今日から私がマスター
父から経営を譲渡された喫茶ポアロ。
母のわがままというか、長年の夢というかを実現するために父と母は本当にてんてこ舞いな日々を送っている。そして、しわ寄せを受けたのがこの私、娘である。なにせ経営の経験に乏しいので、どうしたらいいのかわからない。やりたいとは思っていたが、こんなに早く機会が来るとは思っていなかったのだ。
まー、喫茶店の引き継ぎだということで、しばらくは父から猛特訓を強いられ、同じ味わいのコーヒーやら料理やらは準備できるようにはなっている。
経営者としてはぺーぺーだが、スタッフとしての経験は十分にある。今まで数多のアルバイトをこなしてきたのだ、ホールもキッチンも配達やちょっとした事務まで何だってこなせる。店の立地もいい。2階に毛利探偵事務所があるから、変な人間は近寄ってこない。毛利先生もいい人である。経験上、悪くない。悪くないはずなのだが・・・・・・。
「この店、本当に道楽半分でやってたんだな。暇すぎる」
店の開店準備をした。
掃除をし、物品の補充をして音楽をかける。入り口の札を「OPEN」にして早2時間。お昼時をすぎて、客の入りは片手で数えるほどである。どう考えても赤字だ。余裕で客と会話ができてしまう。
店を引き継いでから一ヶ月たっただろうか。店の準備は随分慣れた。アルバイトの大学生とも円滑に関係を築けているし、二階の毛利先生のところとの兼ね合いも良好なのだ。それはいい。
父親からは利益が出なくともかまわないと言われている。だから、客が少ない方が丁寧に行動ができるからいいのだ。いいはずだが、
「あまりに暇だな」
自分のために経営改善を行い、顧客を増やすことでQOLの増進を計らなくてはならない。それこそが自分の望みであると思い始めていた。アルバイトとは違う視点がやや生まれてきたのも確かである。
「マスターちゃんさあ、このケーキなんか変えた~?」
「園子ったら、そんな言い方しないでもいいんじゃないの」
「園子さん、さすがですね。少しいいバニラビーンズに変えてみたんです」
ほらー、私の舌は正しいのよ。なんて胸を張って言う様子は愛らしいだろう。蘭さんは蘭さんでちょっぴり気まずそうである。気がつかなかったらしい。
目の前の女子高生と気軽なレスポンスができてしまう。あまりに暇なばかりに。
毛利探偵事務所の娘の毛利蘭さんに、その友人の鈴木園子さんらしい。鈴木財閥の娘さんだとか。
ふたりは屈託のない話しで盛り上がっては次の話しに移っていく。お供は私が入れたコーヒーとケーキ。こういう暇な喫茶店にあこがれる諸君も多いだろうが、私はまだ20代。30代が目前とはいえ、もう少し多忙でもいい。こういう会話を客とできるのも楽しいのだが、もう少し客がほしい!
経営戦略を考える必要がある!
とは思うものの、父親から引き継いだお客を大事にしないのはだめだし、それから気になることがいくつかあった。
「そういえば蘭さん。そろそろ大会が近いんじゃありませんか? おうちのことでお手伝いは必要ありませんか?」
「あれ? マスターさんに話しましたっけ? たしかにいつもご飯の準備をお願いしたりしてましたけど」
「父から聞いていますよ。遠慮しないでくださいね。毛利先生はやることはやる人ですし、事前に知っていれば蘭さんのお手伝いはできますからね」
嬉しそうに微笑む彼女だが高校生である。なんでもかんでもやらせすぎではないか? 余所さまの家の事情に首を突っ込むのはあまりよろしくはないが、それでも心配するのが人情というものである。
代替わりしてからこっち、蘭さんも随分と心を開いてくれるようになった。どうしてこんなに親しくしてくれるかはとんとわからない。時々、ポアロにやってきては学校の話しを教えてくれたり、かと思えば毛利先生の話しをしたり。大変に、親しみをもってくださっている。
蘭さんの好感度を理解しているらしい園子さんも、親しく接してくれる。もっとも、園子さんは元々がそういう性質であるらしいけれども。
まあ、なんにせよ。この生活は悪くない。グラスやカップを磨きながらそう思う。常連客のとりとめない会話や、一日の生活も、収入もトータルで考えれば「かなりいい」といっていい。
しかし、私にはほんの少し退屈だ。
母のわがままというか、長年の夢というかを実現するために父と母は本当にてんてこ舞いな日々を送っている。そして、しわ寄せを受けたのがこの私、娘である。なにせ経営の経験に乏しいので、どうしたらいいのかわからない。やりたいとは思っていたが、こんなに早く機会が来るとは思っていなかったのだ。
まー、喫茶店の引き継ぎだということで、しばらくは父から猛特訓を強いられ、同じ味わいのコーヒーやら料理やらは準備できるようにはなっている。
経営者としてはぺーぺーだが、スタッフとしての経験は十分にある。今まで数多のアルバイトをこなしてきたのだ、ホールもキッチンも配達やちょっとした事務まで何だってこなせる。店の立地もいい。2階に毛利探偵事務所があるから、変な人間は近寄ってこない。毛利先生もいい人である。経験上、悪くない。悪くないはずなのだが・・・・・・。
「この店、本当に道楽半分でやってたんだな。暇すぎる」
店の開店準備をした。
掃除をし、物品の補充をして音楽をかける。入り口の札を「OPEN」にして早2時間。お昼時をすぎて、客の入りは片手で数えるほどである。どう考えても赤字だ。余裕で客と会話ができてしまう。
店を引き継いでから一ヶ月たっただろうか。店の準備は随分慣れた。アルバイトの大学生とも円滑に関係を築けているし、二階の毛利先生のところとの兼ね合いも良好なのだ。それはいい。
父親からは利益が出なくともかまわないと言われている。だから、客が少ない方が丁寧に行動ができるからいいのだ。いいはずだが、
「あまりに暇だな」
自分のために経営改善を行い、顧客を増やすことでQOLの増進を計らなくてはならない。それこそが自分の望みであると思い始めていた。アルバイトとは違う視点がやや生まれてきたのも確かである。
「マスターちゃんさあ、このケーキなんか変えた~?」
「園子ったら、そんな言い方しないでもいいんじゃないの」
「園子さん、さすがですね。少しいいバニラビーンズに変えてみたんです」
ほらー、私の舌は正しいのよ。なんて胸を張って言う様子は愛らしいだろう。蘭さんは蘭さんでちょっぴり気まずそうである。気がつかなかったらしい。
目の前の女子高生と気軽なレスポンスができてしまう。あまりに暇なばかりに。
毛利探偵事務所の娘の毛利蘭さんに、その友人の鈴木園子さんらしい。鈴木財閥の娘さんだとか。
ふたりは屈託のない話しで盛り上がっては次の話しに移っていく。お供は私が入れたコーヒーとケーキ。こういう暇な喫茶店にあこがれる諸君も多いだろうが、私はまだ20代。30代が目前とはいえ、もう少し多忙でもいい。こういう会話を客とできるのも楽しいのだが、もう少し客がほしい!
経営戦略を考える必要がある!
とは思うものの、父親から引き継いだお客を大事にしないのはだめだし、それから気になることがいくつかあった。
「そういえば蘭さん。そろそろ大会が近いんじゃありませんか? おうちのことでお手伝いは必要ありませんか?」
「あれ? マスターさんに話しましたっけ? たしかにいつもご飯の準備をお願いしたりしてましたけど」
「父から聞いていますよ。遠慮しないでくださいね。毛利先生はやることはやる人ですし、事前に知っていれば蘭さんのお手伝いはできますからね」
嬉しそうに微笑む彼女だが高校生である。なんでもかんでもやらせすぎではないか? 余所さまの家の事情に首を突っ込むのはあまりよろしくはないが、それでも心配するのが人情というものである。
代替わりしてからこっち、蘭さんも随分と心を開いてくれるようになった。どうしてこんなに親しくしてくれるかはとんとわからない。時々、ポアロにやってきては学校の話しを教えてくれたり、かと思えば毛利先生の話しをしたり。大変に、親しみをもってくださっている。
蘭さんの好感度を理解しているらしい園子さんも、親しく接してくれる。もっとも、園子さんは元々がそういう性質であるらしいけれども。
まあ、なんにせよ。この生活は悪くない。グラスやカップを磨きながらそう思う。常連客のとりとめない会話や、一日の生活も、収入もトータルで考えれば「かなりいい」といっていい。
しかし、私にはほんの少し退屈だ。