。
そして私たちマネージャーも、さつき派と雫派と男子人気があるらしく、この学年では飛び抜けていると言われた。
さつきはともかく、私はそのおこぼれをもらっているだけだと思うが…
相変わらず黄瀬くんは人気で、なっちゃんたちに聞かなくてもよく女子を連れているのを目撃している。
「雫ちゃんってなんか高嶺の花ってかんじよね」
「私たちも話しかけづらかったもんねー!」
『全然そんなんじゃないよ、ちょっと人見知りなんだよね、私』
なっちゃんたちに言われて気づいたが、どうやら私は人に話しかけにくいと思わせてしまうらしい、無表情なのと、余分なお喋りをしないからか。
「雫ちゃんは、話しかけにくいくらいお人形さんみたいで綺麗なんだよ」
私の友達はみんな優しいな。
お昼はさつきと食べる時もあれば、なっちゃんたちと食べたりと結構日によって違う。
さつきもクラスに友達いるから、それぞれどっちもうまくやっているといえるだろうか。
バスケ部のみんなともだいぶ打ち解けてきたとおもう。
青峰はもともとさつきのおかげで結構仲良しだと思ってる。よくお弁当のおかずを食べに来るのが悩みなくらい。
赤司くんも委員会に一緒に行ったり、過ごす時間は結構多いとおもう。
彼は優しくて紳士だと言われているが、マネージャーだからか結構逆らえないなにか帝王的なオーラを突きつけてくることがある。
前は無駄な話は一切しなかったけど、世間話は普通にするようになった。
紫原くんことむっくんはよくお菓子を探しに私のところにくる。
私も甘いものが好きで、バラエティパックのお菓子をって少しずつオレンジ色の巾着にいれて持ってきていることがバレたから、よくたかりにくるのだ。
緑間くんには嫌われていると思っていたけど、少し話してみたらそれは違ったらしい。
『緑間くんは私のこと嫌ってるよね』
ある日の部活終わりの掃除中にボソッと呟いたことがある。
それを青峰が緑間くんに伝えてしまった。なんなら大声で。
「緑間って藍澤のこと嫌いなのかー?」
「なっ…嫌いなどではないのだよ、何故そう思うのだ」
『青峰…!』
こうなってしまった以上言おうと思って、初対面のときの話をした。
音楽やめて部活動しているのがダメだったのか、コンクールから何か気に食わないことがあったのか…
「俺はただ、もったいないと思っただけなのだよ、お前は大人顔負けの音色を奏で、俺が唯一勝てないと思った相手だからな」
そう聞いて安心したと同時に、ここ2年間のコンクールではなにも成績を残さず、緑間くんの気持ちを踏みにじったのではと思ったが、彼はそれを察してか、私に向かって言った。
「途中からなにかあり、不調になったのは知っていたからな。音楽に嘘をつくことはできないのだよ、だから何かあったのか、聞く気も無理矢理弾かせるつもりもないのだよ」
今は優秀なマネージャーとさえ思っているからな、と彼は呟いて、そっぽを向いて掃除を再開していた。
私は嬉しいのと、安心して“ありがとう”とだけ呟いた。
赤司くんがそのやりとりを、無表情で見つめていたのはなんとなく気づいていた。