『第15章』決壊した仲間
「「「白金監督が倒れた!?」」」
命に別状はないが、監督の復帰は無理と真田コーチは伝えた。
あのとき、監督が話していたことが本当にきてしまうなんて……
練習中にも、不穏な空気が漂い始めていた。
「決めれたからいいが、今のは紫原に2人ついていた。一度俺にボールを戻すほうがより確実だったと思うが?」
「ん…いいじゃーん決まったんだからさぁ」
少しずつ、少しずつ
むっくんも、最近力が湧き出て仕方ないぐらい。
“キセキの世代”
彼らはどこまで成長していくんだろう。
「雫…」
『んっ……ふ、ぁ……っ』
不安が増す一方で、征十郎も2人にきりになると、スイッチが入るように貪りあっていた。
生徒会室、部室、帰り道の公園…
増していく不安を紛らわすかのように。
『…征十郎も、不安?』
彼だってキセキの世代を率いる主将になって、それがプレッシャーでないはずがない。
まとめられる、まとめられない以前に、彼らは特殊すぎるかつ、力が大きすぎるから。
「…すこしね」
もし、征十郎も力が大きくなりすぎて、変わってしまったら?
今の、みんなのことを考えて不安そうに顔を曇らせている彼が、私のことを愛おしくみつめてくれる彼が、変わってしまったら….
私は息していけるのかな。
『…征十郎は、どこにもいかないでね?』
「…なにを急に言い出すんだい?」
『征十郎に突き放されたら、わたし息できないよ』
「それは困るね、俺には君が必要なんだから、突き放すことも殺してしまうこともないよ」
『うん…絶対だよ。』
「約束するよ、雫」
この日が“征十郎”と交わした、2人の最後の時間だった。
三年生が引退し、二軍から上がってきた選手たちと、青峰がよく対立するようになった。
彼らも一生懸命やってはいる、それは認める。それ以上に青峰のパワーが大きすぎるのだ。
「…青峰くん、調子良すぎて少し恐い」
「僕もそう思います」
『…あまり練習に精が入ってないようにみえるね』
「ぽたちんさぁ、最近不安そうな顔で俺と峰ちんのことみてるよねー?なんでー?」
『2人とも力が有り余ってるようにみえて、大丈夫かなって』
「じゃあなんで不安そうな顔するのー?強くなっていいじゃん、喜びなよね〜」
確かに、強くなってくれて嬉しいけど、この殺伐とした練習風景を感じ取って、不安にならないほうが変だよ…
むっくんはいつもわたしの背中を押してくれて
、征十郎とのことも応援してくれたのに…
本人は気付いていないかもしれないけど、きっと自分の力で全てなんでもできる考えになってしまっているのかな?
「なに悲しそうな顔してんの?……そんな顔してると、捻り潰すよ?」
彼はそんなことわたしには言わなかったのに。
大きい手がわたしの頭に乗るとき、いつもは安心して撫でられていた。
今日から感じたのは、“恐怖”
『っ…』
「やめろ紫原、雫がびっくりしている」
「…赤ちん…よかったねえ、念願の子が手に入ってさあ…。取られないように気をつけないとね〜」
「なに?」
そう言ってむっくんは練習に戻っていった。
テツくんと青峰のパスを見ていないように。
むっくんが赤司くんにボールを戻すところも見ていない。
それがやっぱり、悲しい。
そして、緑間くんまでもが夜の居残り中、反対のゴールにシュートして決まったのも、たまたま見てしまった。
“みんなずっと一緒だよね”
さつきのあのときの言葉が頭によぎる。
“お前が支えろ”
みんなそう言ってくれてたけど、届きそうにない。
頭の中は
“支えなきゃ”“理解しなきゃ”“繋ぎ止めなきゃ”
そんな言葉でいっぱいいっぱいで、苦しかった。