ポケモン系SS
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ファーストスクールで一人だけ気のあう子がいた。このあたりの女の子では珍しく、かくとうタイプのポケモンを手持ちで、いつも楽しそうに遊んでいたやつ。両親が共にトレーナーで、自分もいつかチャンピオンを目指すと言っていた。時々、ウチらの年頃でやることかよ? なんて思う内容のトレーニングをやっていて、熱心で、強くて、この世で一番大切な友人だと思っていた。
まあ、それは昔のことで。ウチにはウチの理由があって彼女のそばを離れた。ンで、久しぶりに帰ってきたら、その彼女がすっごい変わってたわけ!!
『サイトウ! ゴーリキーがキョダイマックスです!! 』
モニターからよく知った名前が流れるし、彼女の手持ちだったワンリキーが進化したんだってのも分かる。でもジムチャレンジで彼女の名前を聞くなんて! たった3,4年でこんなにも人って進めるんだな? 彼女は今回のチャレンジャーに勝利した。挑戦者はまた調整をして、再びやってくるのだろう。彼女を打ち倒すために。
変わったのはそれだけじゃない。彼女は全然、笑わないのだ。常に張り詰めている。必要がないときまで。疲れてしまわないのだろうか。それで学校生活は楽しいのだろうか。明日の転入が少し憂鬱だ。サイトウに会えるのを楽しみにしていたのに。彼女の夢の話を聞いて、ウチの話をして・・・・・・なんて、想像の中では自由なんだけどな。
「はぁ~・・・・・・」
長いため息も出るってもの。まあでも、明日がくれば明日のウチがなんとかするのだ。今日はとりあえず眠ってしまおう。
それで。
「嫌なことを後回しにするのはお前の悪いクセだ」とはパパの言葉だったけど、マジでそれを痛感した。
可も無く不可も無くクラスに入って
、「よろしくー」なんて言いながら話してたけど、サイトウとは話せてない! サイトウの姿は目に入るし、声をかけようとするんだけど、周りが! さえぎっているのか!? 故意ならバトルだが!? という程度にガードが固い。なんなのだ?
「はぁ~・・・・・・」
少し重めのため息だって出るもの。ロッカーに教科書をしまいっていると、隣の子に声をかけられる。
「ずいぶん重い溜息じゃない? 初日で疲れちゃった? 」
「まーね。環境が違うからそれくらいは。でもそうじゃないの」
「そうじゃないって?」肩をすくめて返せば、彼女は不思議そうに聞き返してくる。いい子だ。とても優しいし、人の話をちゃんと聞いてくれる。
「今日一日かけて、サイトウに話しかけられなくってさー」
「いや、それは・・・・・・」
面白いことにウチの言葉に反応したのはこの子だけじゃない。ロッカールームにいるそれぞれが、ウチらの反応を伺っているのがわかった。サイトウってば学校でなんかやらかしたのか?
「ミドルスクールの頃はそこそこ仲が良かったんだよね。あいさつくらいはー、と思ってたけど近づくのも難しいじゃない? 」
「アー・・・、なんていうか・・・うちのクラスではルールを作ってて」
「ルール? 」
「サイトウに無闇に人を近づけさせない、っていうか」
「なんだそれ」思わず本音が飛び出てしまった! なんだってそんなおかしなルールが? ああ、でも確かに彼女はジムリーダーだから、ちょっと強めにでる人もいるのかもしれない。
「ジムリーダーだから? 」
「それもあるんだけど、なんていうか・・・さ。サイトウの態度に気を悪くした子がSNSでサイトウを批判したり、学校の様子とか隠し撮りしてアップしたりしてさ・・・。すっごい問題になったの。しかもサイトウ本人はなにも言わないし」
予想以上にパンチのある返答だった。それなら態度にも納得だ。予防線を張るだけ偉いし、きちんと正面からの問いかけには答えてくれたのにも優しさを感じる。むしろ1日で教えてくれるあたり、どこかでウチのことを評価したのかもしれない。
「それは大変だナー・・・。ウチのこともそう扱って当然っていうかなんか、難しいとこに来てゴメンな」
「あなたが悪いワケでもないでしょ? こっちもちゃんと始めから話さなくてごめんねー」
「感じ悪かったでしょ」と言うけど、むしろしっかりしているし、話してくれたこともあって好感度が上がたよね。むしろ仲良くなりたい感じ。他の子達も動きを再開してるし、気になっていたことは解決したみたいだ。
「ねぇ。連絡先、交換してくンない? 」
耳元でコッソリ言うと驚いた反応。「こんなことをしたのに、そういう態度の人ははじめて」らしいけど、どう考えても彼女は頑張りすぎだよ! 周りのこと、ちゃんと見て調節するなんて大人でも中々やらないことだよ。私は彼女のことが尊敬できるし、サイトウはこの子に感謝するべき。あ! ウチったら気づいちゃったわけ。鏡を見なくてもわかる。自分の顔が嫌菜感じで笑ってるわ。
「サイトウに声、かけてもいいんだもんね? ・・・うーん、3日後の放課後とか・・・・・・、16時って予定空いてる? 」
そんで。それからのウチがやったことっていうのは、もちろんサイトウに話しかけることに決まってる。学校からジムスタジアムに行く道を張ってたら会えたわけ。
「ようサイトウ! 約束をしに来たぜ! 」
「は・・・・・・? 転校生が、私になんの用でしょうか? 」
「くぁー! 本当に覚えてないとは! ウチが悔しがってるよ!? こんなにも! 珍しく!」
「はあ」
もうね、こんなにもツマらないやつになっているとは信じられない! 昔のサイトウなら・・・『変わった方ですね・・・。一戦、やりますか? 』とか言ってくれてたのに!! 冷めた目線も、表情を変えないこともバトルの上では重要な要素だけど。今この瞬間には必要なくね? いや、ウチの勝手な気持ちだけど。『頑張って!』とは言ったけど、こういうことじゃないよ。
「えー? 忘れちゃった? あの夏のバトルも、手持ちと行った海も、怒られたワイルドエリア勝手にお散歩事件も、だめ? 」
言葉を重ねる毎に記憶に触れるものがあったらしい。ウチの顔を記憶の底と照らし合わせているような、じっとりとした視線を感じる。少しだけ照れるが、ここはそんなシーンではないと心を固める。我慢するんよ、ウチ・・・。
「・・・ ・・・、じゃあ、旅は終わったんですか? 」
空白の時間を少しだけおいて、サイトウはすっかり思い出したという顔をウチに向けた。懐かしいバトルのときの顔だ。真剣で強いサイトウの覚悟の顔。でも、ウチが夢の話をしたのはこのサイトウじゃない。
「そーよ! ウチったらちゃんとやり遂げ・・・てはないんだけど! またサイトウと長話でもしたいなー!って思ったワケ! ンで、3日後の16時にケーキショップで待ち合わせね! 忘れないでよね! 」
こういうのは言い逃げが一番なのよ。最後の言葉と共に走り出して、それでモンスターボールから出したアーマーガアに飛び乗る。サイトウ自身の足はめちゃくちゃに早いので、こうでもしたあいと逃げきれない。
サイトウは厳しいスケジュールを組んでる、っていう噂もあるけど……。とりあえずこの場を乗り切っちゃえば何とかなる。学校はなんとかサイトウを避け続けて。そうしたら、サイトウは絶対に約束を守る人だから。「無理だから約束取り消して」を聞かなければ、サイトウは約束を破らない。そういう子なのだ。
しかし、だ。学校でサイトウを避けまくるのは非常に難しかった。苦労の連続だったのだ。話を知らないクラスメイト達が、ウチとサイトウを切り離してくれたおかげで乗り越えられたようなものだ。この数日で体重が落ちたし、事情を知っているあの子には笑われた。先生方は目を白黒させてるし。
まぁでも、そのかいがあって約束の日なので。苦労は不問なのだ。連絡先を約束していた子と一緒に15分前に店に入った。サイトウは時間通りにくるだろうから、先手を打つ必要があるのだ。
「……いや、やりすぎじゃない? ていうか、なんで私も同じ席に着く必要が…? 」
「必要だからっしょ!! ていうかサイトウはあなたに感謝すべきだもん」
「ほらー注文して」とメニューを突き付けながら、サイトウの行動パターンを思い浮かべていく。すぐに帰るか、少し話してくれるか。興味を示してくれるか…、ないなあ。あの状態のサイトウはバトルが一番楽しく、それ以外にはとくに何も思わないだろう。どうやってあの緊張感を保っているのか謎すぎる。常人じゃ無理だ。
「えー、この期間限定のやつと、いつものパンケーキは食べたいかなー」
「もっとだよ! 今日はウチ持ちだから三人でいっぱい食べれる量にしよ! "プリン"・ア・ラ・モード!? なにコレ!? コレ…これ頼もう…あとはミルフィーユとロイヤルミルクティー、軽めにポケモンクッキーも頼んどこっかー」
「カロリー爆発すぎる…。じゃあコーヒーフロートも頼んじゃおっかな。ありがと、ごちそうになりまーす!」
店員に注文を告げたあたりで新たな来店者が。もちろんそれは待ち人のサイトウだ! ケーキショップであんなに難しい顔をする人も珍しいんじゃない? 向かいの席から「本当に来た…」とか声がもれましたけど、サイトウは約束を守る人だって言ったじゃん?
手を振ってアピールすると、店員さんに何事かを告げてこっちに来る。スキのない足取りだ。これからバトルが始まりそうな顔つきでもある。サイトウ、ケーキショップとかこなさそうだから指定してみたけど、ミスだったかもなー。
「座ってよサイトー! 今日は何時までいれそう? 」
「何時までもいません。あなたの話を聞いたらすぐに帰ります」
「サイトウ、お店に来たら飲み物くらいは頼むもんだよ。ウチらはロイヤルミルクティーとコーヒーフロートを頼んだから、サイトウもなんか注文しなよ」
さっきまでめくっていたメニューをサイトウに見せる。サイトウに迷いが生じたのがすぐにわかった。興味深いことに、ここに来てサイトウのこの"バトルモード"とでもいうべき状態が以前よりもゆるんでいることに気が付いた。もしやこの状態でもONとOFFがあるのか…? なんて複雑なんだ! 逆にすごいぞ! 精神と体が鍛えられているからこそ、この状態が維持できているのだろう。
「… …、なら…、えっと、コーヒーにします」
ウチの向かい側に腰を下ろして、メニューを見て、小さな声でそう言った! そのときのウチの気持ちがわかる!? ここで追い込んでも仕方がないからつとめて抑えて、店員さんを読んだけど。ここでコーヒーしか頼めないのが今のサイトウなんだな。良かったかもしれない。ケーキショップにして。
注文を終えると微妙な沈黙に入ってしまった。そもそもこのメンバーで口を開くの、ウチしかいないけど。沈黙に乗っかってサイトウのことをじっと見つめる。ウサギみたいなリボンも、グレーの髪も、するどい眼差しもずっと大人になった。ウチと同じくらい育ったワケだけど、サイトウを見るとそれがずっと感じられた。サイトウは挑むようにウチを睨みつける。
「それで、話したいことってなんですか? 」
「もー、そういうところ変わってないねー! サイトウが今どうしてるかー、とか。ウチが何をしてたかー、とか学校の話題のこととか話したいじゃん? 」
「無駄では?」みたいな顔をしているサイトウだけど、サイトウには意味があってほしいし、もう一人は面白そうな顔をし始めた。サイトウは面白い人だよ。
「久しぶりに帰ってきたらサイトウがジムリーダーでびっくりしたんだよ! 苦労話とか聞きたいじゃん??」
「……あなたはその久しぶりの間に、一度も連絡をくれませんでしたが? 」
「えっ」
「うわー、それはサイトウがかわいそうなやつ…。あんた、昔からそんな感じだったんだー」
「え、そういう感じってなに? え、それは……その、申し訳ないっていうか、その…」
ウチが話題を提供しようとしたら先に刺されたみたいな。さすがサイトウ。先制攻撃もお手の物だな。タジタジのウチがエピソードを語る前に、お店の人がドリンクを持ってきてくれた。ついでに注文したスイーツも。
三人がそこそこ食べれるように注文したので、量はそこそこになる。思わず声が出ちゃうよねー。ウチなんかスマホロトムを呼び出したけど、サイトウは固まっちゃってる。
「サイトー? どれ食べたいー? 写真撮るー? それともウチの言い訳でも聞く? 」
「うひひ! その選択肢やばくね? どう考えても最後はないっしょ!」
「はぁー? 重要じゃん。ウチの名誉のために! でもそれは茶請け話でいいな…」
どれを食べる? とは聞いたものの、サイトウの目が釘付けになっているのはプリン"・ア・ラ・モードだ。やっぱりウチったら冴えてるじゃん? さっきまでのキツい目線は消えてるし、マジで甘いものは神かもしれん。サイトウの目の前に差し出すと、我に返って表情も戻ったけどもう遅いかな。隣のあの子は撮影に夢中で気づいてないみたいだったけど。
「どうぞ~。今日の支払いはウチもちですから。……お手紙の件も含めて。たんとお食べ?」
「……じゃあ、いただきます」
その時の顔ったら! 思わずロトムに隠し撮りをしてもらったもんね。すっごい美味しそうで、驚いて、嬉しそうだったもん。ウチの心のアルバムに保存したし、クラウドストレージにも分散保存してもらった。「夢中」っていうのは、こういうときに使うんだろうね。隣の子もビックリした顔でナイフとフォークを手に固まってる。それで次に何を思ったのか、いそいそとパンケーキを切り分けてサイトウの口元へ! 天才か!? 「あーん」に合わせて若干モタついた、遠慮が見えたサイトウに「いいからいいから」って言いながら与えていた。やつはやはり天才かもしれん。連れてきて大正解。
「美味しー? 」
口をもぐもぐさせているサイトウに、あえてこのタイミングで声をかけてみる。律儀なサイトウだから、口元をおさえてコクコクと頷くワケ! スーパーキュート! グレイトフル! このサイトウが見たかった! 目線を交わしたけど、彼女もサイトウの魅力に気が付いたみたい。でしょ! サイトウってば素敵な人なんだよ!
「んふふふ、なんかもうウチの話も必要なくね? って感じだけど言い訳しとくね。サイトウには連絡する―、とか言ってたウチは初日のキャンプでレターセットを野生のポケモンに食べられちゃったわけ。親にも連絡できなかったからすっごい怒られたんだけど」
「やべーやつじゃん。街についてから書けばいいじゃん」
「いや…。その……街についてからはちょっと夢中で…」
「まずいやつだね」
「まずいやつなんで…、すいません…。いやでもそっちも中々じゃん? 転校してコッチ、サイトウに気取られないで防衛線を張ってたんでしょ? すごいよ」
「ちょっと待ってなんで今!? 」
「防衛線って? 」
まあそうやってガールズトークは止まらなくて。サイトウは気の抜けた顔が出来るようになって。次の日の学校ではあの顔だったけど、時々、時間が合えばお茶会は開かれたし、サイトウはよく笑うようになった。
この一月後の対ダンデ戦で負けたサイトウが、物騒でキレイな話を携えてくるのは別の話。その後にサイトウのファンがすっごく増えたのも別の話。そうなの! サイトウってとっても素敵なんだから!
まあ、それは昔のことで。ウチにはウチの理由があって彼女のそばを離れた。ンで、久しぶりに帰ってきたら、その彼女がすっごい変わってたわけ!!
『サイトウ! ゴーリキーがキョダイマックスです!! 』
モニターからよく知った名前が流れるし、彼女の手持ちだったワンリキーが進化したんだってのも分かる。でもジムチャレンジで彼女の名前を聞くなんて! たった3,4年でこんなにも人って進めるんだな? 彼女は今回のチャレンジャーに勝利した。挑戦者はまた調整をして、再びやってくるのだろう。彼女を打ち倒すために。
変わったのはそれだけじゃない。彼女は全然、笑わないのだ。常に張り詰めている。必要がないときまで。疲れてしまわないのだろうか。それで学校生活は楽しいのだろうか。明日の転入が少し憂鬱だ。サイトウに会えるのを楽しみにしていたのに。彼女の夢の話を聞いて、ウチの話をして・・・・・・なんて、想像の中では自由なんだけどな。
「はぁ~・・・・・・」
長いため息も出るってもの。まあでも、明日がくれば明日のウチがなんとかするのだ。今日はとりあえず眠ってしまおう。
それで。
「嫌なことを後回しにするのはお前の悪いクセだ」とはパパの言葉だったけど、マジでそれを痛感した。
可も無く不可も無くクラスに入って
、「よろしくー」なんて言いながら話してたけど、サイトウとは話せてない! サイトウの姿は目に入るし、声をかけようとするんだけど、周りが! さえぎっているのか!? 故意ならバトルだが!? という程度にガードが固い。なんなのだ?
「はぁ~・・・・・・」
少し重めのため息だって出るもの。ロッカーに教科書をしまいっていると、隣の子に声をかけられる。
「ずいぶん重い溜息じゃない? 初日で疲れちゃった? 」
「まーね。環境が違うからそれくらいは。でもそうじゃないの」
「そうじゃないって?」肩をすくめて返せば、彼女は不思議そうに聞き返してくる。いい子だ。とても優しいし、人の話をちゃんと聞いてくれる。
「今日一日かけて、サイトウに話しかけられなくってさー」
「いや、それは・・・・・・」
面白いことにウチの言葉に反応したのはこの子だけじゃない。ロッカールームにいるそれぞれが、ウチらの反応を伺っているのがわかった。サイトウってば学校でなんかやらかしたのか?
「ミドルスクールの頃はそこそこ仲が良かったんだよね。あいさつくらいはー、と思ってたけど近づくのも難しいじゃない? 」
「アー・・・、なんていうか・・・うちのクラスではルールを作ってて」
「ルール? 」
「サイトウに無闇に人を近づけさせない、っていうか」
「なんだそれ」思わず本音が飛び出てしまった! なんだってそんなおかしなルールが? ああ、でも確かに彼女はジムリーダーだから、ちょっと強めにでる人もいるのかもしれない。
「ジムリーダーだから? 」
「それもあるんだけど、なんていうか・・・さ。サイトウの態度に気を悪くした子がSNSでサイトウを批判したり、学校の様子とか隠し撮りしてアップしたりしてさ・・・。すっごい問題になったの。しかもサイトウ本人はなにも言わないし」
予想以上にパンチのある返答だった。それなら態度にも納得だ。予防線を張るだけ偉いし、きちんと正面からの問いかけには答えてくれたのにも優しさを感じる。むしろ1日で教えてくれるあたり、どこかでウチのことを評価したのかもしれない。
「それは大変だナー・・・。ウチのこともそう扱って当然っていうかなんか、難しいとこに来てゴメンな」
「あなたが悪いワケでもないでしょ? こっちもちゃんと始めから話さなくてごめんねー」
「感じ悪かったでしょ」と言うけど、むしろしっかりしているし、話してくれたこともあって好感度が上がたよね。むしろ仲良くなりたい感じ。他の子達も動きを再開してるし、気になっていたことは解決したみたいだ。
「ねぇ。連絡先、交換してくンない? 」
耳元でコッソリ言うと驚いた反応。「こんなことをしたのに、そういう態度の人ははじめて」らしいけど、どう考えても彼女は頑張りすぎだよ! 周りのこと、ちゃんと見て調節するなんて大人でも中々やらないことだよ。私は彼女のことが尊敬できるし、サイトウはこの子に感謝するべき。あ! ウチったら気づいちゃったわけ。鏡を見なくてもわかる。自分の顔が嫌菜感じで笑ってるわ。
「サイトウに声、かけてもいいんだもんね? ・・・うーん、3日後の放課後とか・・・・・・、16時って予定空いてる? 」
そんで。それからのウチがやったことっていうのは、もちろんサイトウに話しかけることに決まってる。学校からジムスタジアムに行く道を張ってたら会えたわけ。
「ようサイトウ! 約束をしに来たぜ! 」
「は・・・・・・? 転校生が、私になんの用でしょうか? 」
「くぁー! 本当に覚えてないとは! ウチが悔しがってるよ!? こんなにも! 珍しく!」
「はあ」
もうね、こんなにもツマらないやつになっているとは信じられない! 昔のサイトウなら・・・『変わった方ですね・・・。一戦、やりますか? 』とか言ってくれてたのに!! 冷めた目線も、表情を変えないこともバトルの上では重要な要素だけど。今この瞬間には必要なくね? いや、ウチの勝手な気持ちだけど。『頑張って!』とは言ったけど、こういうことじゃないよ。
「えー? 忘れちゃった? あの夏のバトルも、手持ちと行った海も、怒られたワイルドエリア勝手にお散歩事件も、だめ? 」
言葉を重ねる毎に記憶に触れるものがあったらしい。ウチの顔を記憶の底と照らし合わせているような、じっとりとした視線を感じる。少しだけ照れるが、ここはそんなシーンではないと心を固める。我慢するんよ、ウチ・・・。
「・・・ ・・・、じゃあ、旅は終わったんですか? 」
空白の時間を少しだけおいて、サイトウはすっかり思い出したという顔をウチに向けた。懐かしいバトルのときの顔だ。真剣で強いサイトウの覚悟の顔。でも、ウチが夢の話をしたのはこのサイトウじゃない。
「そーよ! ウチったらちゃんとやり遂げ・・・てはないんだけど! またサイトウと長話でもしたいなー!って思ったワケ! ンで、3日後の16時にケーキショップで待ち合わせね! 忘れないでよね! 」
こういうのは言い逃げが一番なのよ。最後の言葉と共に走り出して、それでモンスターボールから出したアーマーガアに飛び乗る。サイトウ自身の足はめちゃくちゃに早いので、こうでもしたあいと逃げきれない。
サイトウは厳しいスケジュールを組んでる、っていう噂もあるけど……。とりあえずこの場を乗り切っちゃえば何とかなる。学校はなんとかサイトウを避け続けて。そうしたら、サイトウは絶対に約束を守る人だから。「無理だから約束取り消して」を聞かなければ、サイトウは約束を破らない。そういう子なのだ。
しかし、だ。学校でサイトウを避けまくるのは非常に難しかった。苦労の連続だったのだ。話を知らないクラスメイト達が、ウチとサイトウを切り離してくれたおかげで乗り越えられたようなものだ。この数日で体重が落ちたし、事情を知っているあの子には笑われた。先生方は目を白黒させてるし。
まぁでも、そのかいがあって約束の日なので。苦労は不問なのだ。連絡先を約束していた子と一緒に15分前に店に入った。サイトウは時間通りにくるだろうから、先手を打つ必要があるのだ。
「……いや、やりすぎじゃない? ていうか、なんで私も同じ席に着く必要が…? 」
「必要だからっしょ!! ていうかサイトウはあなたに感謝すべきだもん」
「ほらー注文して」とメニューを突き付けながら、サイトウの行動パターンを思い浮かべていく。すぐに帰るか、少し話してくれるか。興味を示してくれるか…、ないなあ。あの状態のサイトウはバトルが一番楽しく、それ以外にはとくに何も思わないだろう。どうやってあの緊張感を保っているのか謎すぎる。常人じゃ無理だ。
「えー、この期間限定のやつと、いつものパンケーキは食べたいかなー」
「もっとだよ! 今日はウチ持ちだから三人でいっぱい食べれる量にしよ! "プリン"・ア・ラ・モード!? なにコレ!? コレ…これ頼もう…あとはミルフィーユとロイヤルミルクティー、軽めにポケモンクッキーも頼んどこっかー」
「カロリー爆発すぎる…。じゃあコーヒーフロートも頼んじゃおっかな。ありがと、ごちそうになりまーす!」
店員に注文を告げたあたりで新たな来店者が。もちろんそれは待ち人のサイトウだ! ケーキショップであんなに難しい顔をする人も珍しいんじゃない? 向かいの席から「本当に来た…」とか声がもれましたけど、サイトウは約束を守る人だって言ったじゃん?
手を振ってアピールすると、店員さんに何事かを告げてこっちに来る。スキのない足取りだ。これからバトルが始まりそうな顔つきでもある。サイトウ、ケーキショップとかこなさそうだから指定してみたけど、ミスだったかもなー。
「座ってよサイトー! 今日は何時までいれそう? 」
「何時までもいません。あなたの話を聞いたらすぐに帰ります」
「サイトウ、お店に来たら飲み物くらいは頼むもんだよ。ウチらはロイヤルミルクティーとコーヒーフロートを頼んだから、サイトウもなんか注文しなよ」
さっきまでめくっていたメニューをサイトウに見せる。サイトウに迷いが生じたのがすぐにわかった。興味深いことに、ここに来てサイトウのこの"バトルモード"とでもいうべき状態が以前よりもゆるんでいることに気が付いた。もしやこの状態でもONとOFFがあるのか…? なんて複雑なんだ! 逆にすごいぞ! 精神と体が鍛えられているからこそ、この状態が維持できているのだろう。
「… …、なら…、えっと、コーヒーにします」
ウチの向かい側に腰を下ろして、メニューを見て、小さな声でそう言った! そのときのウチの気持ちがわかる!? ここで追い込んでも仕方がないからつとめて抑えて、店員さんを読んだけど。ここでコーヒーしか頼めないのが今のサイトウなんだな。良かったかもしれない。ケーキショップにして。
注文を終えると微妙な沈黙に入ってしまった。そもそもこのメンバーで口を開くの、ウチしかいないけど。沈黙に乗っかってサイトウのことをじっと見つめる。ウサギみたいなリボンも、グレーの髪も、するどい眼差しもずっと大人になった。ウチと同じくらい育ったワケだけど、サイトウを見るとそれがずっと感じられた。サイトウは挑むようにウチを睨みつける。
「それで、話したいことってなんですか? 」
「もー、そういうところ変わってないねー! サイトウが今どうしてるかー、とか。ウチが何をしてたかー、とか学校の話題のこととか話したいじゃん? 」
「無駄では?」みたいな顔をしているサイトウだけど、サイトウには意味があってほしいし、もう一人は面白そうな顔をし始めた。サイトウは面白い人だよ。
「久しぶりに帰ってきたらサイトウがジムリーダーでびっくりしたんだよ! 苦労話とか聞きたいじゃん??」
「……あなたはその久しぶりの間に、一度も連絡をくれませんでしたが? 」
「えっ」
「うわー、それはサイトウがかわいそうなやつ…。あんた、昔からそんな感じだったんだー」
「え、そういう感じってなに? え、それは……その、申し訳ないっていうか、その…」
ウチが話題を提供しようとしたら先に刺されたみたいな。さすがサイトウ。先制攻撃もお手の物だな。タジタジのウチがエピソードを語る前に、お店の人がドリンクを持ってきてくれた。ついでに注文したスイーツも。
三人がそこそこ食べれるように注文したので、量はそこそこになる。思わず声が出ちゃうよねー。ウチなんかスマホロトムを呼び出したけど、サイトウは固まっちゃってる。
「サイトー? どれ食べたいー? 写真撮るー? それともウチの言い訳でも聞く? 」
「うひひ! その選択肢やばくね? どう考えても最後はないっしょ!」
「はぁー? 重要じゃん。ウチの名誉のために! でもそれは茶請け話でいいな…」
どれを食べる? とは聞いたものの、サイトウの目が釘付けになっているのはプリン"・ア・ラ・モードだ。やっぱりウチったら冴えてるじゃん? さっきまでのキツい目線は消えてるし、マジで甘いものは神かもしれん。サイトウの目の前に差し出すと、我に返って表情も戻ったけどもう遅いかな。隣のあの子は撮影に夢中で気づいてないみたいだったけど。
「どうぞ~。今日の支払いはウチもちですから。……お手紙の件も含めて。たんとお食べ?」
「……じゃあ、いただきます」
その時の顔ったら! 思わずロトムに隠し撮りをしてもらったもんね。すっごい美味しそうで、驚いて、嬉しそうだったもん。ウチの心のアルバムに保存したし、クラウドストレージにも分散保存してもらった。「夢中」っていうのは、こういうときに使うんだろうね。隣の子もビックリした顔でナイフとフォークを手に固まってる。それで次に何を思ったのか、いそいそとパンケーキを切り分けてサイトウの口元へ! 天才か!? 「あーん」に合わせて若干モタついた、遠慮が見えたサイトウに「いいからいいから」って言いながら与えていた。やつはやはり天才かもしれん。連れてきて大正解。
「美味しー? 」
口をもぐもぐさせているサイトウに、あえてこのタイミングで声をかけてみる。律儀なサイトウだから、口元をおさえてコクコクと頷くワケ! スーパーキュート! グレイトフル! このサイトウが見たかった! 目線を交わしたけど、彼女もサイトウの魅力に気が付いたみたい。でしょ! サイトウってば素敵な人なんだよ!
「んふふふ、なんかもうウチの話も必要なくね? って感じだけど言い訳しとくね。サイトウには連絡する―、とか言ってたウチは初日のキャンプでレターセットを野生のポケモンに食べられちゃったわけ。親にも連絡できなかったからすっごい怒られたんだけど」
「やべーやつじゃん。街についてから書けばいいじゃん」
「いや…。その……街についてからはちょっと夢中で…」
「まずいやつだね」
「まずいやつなんで…、すいません…。いやでもそっちも中々じゃん? 転校してコッチ、サイトウに気取られないで防衛線を張ってたんでしょ? すごいよ」
「ちょっと待ってなんで今!? 」
「防衛線って? 」
まあそうやってガールズトークは止まらなくて。サイトウは気の抜けた顔が出来るようになって。次の日の学校ではあの顔だったけど、時々、時間が合えばお茶会は開かれたし、サイトウはよく笑うようになった。
この一月後の対ダンデ戦で負けたサイトウが、物騒でキレイな話を携えてくるのは別の話。その後にサイトウのファンがすっごく増えたのも別の話。そうなの! サイトウってとっても素敵なんだから!