『第16章』崩壊する







次の日、むっくんと青峰は朝練に来なかった。



「雫、昨日…青峰くんのところに行ってくれてありがとう」


『…っ、ごめんね、青峰を引き戻せなくて…』


「…赤司くんには会った…?」


『…うん、あの後会ったよ』


「…雫は体育館にいた方が良かったよね、赤司くん、むっくんと1on1してから、人が変わったようになってしまって…」




“試合で勝てば文句はない。僕達にとって、チームプレイは邪魔なものでしか無い”



征十郎はそう言っていたと。



「むっくんが、赤司くんに勝ったら練習出ないっていうのと、雫が赤司くんのって言うのも…赤司くんが負けたら気に入らないって…」



『ありがとう、さつき…大丈夫だよ、征十郎が変わっても変わらなくても、私はそのままだから』



「…雫…、そうだね、私たちは私たちのやることをやらないとだよねっ」












昼休み、ピーチティーを買うためにいつもどおり購買に向かった。


“お前が赤司を支えろ”


1人でいると、どうしても頭に残る。虹村さんや白金監督の想い。


そして、変わってしまった征十郎…


『…っ痛いな…』

心が痛い、胸が痛い。



「…雫っち…」

『っ、黄瀬くん…昨日は途中でごめんね』


「…俺は練習出るっスよ、練習出ないのに試合に出るなんて、変な話じゃないっスか」


『…征十郎も、それに賛同したんだってね』


「…赤司っち、急に人が変わったようになったっス、あのとき、紫原っちの挑発を止められてれば…」


そっか、私だけじゃないんだよね…
あの時こうしていればという後悔は、もしかしたらその場にいた全員が思っているのかもしれない。監督も、もしかしたら征十郎も。



「…赤司っち、雫っちに対しては変わってないっスか?なんか傷つけられたり、変なことされてない?」



『か、変わってないよ…黄瀬くんは優しいね、心配してくれて、ありがとう』


「…そりゃあ好きな子の心配くらいするっスよ、何かあったらオレに相談してほしい」



『…黄瀬くんは変わらないでいてね…』







“大きすぎる力には抗うことはできない”









なっちゃんとつーちゃん、クラスメイト、生徒会のメンバーは征十郎の変化に気づいていない。

少し威圧感はあるけど、もともと馴れ合いとかするタイプでもなかったし、感じ取ってるのはキセキの世代含む一軍くらいだろうか…。




「藍澤…」

『緑間くん、昨日は…』

「俺は前から赤司には別の赤司がいるのではないかと思うことがあった」


!緑間くんは、副主将だから征十郎といる時間も多い。


「昨日、もう1人の赤司に入れ替わった。そう思っているのだよ」


『…うん、気付いてるよ、私も』


「…すまない、俺の力ではどうにもする事ができなかったのだよ」



緑間くんも、どこか負い目を感じている。
みんな、思うところはあるんだよね。




『緑間くんは、変わらないでね…』



「…俺はいつでも人事を尽くすだけなのだよ」

















「やっぱ変わったっスよね――」

「なにがなのだよ」

「雰囲気っスよ、練習の。真面目にやってるし声も出してるけど…殺伐としてるっつーか、なんか減ったっスよね。仲間意識みたいなそーゆー感覚…」


むっくんも青峰も、本当にたまにしか練習に来なくなった。
征十郎の指示で真面目に練習はしているが、空気は黄瀬くんのいうとおり、殺伐としている。

「元から部内のレギュラー争いは激しかったし、別に和気あいあいだったわけじゃないっスけど…監督と赤司っちが方針変えてからっスよねやっぱ。緑間っちもイラついてるじゃないっスか」


「どんな理由があろうと練習に来なくていいと言われて来ないような神経は理解に苦しむのだよ」

「人事を尽くさん奴など、どちらにせよ仲良くなどできんな」






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