慟哭の宇宙
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
モニター上の光景を見ながら、私は唖然としていた。
ヘリポイリスの内部は破壊され、サイレンが鳴り響いている。
戦闘で壊れた車両や建物が、まだ燃えている。
瓦礫や倒壊した建物に圧し潰されたり、戦闘に巻き込まれたと思わしい民間人の遺体もあった。
スカートを履いた、若い女性だ。
私の位置から、亡くなった女性の顔は見えない。
女性は上半身を瓦礫に圧し潰されて、地面に血だまりが広がっている。
今まで考えないようにしていた強烈な実感が、私に襲い掛かった。
(亡くなっている女性は、たぶん私と同じくらいの年だ。私たちは、ヘリオポリスの日常を壊したんだ)
道路には死んだ地球連合軍の兵士の遺体が散らばっていた。
数は少ないが、ザフト兵の遺体も混ざっている。
私は奥歯を噛み締めて、操縦レバーを握り締める。
指先が震え、冷たくなっていく。
イザークたちの作った現実を、まざまざと私は見せつけられていた。
(実戦は今まで何度も私は経験してきた。地球でも宇宙でも、私は散々敵を殺して来た。遺体も多数、見てきた)
(私たちは軍人だ。だから、これからだってたくさん殺す。たくさん壊す。戦争が続く限り)
(でも、ヘリオポリスは中立コロニーだったのに)
(私のイザークが、この光景を作った。人を殺した)
(中立じゃなかったら、いくらでも殺していいの?)
(イザークが、いっぱい殺した。アスランも。あの優しそうな、緑の髪のニコルも)
(違う。人殺しなんて、本当はダメだ。日常でやったら、逮捕される)
(いっぱい殺した。普通に暮らしていた人たちを、突然)
(でも、戦争なら許される)
(仕方がない、今はプラントと地球が戦争をしているんだ。先にユニウスセブンに核を打ち込んだのは、地球連合だから。私たちは、何をやっても許される。被害者だから)
(本当に?)
死んだ女性の遺体から、私は目が離せない。
(亡くなった女性もヘリオポリスの市民も、ただ生活していただけなのに。みんなヘリオポリスには、生活があったのに)
(これから、いったいイザークは何人殺すの? 私は何人殺すの? どれほど殺せば終わりが来る? 戦争の終わりはあるの?)
ジンのコンピューターが何かに反応した。
勝手に被写体にズームアップしていく。
『おーい、ここだ!』
ミゲルだった。
私はジンを建物群で身を隠しながら接近した。
地上へジンを降下させる。
ジンの右手を差し伸べながら、コクピットハッチを開けた。
装甲を伝い、すぐにミゲルがコクピットへ入ってくる。
『悪い、手間をかけさせる』
『すぐに離脱を。捕ま――ッ!?』
私は、二人分の視線を機体の外から感じた。
開いたままのコクピットから、遠くの公園が見えた。
見知らぬ機体が片膝を着いて、停止している。
全身を包む灰色の装甲が、煤や灰で汚れていた。
見知らぬ機体のコクピットが開いている。
パイロットなのか、誰かコクピットにいた。
機体から降りようとしているのか、パイロットはハッチに身を乗り出している。
民間人の少年だ。
まだ学生だろう。
華奢な体つきで、優しそうな雰囲気の少年だ。
距離があるのに、私は少年とはっきり目が合った。
私は瞠目して、少年を凝視する。
性差があるのに、少年は私と同じ顔をしていた。
紫色の目、茶色の髪。
鼻も唇も輪郭も、少年は何もかも私と同じだ。
性別だけが違う。
私は遠くにある鏡を見ている気持ちになる。
少年は私の容姿に気付かなかったのか、わざとらしく、地面を向いた。
地上にいる誰かに、少年が何か言っていた。
私の頭の中に、少年の心の声が響く。
『早く行けよ、ザフトの機体! 人を助けに来たんだろ!? こっちだって、また戦うなんて嫌だよ!』
私は少年に、背を蹴飛ばされた気持ちになった。
慌てて私はジンを操作した。
コクピットハッチを閉め、ジンを立ち上がらせる。
急に動かしたせいで、ミゲルが驚きの声を上げる。
バランスを崩し、ミゲルが私の胸に倒れ込んだ。
胸がミゲルの頭に圧し潰され、嫌悪を私は感じた。
同時に、コロニーの中空で爆発が起きる。
コロニーの軸であるシャフトから、何かが飛び出す。
クルーゼ隊長のシグーと、メビウスゼロだった。
少年たちの注意も、シグーとメビウスゼロに行く。
私はミゲルに警告し、ジンを飛翔させた。
乱暴な離陸になり、ミゲルがより強く、私の身体に密着する。
ジンのモニターの一部に、私は違和感を持った。
私は手動で操作し、モニターの一部を拡大する。
ミゲルが息を呑んだ。
『コイツ、さっき俺の邪魔をした!』
モニターには、白い塗装のジンが映っていた。
地球連合軍が捕獲した機体だ。
ザフトで運用されているジンとは少し仕様が違う。
脚の装甲もいくつか取り外され、すっきりとした身軽な容貌だ。
機体に布を巻き、両腕の様子が見えない。
落ち着いた機体の佇まいが不気味だった。
棒立ちに見えるが、機体の全身に隙が無い。
冷徹な恐怖が、私の全身に満ちる。
(敵のジンがいるポイントから、私たちは丸見えだった。いつでも狙撃できたのに、しなかった。銃火器を装備していなかった? ――違う、見逃された、ジンのパイロットに。なぜ?)
『早く行けよ、あの機体! 人を助けに来たんだろ!? こっちだって、また戦うなんて嫌だよ!』
私は、私そっくりの少年の思念を思い出す。
(もしかして、白いジンのパイロットも少年と同じ気持ちだった? 戦争が嫌い? こちらに戦闘の意思がないから見逃した?)
私が考え込む間も、ジンは高速スピードで飛翔し続ける。
モニター上の景色が住宅街から工場区域、コロニーの管理区域へ変化して行った。
ジンが高速スピードで宇宙港へのシャフトを通る。
『ちくしょう、あの野郎! いい気になりやがって! 忌々しいナチュラル共め!!』
ミゲルが激高し、シートの一部を殴る。
(面倒見のいい人だけど、ナチュラルを見下す部分は嫌ね。見下して勝てるほど、ナチュラルは甘くない)
私は努めて冷ややかに告げた。
『そんな元気なら、そろそろ離れてくれる? ずっとあなたの頭が、私の胸に当たっているのだけれど』
私の不機嫌を察知したのか、急いでミゲルが離れてくれる。
ジンがヘリオポリスから脱出し、目の前に宇宙空間が広がった。
ヘリポイリスの内部は破壊され、サイレンが鳴り響いている。
戦闘で壊れた車両や建物が、まだ燃えている。
瓦礫や倒壊した建物に圧し潰されたり、戦闘に巻き込まれたと思わしい民間人の遺体もあった。
スカートを履いた、若い女性だ。
私の位置から、亡くなった女性の顔は見えない。
女性は上半身を瓦礫に圧し潰されて、地面に血だまりが広がっている。
今まで考えないようにしていた強烈な実感が、私に襲い掛かった。
(亡くなっている女性は、たぶん私と同じくらいの年だ。私たちは、ヘリオポリスの日常を壊したんだ)
道路には死んだ地球連合軍の兵士の遺体が散らばっていた。
数は少ないが、ザフト兵の遺体も混ざっている。
私は奥歯を噛み締めて、操縦レバーを握り締める。
指先が震え、冷たくなっていく。
イザークたちの作った現実を、まざまざと私は見せつけられていた。
(実戦は今まで何度も私は経験してきた。地球でも宇宙でも、私は散々敵を殺して来た。遺体も多数、見てきた)
(私たちは軍人だ。だから、これからだってたくさん殺す。たくさん壊す。戦争が続く限り)
(でも、ヘリオポリスは中立コロニーだったのに)
(私のイザークが、この光景を作った。人を殺した)
(中立じゃなかったら、いくらでも殺していいの?)
(イザークが、いっぱい殺した。アスランも。あの優しそうな、緑の髪のニコルも)
(違う。人殺しなんて、本当はダメだ。日常でやったら、逮捕される)
(いっぱい殺した。普通に暮らしていた人たちを、突然)
(でも、戦争なら許される)
(仕方がない、今はプラントと地球が戦争をしているんだ。先にユニウスセブンに核を打ち込んだのは、地球連合だから。私たちは、何をやっても許される。被害者だから)
(本当に?)
死んだ女性の遺体から、私は目が離せない。
(亡くなった女性もヘリオポリスの市民も、ただ生活していただけなのに。みんなヘリオポリスには、生活があったのに)
(これから、いったいイザークは何人殺すの? 私は何人殺すの? どれほど殺せば終わりが来る? 戦争の終わりはあるの?)
ジンのコンピューターが何かに反応した。
勝手に被写体にズームアップしていく。
『おーい、ここだ!』
ミゲルだった。
私はジンを建物群で身を隠しながら接近した。
地上へジンを降下させる。
ジンの右手を差し伸べながら、コクピットハッチを開けた。
装甲を伝い、すぐにミゲルがコクピットへ入ってくる。
『悪い、手間をかけさせる』
『すぐに離脱を。捕ま――ッ!?』
私は、二人分の視線を機体の外から感じた。
開いたままのコクピットから、遠くの公園が見えた。
見知らぬ機体が片膝を着いて、停止している。
全身を包む灰色の装甲が、煤や灰で汚れていた。
見知らぬ機体のコクピットが開いている。
パイロットなのか、誰かコクピットにいた。
機体から降りようとしているのか、パイロットはハッチに身を乗り出している。
民間人の少年だ。
まだ学生だろう。
華奢な体つきで、優しそうな雰囲気の少年だ。
距離があるのに、私は少年とはっきり目が合った。
私は瞠目して、少年を凝視する。
性差があるのに、少年は私と同じ顔をしていた。
紫色の目、茶色の髪。
鼻も唇も輪郭も、少年は何もかも私と同じだ。
性別だけが違う。
私は遠くにある鏡を見ている気持ちになる。
少年は私の容姿に気付かなかったのか、わざとらしく、地面を向いた。
地上にいる誰かに、少年が何か言っていた。
私の頭の中に、少年の心の声が響く。
『早く行けよ、ザフトの機体! 人を助けに来たんだろ!? こっちだって、また戦うなんて嫌だよ!』
私は少年に、背を蹴飛ばされた気持ちになった。
慌てて私はジンを操作した。
コクピットハッチを閉め、ジンを立ち上がらせる。
急に動かしたせいで、ミゲルが驚きの声を上げる。
バランスを崩し、ミゲルが私の胸に倒れ込んだ。
胸がミゲルの頭に圧し潰され、嫌悪を私は感じた。
同時に、コロニーの中空で爆発が起きる。
コロニーの軸であるシャフトから、何かが飛び出す。
クルーゼ隊長のシグーと、メビウスゼロだった。
少年たちの注意も、シグーとメビウスゼロに行く。
私はミゲルに警告し、ジンを飛翔させた。
乱暴な離陸になり、ミゲルがより強く、私の身体に密着する。
ジンのモニターの一部に、私は違和感を持った。
私は手動で操作し、モニターの一部を拡大する。
ミゲルが息を呑んだ。
『コイツ、さっき俺の邪魔をした!』
モニターには、白い塗装のジンが映っていた。
地球連合軍が捕獲した機体だ。
ザフトで運用されているジンとは少し仕様が違う。
脚の装甲もいくつか取り外され、すっきりとした身軽な容貌だ。
機体に布を巻き、両腕の様子が見えない。
落ち着いた機体の佇まいが不気味だった。
棒立ちに見えるが、機体の全身に隙が無い。
冷徹な恐怖が、私の全身に満ちる。
(敵のジンがいるポイントから、私たちは丸見えだった。いつでも狙撃できたのに、しなかった。銃火器を装備していなかった? ――違う、見逃された、ジンのパイロットに。なぜ?)
『早く行けよ、あの機体! 人を助けに来たんだろ!? こっちだって、また戦うなんて嫌だよ!』
私は、私そっくりの少年の思念を思い出す。
(もしかして、白いジンのパイロットも少年と同じ気持ちだった? 戦争が嫌い? こちらに戦闘の意思がないから見逃した?)
私が考え込む間も、ジンは高速スピードで飛翔し続ける。
モニター上の景色が住宅街から工場区域、コロニーの管理区域へ変化して行った。
ジンが高速スピードで宇宙港へのシャフトを通る。
『ちくしょう、あの野郎! いい気になりやがって! 忌々しいナチュラル共め!!』
ミゲルが激高し、シートの一部を殴る。
(面倒見のいい人だけど、ナチュラルを見下す部分は嫌ね。見下して勝てるほど、ナチュラルは甘くない)
私は努めて冷ややかに告げた。
『そんな元気なら、そろそろ離れてくれる? ずっとあなたの頭が、私の胸に当たっているのだけれど』
私の不機嫌を察知したのか、急いでミゲルが離れてくれる。
ジンがヘリオポリスから脱出し、目の前に宇宙空間が広がった。