『第11章』夏休み前の亀裂
帝光祭も無事終わり、夏休み目前のなか、バスケ部は全中を意識して練習している。
後夜祭のあと、黄瀬くんと2人でいたことがバスケ部に露見し、黄瀬くんはみんなに非難されていたが、なんとか収まった。
黄瀬くんはあれから私へのアプローチがあからさまになり、冗談として受け止められなくなったわたしも、前のようにうまく流せなくなっていた。
赤司くんの視線が一層感じたけど、こちらもドキドキしてしまい、少し気まずくて、気づかないフリをしている。
「今日から監督直々の練習メニューとする」
全中に向けて、白金監督が指示するようになった。優しそうか面持ちだけど、めちゃくちゃ厳しいの間違いであった。
「…それと、赤司」
「はい」
「今日から赤司をキャプテンとする」
みんな驚いてはいたが、反論することはなかった。赤司くんには人をまとめる力が大きく、認めざるをえないからだ。
「…虹村はここまでよくやってくれた」
ーーーーーこのまま順調になにもかも行くと思っていた。
けれど、青峰はどんどんバスケが上手くなっていって、誰も太刀打ちできなくなっていた。
「くそっ!ディフェンスやる気あんのかよ!?」
「やってるよー!!青峰くんがすごすぎるんだよ」
「君を止めるなんて無理だって!」
「…くそっ!!やってられっか!」
そう言うと青峰が体育館を出て行ってしまった。
「ちょ、青峰くんっ!?」
「青峰…」
他のレギュラーも様子を伺い、誰か呼び戻さなければ…とは思っているのだろう。
ただ、下手な台詞は彼を余計に傷つけてしまうこともある。
「…藍澤くん、いってもらえるか?」
白金監督が私に表情を変えずに伝えた。
…なぜ私なんだろう。
さつきの方が、青峰をわかってあげれるのではないか?
「…適任だとおもいます。雫、青峰を呼び戻してきてくれ」
赤司くんにも背中を押され、わたしは体育館を後にした。
『……っいた、青峰』
「…なんだよ、おめーかよ…」
『あら、ごめんね?さつきじゃなくて』
それともテツくんがよかった?と言うと、そーゆうことじゃねえよ、と彼は言った。
言葉にも覇気がなく、青峰にしては珍しく本気でへこたれているみたいだ。
「最近よぉ、好きなはずのバスケが、つまんなくなってきて、嫌いになりそうなんだよ」
「練習しても、もっと強くなっちまうし、相手のやる気までなくしたら意味ねーだろ」
「なんでこうなっちまったかねぇ…」
…なんとなく気づいてはいた。
彼を止めることが、他の人にできなくなっていて、みんなが青峰に対峙すると、諦めてしまうのだ。
バスケが大好きな青峰が、やるきのなくしていく相手をみているのは辛いだろうし、張り合う敵がいなくて、孤独に感じてるんだろう、と。
『…贅沢で、深刻な悩みだね』
私は常に孤独だった。
音楽は1人でやるもので、1人で積み上げてきた。
敵なんかいないのなんて当たり前だった。
それでも1番であり続けることは、さらに孤独を感じされる。
逆に近づけさせてはいけない。常に孤高の1番でいなければいけない。
でも、青峰は、チームプレーの中で孤独を感じている。
向き合う相手がやる気をなくしていき、諦めてしまう敵の中で孤独なのだ。
じゃあ味方は?
味方は青峰を孤独にさせているのか?
『私は、音楽しかやってこなかったから、バスケのようなチームプレーの競技にどこか憧れてたよ』
『向き合った相手との差があって孤独に感じても、振り返れば“なかま”がいるじゃない』
『私にはそれすらいなかったし、周りを見渡しても誰もいなかったよ』
『青峰は前だけ向いてるから、敵しか見えていないのかもしれない。けど、後ろを見てみたら、支えてくれる仲間がいるんだよ』
「…なんだそれ、バスケがチームプレーなんて、当たり前じゃねぇか」
俺はいつも、なにをみていた…
確かに俺は、目の前の奴らだけしか見ていなかったかもしれない。
「…当たり前なのに、忘れちまってたかもしれねぇな…」
『…今は敵なしでも、青峰が本気出しても勝てるかわからない相手が、出てくるかもしれないよ』
「…そうだな、お前が言うなら出てきそうだわ…あ゛ーでも今更戻りづれぇー!!」
『…赤司くんに、“呼び戻してこい”って言われたから、待ってると思うよ?』
「…たく、赤司にもお前にも参ったわ…。しかたねえ、練習するかぁ」
青峰は前のように困ったように、少年のような笑みで言った。
「あ、峰ちん戻ってきたぁ」
「たく、練習中に出ていくなど、言語同断なのだよ」
「青峰くん心配させないでよねっ!!」
「青峰っちは俺が止めるっスよー!」
「青峰くんが抜けるとパス誰に出せばいいんですか」
「青峰、フットワーク2倍で不問にしてやる」
“なかまがいるじゃない”
そうだな、あいつの言う通りだったわ…
「フットワーク3倍だ、青峰、頑張りたまえ!」
やっぱ監督きちぃわ、くそ…!