『第9章』変化と学祭準備
「雫っちみてると羨ましくなるっす…」
昼休み、中庭で黄瀬くんが急に言い始めた。
『見た目よし、運動神経よし、の黄瀬くんがなにが羨ましいのかな?』
「…なんかその言い方トゲがあるっス…。雫っち最近楽しそうっていうか、部活楽しいんだなーっていうのが部外者の俺からみてもわかっていうか…」
ーーーバスケ部と仲良くて“バスケ部”が羨ましいっていうか…
あとの言葉は言わなかったけど、雫っちは考える素振りをみせてから、
『なんか当たり前に感じてしまっていたけど、今この夢中になれていることはすごい大切なの、忘れちゃうところだった!』
と笑顔で黄瀬くんに気付かされたーと言う姿は無邪気な女の子みたいだった。
「…俺もバスケやってみようかな…」
『黄瀬くんが入部したら、楽しくなりそう!』
そしてその日、俺はたまたまバスケ部のひとにボールをぶつけられたことをきっかけに、雫っちとのこの会話を思い出した。
体育館を覗くと、青髪のひとのプレーに俺は魅力された。
雫っちの近くにいたい!という下心がほとんどで、バスケに興味はなかったけど、初めて心の底から“この人とバスケしたい”と思えたんだ。
「俺、バスケ部入るッス!!」
それから黄瀬くんがバスケ部に入部し、あっという間に1軍の練習に合流することになった。
「藍澤さんは黄瀬くんの友人だったんですね」
休み時間に黒子くんに遭遇した。
黒子くんはまだバスケ部に入って日が浅い黄瀬くんの“教育係”に任命されたのだ。
『もともと器用だと思ってたけど、まさかこんなにすぐ一軍の練習に参加なんて、さすがだよね』
「そうですね…彼の素質には驚かされます。どうやら僕は嫌われているみたいですが」
『…黒子くんの強さは練習ではわかりにくいからね』
ただ、黄瀬くんがまだ知らないだけだ。
黒子くんが努力して見つけだした、影の薄さを活かした彼のバスケを。
「別に特別好かれたいわけではないですけど、やり辛いのは確かです」
『大丈夫だよ、きっとこのことは赤司くんも察しているから』
「…藍澤さんは、赤司くんのことをよく理解しているような気がします」
そんなことないよ、と言った。
確かに私は逆に彼のことをあまり知らないかもしれない。
『…黄瀬くんともすぐ仲良くなれるよ』
そして私の予想していた通り、黄瀬くんと黒子くんは二軍の練習試合に参加することがきっかけで、わだかまりがなくなっていた。
「雫っちー!黒子っち、見なかったっスか?」
黄瀬くんは本当にわかりやすい。
ただ入学式に出会った時よりも、はるかに生き生きしていて、バスケに打ち込む黄瀬くんはより一層キラキラしていた。
「黒子っちに、クッキー渡そうと思って!調理実習で作ったんすよ〜」
『そっか、喜ぶと思うよ!黄瀬くん、黒子くんのこと尊敬してるんだね』
「まぁ、最初はなんでこんなへぼいのが教育係なんだって、正直むかついてたんスけど…。昨日の練習試合で彼のプレーを見させられたら…認めざるを得ないっスよ。チームのために何をすべきかっていう心構えも尊敬してるっす!」
『うん、それにすぐ気づく黄瀬くんもすごいね、流石だね』
「もーーっ!雫っちのそういうところ好き!!」
黒子くんもここまであからさまに態度違うと、逆に戸惑うだろうな。
『それで、黒子くんと青峰はなんで赤司くんを探してるの?』
「何か用があったようみたいですが、途中で話が終わってしまったので気になってしまって…」
『それで1組に…、赤司くん生徒会の打ち合わせと、主将のところと色々用があったみたいだよ?あと試食会とかなんとか…』
「どーすっか、テツ、色々あたってみるか?」
「そうですね、いいんですか?一緒に来てもらって」
青峰はおうっといい返事をしていた。
本当に仲良いなこの2人。
『…黒子くん、黄瀬くんのことよかったね?』
「…さすがですね、藍澤さん」
ありがとうございます、と2人は赤司くんを探しに行った。
チャイムが鳴ると、昼休みにが終わり赤司くんが戻ってきた。
『黒子くんと青峰に会えた?』
「あぁ、体育館で会ったよ。どうやら探させてしまったらしい」
『赤司くん最近一層忙しそうだもんね』
「そんなことないよ、まぁ充実していることは確かだけれど」
『…黄瀬くんの態度に気付いて、二軍の練習試合に2人を参加させたんでしょ?』
「…やはり気付いていたか。藍澤は端的に物事を判断することに長けている、ぜひ生徒会に入って俺のサポートをしてほしいと願っているよ」
『生徒会も時期に改変時期だもんね、赤司くんが会長になるんだろうなぁ』
「…ぜひ副会長には藍澤を推薦したいところだ」
本気か冗談かわからないけど、赤司くんのサポートは大変そうだ…なんならサポートすることもなさそうだけど。
“藍澤さんは赤司くんのことよく理解していますよね”
『…今度赤司くんのこともっとよく教えてよ』
黒子くんの言葉を思い出し、赤司くんに伝えてみた。
「それは俺に興味を持ってくれてるって自惚れてもいいのかな?」
興味、というよりは、なんだろう。知りたくなったから教えてほしい。
なんで知りたくなったか、わからないけど。
『そうだよ、もっとよく知りたくなった』
赤司くんは満足そうに口角を上げて笑みを浮かべていた。