「将軍さまがお越しだ！」

　外からきゃあきゃあと声がする。うらやましい。ほんのひとかけらでもお姿を拝見できるなんて。金もなく、親もなく。ただ寝床と雑用ばかりをくたくたになるまでやる。飯と寝床があるだけましだ。そんな毎日だから、仕事をさぼるなんてできやしねぇ。

　少し年上の若い連中は、親分連中に一言かけて外に出ていっちまった。俺ァ、そいつらの仕事を待ってたもんだから無闇に手が空いちまう。見に行く気がねえ親分連中も一服だ。そうしたらよ、そのうちの一人が俺を見て言いやがる。

「なんでぇチビ。おめぇさん、将軍さまを見に行かんのけ」

「やることやんねぇでクビにされちゃたまんねえからな。将軍さまを見られるのが今日最後ってわけじゃねんだ、仕事をするさ」

　こちとらぎりぎりの生活だ。手元の道具の手入れをしながら言い返せば、どうにも遠慮のねえ笑い声が響きやがる。誰も彼もが笑ってら。笑ったぶんだけ金を払ってくれりゃあいいものを、これじゃタダで笑われてやっただけだ。

　声をかけてきたやつが腹ァ抱えたまんま謝ってきやがった。

「ちげぇねえや！ お前ェ、見所のあるやつだなあ。最近の若ェのとはちょっとばかし違ぇなあ。そうよな、おまんま食うためには働かなくっちゃあなんねぇもんな」

　周りの奴らをこづきあって、出るわ出るわ菓子がぼろぼろと。手に抱えきれないばかりを俺によこして、奴ら外に出て帰ってこねぇ連中を引っ張りにでてった。

　ああ、こんなに甘い菓子が食えンなら、将軍さまも悪かねえ。