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今日から私がマスター

 昼下がりの平和を一瞬で壊したのは一発の衝撃音だった。

「えっ」

 続いて店の外にガラスがばらばらと散ってくる。それでようやく、ポアロの中にも緊張がはしる。細かな悲鳴に我に返ると、必要なことが浮かぶ。
 一見して交通事故ではない。上階からガラスが落ちてきたことから、窓が割れたことがわかる。では、どんな要因で? 日本で普通に生きていれば銃撃なんて思いもしないが、ここは米花町だ。銃撃以外にもいくつかの要因は考えられた。

「お客様、落ち着いてください! 状況の確認につとめます! 道路側の窓に近寄らないでください!」

 幸いにも店内にいた客は少ない。従業員用の裏口から外を確認する。こちらにも異常は見あたらない。上階から騒ぎの雰囲気はあるものの、こちらに被害がくるようなことではないらしい。

「落ち着いて移動してください。表の通りを避けてお帰りください。何かございましたら後日連絡いたします。本日のお支払いはけっこうです。気をつけてお帰りください」

 もしかしたら、表の騒動が陽動で他の通りでなんらかの犯罪が起きているかもしれない。もしかしたら、毛利探偵事務所からポアロの様子をうかがっている人がいるかもしれない。そんなことが浮かんでくるが、その場でじっとしているわけにもいくまい。
 自分ができることをやっていくしかない。自分の端末から警察に電話する。

「もしもし。喫茶ポアロですけれども、ええ、二階の毛利事務所の窓ガラスが割れたようでして、ええ。様子を見てほしいのですが」

 電話しながら店の施錠を確認していく。今日はもうまともな営業なんてできやしない。心臓がばくばくとうるさい。毛利さん達になにもなければいいけれど、絶対に何かあったとしか思えない。
 なにもなければ、きっとこっちに顔を出してくれるだろうけれど。

「我が身かわいさに様子を見に行けないことを許してください」

 締め切った店で唯一、客を逃がした裏口で待機する。警察が来てくれれば音がするだろうし、毛利さんも表が閉まっていたら裏を見に来てくれるはず。来なくたっていい。なにもなければそれがいい。

 少しの時間のあと、事情を聞きに警察が来た。
一階にいた私にわかることなんてほぼなかった。時間すら曖昧だったが、電話をかけた時間から割り出すことができた。親しい付き合いとはいえ、毛利先生のお宅は他人だし、簡単に「お伝えできることは少ないですが、被害を被った人はいなかったようです」とだけ教えてもらえた。ほんとうによかった。
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