『第17章』最後の全中
ここは……どこだろう。
真っ暗な暗闇のなか、どこに何があるかわからず、立ちすくむ自分。
小さな灯りが奥に見えた。
カラフルな小さな光の集合体が…
その光の先へ進むと、そこにはひとつのピアノと、大好きな母親がいた。
なにかお母さんが私に向かって言っている。
なんて言ってるの?聞こえない。
キコエナイ…
“ごめんねーーーー”
その声が聞こえたと同時に、火が燃え上がり、私は意識を手放した。
目を開けると、白い天井だった。ここはーーー。
「目が覚めたようだね」
『せい…じゅうろ…?』
「桃井とテツヤと帰ってる時に、倒れた救急車で運ばれたんだ。2人はさっきまでいたが、桃井もいるし帰らせたよ」
『…私、なにが…』
「今、泪さんと医者が話しているところだ、安静にしていろ」
『…どうしてきてくれたの…』
「なにを当たり前のことを聞いている?僕が君の心配をしないわけないだろう」
『…そっか…ありがとう、征十郎』
そして泪が戻ってきて、私が起きているのを確認し、安心すると、征十郎と席を外した。
征十郎が心配してくれたということが嬉しくて、泣きそうになったのと、夢の中のお母さんが私は気になって仕方なかった。
「赤司くん、雫と付き合っているのはなんとなく夏終わりからわかっていたよ…」
「…報告が遅れてしまいすみません」
「雫は、過度なストレスによる狭心症だと診断されたよ…。最近様子が変なのも察しているし、なにが起きてるのかも大体把握はしている」
…兄の泪さんからしたら、僕やバスケ部とはもう関わらせたくないと思うのが普通だ。
だが僕は手放すつもりはないが…
「赤司くん、君はもう1人の君に入れ替わったんだね」
「…わかるんですね」
「雫と同じさ、生まれ育った環境で創り上げられる別の人格…雫自体はそうは思っていないと思うが。簡単にわかりやすく言うと、雫には陽の雫と、陰の雫がいる」
だから、君も過酷な家庭環境で創り上げられた別の人格がいるだろう?
お互い同じきっかけだったはずだ。
ーーーーーーーーーーー母親の死。
“”……お…か…さん“”
先程のうなされていた彼女が呟いていた。
「俺から2人を引き離すつもりはないさ。雫が決めるべき道だ。そして、それは君と同じだよ」
「…それは僕にもなにか決めるべき道があると?」
「最終的に君たち2人がどんな人格で生きていくのかなんて、部外者が決めることではないからね。君も今のまま終わりだと思わず、雫と成長するといい」
「…まるでなにもかも見透かしているような言葉ですね、お兄さん?あなたは結末を知っているのでしょう?」
「…さぁ、世の中の結末は2通りでしかないよ。バッドエンドになるか、ハッピーエンドになるか…」
「…そうですか。僕としても引き離されることはないみたいで安心しました。もう彼女を手放すつもりは毛頭ありませんから」
「君が雫を壊しても、俺と幼なじみくんでそれをフォローするまでさ」
雫が倒れたと桃井から連絡がきて、僕は息ができなくなった。
なにが望み通り止めてやるだ。
僕が止められてるじゃないか。
僕に逆らうやつは親でも殺す。
だが、彼女は例外だ。
彼女が死んだら俺は死んだも同じ。
逆らわなければいいのに、なぜそんなに僕を否定する?
だから心を壊すんだ。
無の感情に陥ったいたキミが、急に陽を創り上げてもまだ日が浅い。
そんな出来立ての感情で整理できるほど、この状況はかなり難易度が高いだろう。
ならば飲み込まれてしまえばいいのに。
なにがなんでも抗おうとして身体を壊すなんて、馬鹿のすることだ。
でもそんな彼女がとてつもなく愛おしい。
「愛してるんだ、お前を」