カラノウチ
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よく晴れた秋の日だ。庭木はもう随分前から赤くなっていて、赤とんぼがゆうゆうと空を横切っていく。まあまあ広い室内には織り機が3台。それに糸紡ぎやら糸巻きやらがところ狭しと並んでいる。部屋の中には女が出入りしていて、織り機に座る3人と数人が長く居座っていた。
すごしやすくなってきたからか、それとも納期が終わったばかりだからか。室内では小鳥のさえずりのようにおしゃべりがつきない。かったんからころ、ぴーちくぱーちく。かったんからころぴーちくぱちく。
「本家の3番めのぼっちゃん、業(カルマ)ポイントがあやしいらしいよ。うける」
「まじ? この時期で噂が流れるなら危うくね?」
「そーそ。なんか才能の開花も良し悪しって感じ。驕れる者は久しからず、じゃんね」
「なんでそんなに恨まれてんの?」
「えー? やっぱつらくあたるらしいよ。横柄というか? いとこがポイント入れたって言ってたもん」
「それはやば」
動かす手は止めず、おしゃべりの口も止まらない。昨日あったこと、今日のニュースのこと、万屋街で見たおもしろいこと、家族がやらかしたこと、一族の話。話題が途切れることはなく、一人が話し終えたら次の一人に移っていく。そうやって布は織られていく。審神者がつかう異界のひとつ、万屋街に織処は作られていた。
注文通りの糸、注文通りの色。織るものと糸を準備するもの、それから遠くの畑には糸を準備する別の人たち。卜部(うらのべ)という家は、審神者が実装されたころから認められた霊能者の家系である。これが大変手広くやっていて、手織りの布を植物を育てるところからやっている。一般の人を雇い入れたりして、裾野も広い。血の濃淡でなく、才能をきちんと計って采配をやっていた。
機織りとして働く川戸波音は、卜部(うらのべ)の傍流であったが才能らしい才能がなかった。ただ彼女の場合はこの生活に満足していた。ティーンの頃のような傷ついた心は落ち着いて、規則正しく働けるし賃金もしっかりしていたから文句はなかった。昼には庭の休憩どころで昼寝をしたって怒られない。
今日もそうやって昼寝をしようと椅子をひっぱりだしたところだった。
「おお、そなたが岩融の言っておった女子か」
「たしかにたしかに。見た覚えがあるな」
「なるほどな。そういうことならわかる」
目の前に三日月宗近ばかりが3人。一体何事なのか。
「どのようなご用件でしょうか?」
「とまどっておるな? まあ当然か」
「当然よ。要件があってな、岩融は知ってるか?」
「薙刀の刀剣男士で、三条の出だ。偉丈夫でな、弁慶公のような衣服を身にしている」
「はあ、存じておりますが…」
顔を輝かせる様子は幼子のようだ。しかし同じ顔が3つも並んでいると不思議な心地であり、次に会った時にはどれがどれなのか確実に不明になってると思った。
「それはよかった」
「おい。我らの所属を述べておらんぞ」
「そうだな、どうも気が急いてしまっていかんな」
「我らはな、雪と月と花と申す」
「実はな、総務局の岩融がそなたと話してみたいと言っておってな」
「なんでもそなたがここで昼寝をしてるところを見たそうだが、どうも気が合いそうだということで」
「会ってやってはくれなんだか」
「私の? 昼寝姿を見た岩融さんが総務局で待っている、と??」
くすくすと笑う三日月宗近(雪月花)たちは、袖で口元をかくしてそれはまあ美しい。しかし言っている内容はあんまりだ。なんでだ。私が休憩中に昼寝をしたからなんだっていうんだ。見分けのつかない刀方は普段のおしとやかさで笑う。
「そうだ。そなたには才能がある」
「その力を岩融に貸してやってくれ」
「そなたの性質にあれはよくはまるだろう」
ぎり、と胸の奥が痛んだのは才能と口にされたからだ。才能なんてない。卜部(うらのべ)の家系で才能があるなら、少なくとも別家に迎えられているし、もっと恵まれていたら本家に呼ばれている。才能がないから、ここで、織手をやっているのだ。
ほんの少し眉を下げたのは三日月宗近‐雪だろう。この三日月宗近たちは、どういう仕掛けなのか雪月花の順番に口を開いているようだった。
「そなたには嬉しくない話しであったか。しかし、望む者がいることもたしかだ。どうか会ってやってくれ」
「そなたにまた会えるのを楽しみにしておるが、」
「じじいのたわ言と思ってもらってもかまわんからな」
しずしずと帰る三日月宗近(雪月花)の背を見送った。ちょうど休憩を終える時間だった。
べつに、霊的な才能があったところで、なくても、私は生きていられる。それは重々にわかっている。伸びた髪がカーテンみたいに世界を隠した。ほんのすこし暗くなった世界で、でもそれってチャンスなんじゃないのって心が囁く。それって私の人生にいいことなんだろうか。私にあるわずかな才能でなにかできるんだろうか、って。立ち上がって大きく息を吸う。午後からも布を織らないといけない。
返事はさておき、会ってから決めたいと思った。だって、だれかに望まれるってとっても嬉しかったから。お礼を言ってみたかった。それなら、次のおやすみの日にしよう。
「あ? 三人の三日月宗近? 仲人トリオか? なんも聞いてねえぞこっちはよ」
「どなた? 岩融? あー、対応課の岩融さんかな? 申請用紙が残ってるかも」
総務局の受付にいたのは肥前。声を聞き取ったのか、後ろから出てきた人の職員さんが助け舟を出してくれる。
「仲人? あの三日月さんたちは仲人なんですか? 」
「そうだ。あんた以外にもやつらに招かれるやつがいる。なぜか成就率が異様にいいんだ。それにご破産も少ない。総務局の仕事として仲人に就任させたぐらいだからな」
普段はここで茶を飲んでいるか、そのへんを彷徨っているという。肥前も一緒に探しているため、私はやや手持ち無沙汰。室内にふらふらと視線をやっていると、奥の方に岩融が見えた。大きな身体を小さくして机上の端末でなにか作業をしているらしい。それがやたらと目についた。
「成就率? ……成就するとどうなるんですか? 」
「野暮なことを聞くねえ。お、あった。そりゃあ、政府職員の一端になるに決まってるだろ」
厚いファイル綴りから一枚引き出したものは、岩融の申請らしい。よくわからないため質問したところ、丁寧な回答をもらった。
本丸で審神者に使われる刀剣が一般的であること。それ以外に政府で働いている刀剣がいること。政府で働いている刀剣の中には各本丸に配置されることが確定しているもの、そうでないものと別れていること。そして、主が欲しい刀と主を必要としない刀があるらしい。ただ、主が欲しい政府所属刀は、一般人から主を見つけないとならないため大変なためにこういった申請がある。
「なるほど。刀と一般人のマッチングをするから仲人と」
「それで? あんたどうするつもりだ? とりあえず顔合わせか?」
「も~野暮なのは肥前さんのほうですよ。当然顔合わせです。それと、マッチングした人のほうは刀剣の所属部署に配置されることがほとんどです。もちろん、主人になった方の人生に沿うこともありますが、確率は低いです。
彼らは人の形をもっていても刀剣ですので」
説明をした人のネームプレートには鬼塚とあった。鬼塚さんはてきぱきと手続きをすすめていく。どうやら今日このまま会うらしい。隣では肥前がどこかに電話をかけている。
頭によぎるのは早まったかもしれないという後悔。もう少しで顔を合わせるというのに、気が重くなってきていた。強い予感がしていた、特大に人生が切り替わるようなそんな感覚だ。
「あ? なんだよ後ろにいるじゃねえか」
「それではこちらに記名をお願いします」
肥前が電話を切って、先ほど目についた岩融のほうに歩いていく。心臓が爆発的に加速していく。手のひらがしめってペンが滑る。申請用紙の下部に自分の名前を書く欄があった。苗字名前、年齢。川戸波音、26歳。恐怖と期待の波に飲みこまれてしまいそうだった。
「はい。結構ですよ。ありがとうございます。えっと、ああ、肥前さん、あのテーブルで大丈夫そうでしたか? 」
「ああ、問題ないみてえだ。そのまま応接のとこでいいだろ」
「ではこのまま案内しますね」と言う鬼塚さんはカウンターを開けてくれて、その背中を追いかけていく。カウンターの内側のデスクはとにかくどれも書類が積まれていた。2200年を超えても日本人は紙の呪縛から解き放たれなかった。緊張感をまぎらわすための観察だったが、たいした効果はない。人も刀剣男士もそれぞれ作業をこなしているらしい。目を、奥にやることはできなかった。先ほどまで岩融が座っていた席は空になっていて、その先に移動式の壁で区切られたブースがいくつかあるようだった。
「こちらになります。安全のために肥前が同室します。また、身に危険を感じた際には大声で助けを求めてください。聞こえた者が絶対にあなたの安全をお守りします」
「ああ、有事の際には全部どうにかするが、面談中はおれのことを空気だと思ってくれていい」
ブースの中から顔を覗かせた肥前が言う。奥には岩融の服が見えるが、まだ顔は見えない。こちらから見えるパイプ椅子が私の席だろう。差し出された手の先に進む。席について、意図せず伏せていた目を上げるとやわく微笑んだ岩融がこちらを見ていた。目の底は冬の夕暮れ色だ。
「ごゆっくり」
鬼塚さんの声がとおくに聞こえる。ブースの扉を閉める音が耳の奥で響く。
すごしやすくなってきたからか、それとも納期が終わったばかりだからか。室内では小鳥のさえずりのようにおしゃべりがつきない。かったんからころ、ぴーちくぱーちく。かったんからころぴーちくぱちく。
「本家の3番めのぼっちゃん、業(カルマ)ポイントがあやしいらしいよ。うける」
「まじ? この時期で噂が流れるなら危うくね?」
「そーそ。なんか才能の開花も良し悪しって感じ。驕れる者は久しからず、じゃんね」
「なんでそんなに恨まれてんの?」
「えー? やっぱつらくあたるらしいよ。横柄というか? いとこがポイント入れたって言ってたもん」
「それはやば」
動かす手は止めず、おしゃべりの口も止まらない。昨日あったこと、今日のニュースのこと、万屋街で見たおもしろいこと、家族がやらかしたこと、一族の話。話題が途切れることはなく、一人が話し終えたら次の一人に移っていく。そうやって布は織られていく。審神者がつかう異界のひとつ、万屋街に織処は作られていた。
注文通りの糸、注文通りの色。織るものと糸を準備するもの、それから遠くの畑には糸を準備する別の人たち。卜部(うらのべ)という家は、審神者が実装されたころから認められた霊能者の家系である。これが大変手広くやっていて、手織りの布を植物を育てるところからやっている。一般の人を雇い入れたりして、裾野も広い。血の濃淡でなく、才能をきちんと計って采配をやっていた。
機織りとして働く川戸波音は、卜部(うらのべ)の傍流であったが才能らしい才能がなかった。ただ彼女の場合はこの生活に満足していた。ティーンの頃のような傷ついた心は落ち着いて、規則正しく働けるし賃金もしっかりしていたから文句はなかった。昼には庭の休憩どころで昼寝をしたって怒られない。
今日もそうやって昼寝をしようと椅子をひっぱりだしたところだった。
「おお、そなたが岩融の言っておった女子か」
「たしかにたしかに。見た覚えがあるな」
「なるほどな。そういうことならわかる」
目の前に三日月宗近ばかりが3人。一体何事なのか。
「どのようなご用件でしょうか?」
「とまどっておるな? まあ当然か」
「当然よ。要件があってな、岩融は知ってるか?」
「薙刀の刀剣男士で、三条の出だ。偉丈夫でな、弁慶公のような衣服を身にしている」
「はあ、存じておりますが…」
顔を輝かせる様子は幼子のようだ。しかし同じ顔が3つも並んでいると不思議な心地であり、次に会った時にはどれがどれなのか確実に不明になってると思った。
「それはよかった」
「おい。我らの所属を述べておらんぞ」
「そうだな、どうも気が急いてしまっていかんな」
「我らはな、雪と月と花と申す」
「実はな、総務局の岩融がそなたと話してみたいと言っておってな」
「なんでもそなたがここで昼寝をしてるところを見たそうだが、どうも気が合いそうだということで」
「会ってやってはくれなんだか」
「私の? 昼寝姿を見た岩融さんが総務局で待っている、と??」
くすくすと笑う三日月宗近(雪月花)たちは、袖で口元をかくしてそれはまあ美しい。しかし言っている内容はあんまりだ。なんでだ。私が休憩中に昼寝をしたからなんだっていうんだ。見分けのつかない刀方は普段のおしとやかさで笑う。
「そうだ。そなたには才能がある」
「その力を岩融に貸してやってくれ」
「そなたの性質にあれはよくはまるだろう」
ぎり、と胸の奥が痛んだのは才能と口にされたからだ。才能なんてない。卜部(うらのべ)の家系で才能があるなら、少なくとも別家に迎えられているし、もっと恵まれていたら本家に呼ばれている。才能がないから、ここで、織手をやっているのだ。
ほんの少し眉を下げたのは三日月宗近‐雪だろう。この三日月宗近たちは、どういう仕掛けなのか雪月花の順番に口を開いているようだった。
「そなたには嬉しくない話しであったか。しかし、望む者がいることもたしかだ。どうか会ってやってくれ」
「そなたにまた会えるのを楽しみにしておるが、」
「じじいのたわ言と思ってもらってもかまわんからな」
しずしずと帰る三日月宗近(雪月花)の背を見送った。ちょうど休憩を終える時間だった。
べつに、霊的な才能があったところで、なくても、私は生きていられる。それは重々にわかっている。伸びた髪がカーテンみたいに世界を隠した。ほんのすこし暗くなった世界で、でもそれってチャンスなんじゃないのって心が囁く。それって私の人生にいいことなんだろうか。私にあるわずかな才能でなにかできるんだろうか、って。立ち上がって大きく息を吸う。午後からも布を織らないといけない。
返事はさておき、会ってから決めたいと思った。だって、だれかに望まれるってとっても嬉しかったから。お礼を言ってみたかった。それなら、次のおやすみの日にしよう。
「あ? 三人の三日月宗近? 仲人トリオか? なんも聞いてねえぞこっちはよ」
「どなた? 岩融? あー、対応課の岩融さんかな? 申請用紙が残ってるかも」
総務局の受付にいたのは肥前。声を聞き取ったのか、後ろから出てきた人の職員さんが助け舟を出してくれる。
「仲人? あの三日月さんたちは仲人なんですか? 」
「そうだ。あんた以外にもやつらに招かれるやつがいる。なぜか成就率が異様にいいんだ。それにご破産も少ない。総務局の仕事として仲人に就任させたぐらいだからな」
普段はここで茶を飲んでいるか、そのへんを彷徨っているという。肥前も一緒に探しているため、私はやや手持ち無沙汰。室内にふらふらと視線をやっていると、奥の方に岩融が見えた。大きな身体を小さくして机上の端末でなにか作業をしているらしい。それがやたらと目についた。
「成就率? ……成就するとどうなるんですか? 」
「野暮なことを聞くねえ。お、あった。そりゃあ、政府職員の一端になるに決まってるだろ」
厚いファイル綴りから一枚引き出したものは、岩融の申請らしい。よくわからないため質問したところ、丁寧な回答をもらった。
本丸で審神者に使われる刀剣が一般的であること。それ以外に政府で働いている刀剣がいること。政府で働いている刀剣の中には各本丸に配置されることが確定しているもの、そうでないものと別れていること。そして、主が欲しい刀と主を必要としない刀があるらしい。ただ、主が欲しい政府所属刀は、一般人から主を見つけないとならないため大変なためにこういった申請がある。
「なるほど。刀と一般人のマッチングをするから仲人と」
「それで? あんたどうするつもりだ? とりあえず顔合わせか?」
「も~野暮なのは肥前さんのほうですよ。当然顔合わせです。それと、マッチングした人のほうは刀剣の所属部署に配置されることがほとんどです。もちろん、主人になった方の人生に沿うこともありますが、確率は低いです。
彼らは人の形をもっていても刀剣ですので」
説明をした人のネームプレートには鬼塚とあった。鬼塚さんはてきぱきと手続きをすすめていく。どうやら今日このまま会うらしい。隣では肥前がどこかに電話をかけている。
頭によぎるのは早まったかもしれないという後悔。もう少しで顔を合わせるというのに、気が重くなってきていた。強い予感がしていた、特大に人生が切り替わるようなそんな感覚だ。
「あ? なんだよ後ろにいるじゃねえか」
「それではこちらに記名をお願いします」
肥前が電話を切って、先ほど目についた岩融のほうに歩いていく。心臓が爆発的に加速していく。手のひらがしめってペンが滑る。申請用紙の下部に自分の名前を書く欄があった。苗字名前、年齢。川戸波音、26歳。恐怖と期待の波に飲みこまれてしまいそうだった。
「はい。結構ですよ。ありがとうございます。えっと、ああ、肥前さん、あのテーブルで大丈夫そうでしたか? 」
「ああ、問題ないみてえだ。そのまま応接のとこでいいだろ」
「ではこのまま案内しますね」と言う鬼塚さんはカウンターを開けてくれて、その背中を追いかけていく。カウンターの内側のデスクはとにかくどれも書類が積まれていた。2200年を超えても日本人は紙の呪縛から解き放たれなかった。緊張感をまぎらわすための観察だったが、たいした効果はない。人も刀剣男士もそれぞれ作業をこなしているらしい。目を、奥にやることはできなかった。先ほどまで岩融が座っていた席は空になっていて、その先に移動式の壁で区切られたブースがいくつかあるようだった。
「こちらになります。安全のために肥前が同室します。また、身に危険を感じた際には大声で助けを求めてください。聞こえた者が絶対にあなたの安全をお守りします」
「ああ、有事の際には全部どうにかするが、面談中はおれのことを空気だと思ってくれていい」
ブースの中から顔を覗かせた肥前が言う。奥には岩融の服が見えるが、まだ顔は見えない。こちらから見えるパイプ椅子が私の席だろう。差し出された手の先に進む。席について、意図せず伏せていた目を上げるとやわく微笑んだ岩融がこちらを見ていた。目の底は冬の夕暮れ色だ。
「ごゆっくり」
鬼塚さんの声がとおくに聞こえる。ブースの扉を閉める音が耳の奥で響く。
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