慟哭の宇宙
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
アスランは驚愕して、目の前の光景を見つめた。
驚きのあまり、両手が震える。声が出ない。
「補充要員としてアシモフ隊よりヘルヴァ・マキャベリー以下6名、クルーゼ隊へ着任いたしました」
モビルスーツデッキに、ヘルヴァ・マキャベリーの声が響く。
補充要員たちが、クルーゼ隊長へ揃った動きで敬礼する。
キラ・ヤマトが、補充要員の中にいた。
アスランの記憶の中と、キラは何一つ変わらない。
華奢な体型、インドア派のせいで色白の肌。
艦内暮らしが長いせいか、伸びた茶色の髪。
ロングヘアーになって、女の子みたいだ。
目も優しげなままだったが、ザフトへ入隊したせいか、キラの雰囲気が少し硬くなっている。
緊張しているのか、キラの顔色が、なんとなく青白い。
しかも、キラの制服は赤服だ。
クルーゼ隊長が補充要員たちへ労いの言葉をかけていたが、アスランは全く聞いていなかった。
数年前まで生活していたコペルニクスでの思い出が、アスランの脳内を激走する。
(キラ……!? なぜお前がザフトに!? 軍に入るようなやつじゃなかった。なんで軍に入った? やっぱり血のバレンタインがきっかけか? そもそもお前、アカデミーの訓練に耐えられたのか!? あんなに怠け者なのに!? しかも成績優秀者の赤!? あの優しげなヤマト夫妻が、お前の入隊を許可するなんて……そもそもお前に軍は合わないだろう!?)
「……スラン、アスラン! 大丈夫ですか? どうしたんです? 顔が真っ青ですよ」
ニコルに声をかけられて、アスランは我に帰った。
いつのまにかクルーゼ隊長の挨拶は終わり、補充要員たちも各自の部屋へ向かおうとしている。
アスランは上の空のまま、ニコルに答える。
「えっ? ああ、すまない……聞いてなかった。何か言ったか?」
「本当に大丈夫ですか? 補充要員が2個小隊も来るなんて、次の作戦はよほど大規模な……」
キラも自分の荷物を持って、引き上げようとしていた。
整備兵に呼び止められ、機体について話している。
どうやらキラの機体のOSや機動系統のクセについて、話し合っているらしい。
どう見ても、熟練のパイロットと整備兵のやり取りだ。
アスランは耐えきれず、キラに向かって飛び出した。
「キラ、どうしてお前がザフトに!? いつプラントへ来たんだ!?」
キラの肩を掴んで、こちらを向かせる。驚いた様子で、キラが目を見開く。
「プラントに来たなら、なんで俺に連絡しない!? しかも赤服!? アカデミーをいつ出た!? なんだ、この伸び放題の頭は!! ああ、くそっ!」
怒りと動揺で、声がアスランの喉の奥につっかえる。
アスランはキラの髪を、ぐしゃぐしゃと掻き回した。
「ちゃんと髪は切れ! 身嗜みはきちんとしろ! 女の子みたいだぞ!! お前がザフトにいるって、ご両親の了承は得たのか!? おじさんとおばさんも一緒に移住してきたんだよな!? お前が戦場に出るなんて、俺は……」
「アスラン貴様ァッ!! なんのつもりだ!? いったい、こいつを誰と間違えている!?」
イザークの金切り声が飛ぶ。
アスランの手が、無理やりキラの肩からもぎ離される。
イザークに、アスランは突き飛ばされる。
アスランは驚きのあまり、咄嗟に反応できなかった。
無重力下をアスランは漂うが、すぐにニコルが抱き止めてくれる。
「アスラン! なんですか、イザーク急に!」
「なんだとはこっちのセリフだ! キラ? こいつは、なまえ・カナーバ! アイリーン・カナーバの妹だ!」
アスランは瞠目し、キラとイザークを見つめた。
イザークがイキリ立ち、キラを背後に庇っている。
「いもう、と……? カナーバ評議議員の?」
アスランは、アイリーン・カナーバの容姿を思い浮かべた。
アイリーン・カナーバは、最高評議会の最年少議員だ。
凛々しい顔つきの女性で、キラとは全く似ていない。
キラがーーいや、キラによく似た少女(?)が困った顔でアスランを見て、イザークを見た。
少女(?)がイザークの肩に手を置き、自分の方を向かせる。
「イザーク、やめて。少しびっくりしたけど、私は大丈夫。誰かと間違えただけみたいだから」
アスランは仰天した。
(女の……子! 声が……キラと同じ顔なのに!?)
少女を見た途端、イザークの表情から怒りが抜けていった。
ありえないほどイザークの目つきが優しくなる。
アスランは沈黙し、怖気が立った。
見てはいけないものを見た気分だ。
ニコルも同じ気分なのか、言葉を失っている。
少女が悲しそうな顔をして、イザークから目を逸らす。
イザークが険しい目つきへ戻る。
肩を怒らせ、イザークが少女へ怒鳴った。
「貴様、何を考えている!? アスランを庇うつもりか!? 俺にたいしてもそうだ! いきなり連絡がつかなくなったと思えば、ザフトに入っただと!? セプテンベル市まで、俺は会いに行ったんだぞ、お前に!」
悲しげだった少女の雰囲気が、変化した。
熱気に似た怒気が少女から発せられる。
無重力下なのに、少女の髪がわずかに逆立つ。
少女がイザークを睨みつけた。
「あなたの母上から何も聞いてないの?」
「何っ」
少女がイザークを平手打ちした。
小気味良い音が、モビルスーツデッキに響く。
澄んだ高い音に、他のパイロットたちも整備兵も、クルーゼ隊長すら動きを止めた。
イザークが呆然として、少女を凝視する。
少女は震えていた。涙が少女から漂う。
「呆れた。あなたの母上から言われたの、プラントでは、子供のできないカップルに意味なんかないって! これ以上、あの子の時間を奪わないで欲しいって!」
イザークもアスランも息を呑む。
ニコルも驚愕して、自分の口を押さえた。
少女が自分の胸を抑え、イザークに訴える。
「だから私はザフトに入ったの。どこかで戦死したかった! 怒りをぶつける場所が欲しかった! 自分の母親でしょ!? 母親のコントロールくらい自分でしなさいよ! 好きな人と結婚もできないなんて! コーディネイターになんか、生まれて来たくなかった!」
悲痛な叫びが、アスランの胸にも突き刺さる。
少女がイザークを突き飛ばす。
イザークが我に帰り、少女を追いかけようとした。
「着いて来ないで! 顔も見たくない!」
少女が鋭く叫ぶ。泣いたまま、少女がモビルスーツデッキの二階部分へ飛び込んだ。行き場を失ったイザークが拳を握り締め、「クソっ!」と毒づく。
ニコルが悲しげな顔で、イザークに話しかけようとした。白い人影が、ニコルの言葉を遮る。
「やれやれ、着任早々とんだトラブルだな。最初は、アスランから話しかけた様子だったが……」
アスランとイザークは急いで姿勢を正した。
「っ! 隊長」
「お騒がせをして申し訳ありません」
「何があった?」
クルーゼが、仮面の向こうからアスランに視線を向ける。
アスランは敬礼を解き、説明した。
「私がカナーバ隊員を友人と間違え、話しかけました。イザークが私とカナーバ隊員に割って入り、その……」
「申し訳ありません、隊長。私とカナーバ隊員の個人的なトラブルです」
クルーゼ隊長が、口の端だけで笑う。
「そうだな、極めて個人的なトラブルと見た。お前もなかなか隅に置けないな、イザーク」
「いえ、そんな……」
イザークが気まずい顔をして、クルーゼ隊長から顔を逸らす。
「だが、コーディネイターになど生まれてきたくなかった、とは……まるでブルーコスモスの発言だな。少し、気に掛かる。我々の同胞の中には、生まれを恨み、地球連合軍に加担する者もいるからな」
思わずアスランも、息を呑む。
ニコルも困惑した表情で、クルーゼ隊長を見た。
イザークが首を横に降り、クルーゼ隊長を睨みつけた。
「そんな……ありえません! 寝返りなど、あいつに限って!」
「人の心の内など、他人にはわからぬものだ。目に見えるゆえ、確かめようもない……私の友人が、以前言っていたよ。己の体質が原因で愛する者と一緒になれぬ絶望は、他人が想像する以上に心に突き刺さるものだと。まだ若い君には、馬鹿らしく思えるかもしれぬが……見誤るなよ、イザーク。失いたくないのなら、手放さぬことだ」
クルーゼ隊長が、アスランたちから離れていく。
アスランは、少し意外な思いでクルーゼ隊長の背を見送った。
(まさか隊長が、男女の仲についてアドバイスをするなんて)
イザークは隊長の背を厳しい目つきで見つめていた。
何かを考え込んでいる。
「隊長のお話も、一理ありますね」
イザークがニコルを睨みつける。
「ニコル貴様! お前も、アイツがプラントを裏切ると言いたいのか!?」
「違います! だけど……」
ニコルが、なまえ・カナーバが出て行った扉の方を見る。
「カナーバ隊員が、とても傷ついているのは事実です。今すぐじゃなくても、イザークは彼女と話し合った方がいい。あなたには、彼女と話す責任があると僕は思います」
「言われなくてもわかっている!」
イザークがモビルスーツデッキ二階の出入り口へ向かって、飛び出そうとした。アスランは思わずイザークを制止する。
「ちょっと待てイザーク! ニコルの話を聞いていなかったのか!? 時間を置けと言っただろう! それに、今はもうすぐ作戦が開始する! じっくり話し合っている暇はない!」
「うるさい! いちいち言われなくともわかっている! 今は会わん!」
アスランの腕を振り払い、イザークがモビルスーツデッキから廊下へ出ていく。
アスランは、思わずため息をついた。
自分のことじゃないのに、どっと重い疲労がアスランに襲ってくる。猛々しい嵐が去った気持ちだった。
ニコルがアスランを気遣う微笑みを浮かべる。
「イザークとカナーバ隊員、うまく行くといいですね」
「ああ、本当にな……」
アスランはため息交じりに答える。
イザークと同室のディアッカが、大変だろうとアスランは思った。
苛立つとイザークは、物に当たる悪癖がある。
驚きのあまり、両手が震える。声が出ない。
「補充要員としてアシモフ隊よりヘルヴァ・マキャベリー以下6名、クルーゼ隊へ着任いたしました」
モビルスーツデッキに、ヘルヴァ・マキャベリーの声が響く。
補充要員たちが、クルーゼ隊長へ揃った動きで敬礼する。
キラ・ヤマトが、補充要員の中にいた。
アスランの記憶の中と、キラは何一つ変わらない。
華奢な体型、インドア派のせいで色白の肌。
艦内暮らしが長いせいか、伸びた茶色の髪。
ロングヘアーになって、女の子みたいだ。
目も優しげなままだったが、ザフトへ入隊したせいか、キラの雰囲気が少し硬くなっている。
緊張しているのか、キラの顔色が、なんとなく青白い。
しかも、キラの制服は赤服だ。
クルーゼ隊長が補充要員たちへ労いの言葉をかけていたが、アスランは全く聞いていなかった。
数年前まで生活していたコペルニクスでの思い出が、アスランの脳内を激走する。
(キラ……!? なぜお前がザフトに!? 軍に入るようなやつじゃなかった。なんで軍に入った? やっぱり血のバレンタインがきっかけか? そもそもお前、アカデミーの訓練に耐えられたのか!? あんなに怠け者なのに!? しかも成績優秀者の赤!? あの優しげなヤマト夫妻が、お前の入隊を許可するなんて……そもそもお前に軍は合わないだろう!?)
「……スラン、アスラン! 大丈夫ですか? どうしたんです? 顔が真っ青ですよ」
ニコルに声をかけられて、アスランは我に帰った。
いつのまにかクルーゼ隊長の挨拶は終わり、補充要員たちも各自の部屋へ向かおうとしている。
アスランは上の空のまま、ニコルに答える。
「えっ? ああ、すまない……聞いてなかった。何か言ったか?」
「本当に大丈夫ですか? 補充要員が2個小隊も来るなんて、次の作戦はよほど大規模な……」
キラも自分の荷物を持って、引き上げようとしていた。
整備兵に呼び止められ、機体について話している。
どうやらキラの機体のOSや機動系統のクセについて、話し合っているらしい。
どう見ても、熟練のパイロットと整備兵のやり取りだ。
アスランは耐えきれず、キラに向かって飛び出した。
「キラ、どうしてお前がザフトに!? いつプラントへ来たんだ!?」
キラの肩を掴んで、こちらを向かせる。驚いた様子で、キラが目を見開く。
「プラントに来たなら、なんで俺に連絡しない!? しかも赤服!? アカデミーをいつ出た!? なんだ、この伸び放題の頭は!! ああ、くそっ!」
怒りと動揺で、声がアスランの喉の奥につっかえる。
アスランはキラの髪を、ぐしゃぐしゃと掻き回した。
「ちゃんと髪は切れ! 身嗜みはきちんとしろ! 女の子みたいだぞ!! お前がザフトにいるって、ご両親の了承は得たのか!? おじさんとおばさんも一緒に移住してきたんだよな!? お前が戦場に出るなんて、俺は……」
「アスラン貴様ァッ!! なんのつもりだ!? いったい、こいつを誰と間違えている!?」
イザークの金切り声が飛ぶ。
アスランの手が、無理やりキラの肩からもぎ離される。
イザークに、アスランは突き飛ばされる。
アスランは驚きのあまり、咄嗟に反応できなかった。
無重力下をアスランは漂うが、すぐにニコルが抱き止めてくれる。
「アスラン! なんですか、イザーク急に!」
「なんだとはこっちのセリフだ! キラ? こいつは、なまえ・カナーバ! アイリーン・カナーバの妹だ!」
アスランは瞠目し、キラとイザークを見つめた。
イザークがイキリ立ち、キラを背後に庇っている。
「いもう、と……? カナーバ評議議員の?」
アスランは、アイリーン・カナーバの容姿を思い浮かべた。
アイリーン・カナーバは、最高評議会の最年少議員だ。
凛々しい顔つきの女性で、キラとは全く似ていない。
キラがーーいや、キラによく似た少女(?)が困った顔でアスランを見て、イザークを見た。
少女(?)がイザークの肩に手を置き、自分の方を向かせる。
「イザーク、やめて。少しびっくりしたけど、私は大丈夫。誰かと間違えただけみたいだから」
アスランは仰天した。
(女の……子! 声が……キラと同じ顔なのに!?)
少女を見た途端、イザークの表情から怒りが抜けていった。
ありえないほどイザークの目つきが優しくなる。
アスランは沈黙し、怖気が立った。
見てはいけないものを見た気分だ。
ニコルも同じ気分なのか、言葉を失っている。
少女が悲しそうな顔をして、イザークから目を逸らす。
イザークが険しい目つきへ戻る。
肩を怒らせ、イザークが少女へ怒鳴った。
「貴様、何を考えている!? アスランを庇うつもりか!? 俺にたいしてもそうだ! いきなり連絡がつかなくなったと思えば、ザフトに入っただと!? セプテンベル市まで、俺は会いに行ったんだぞ、お前に!」
悲しげだった少女の雰囲気が、変化した。
熱気に似た怒気が少女から発せられる。
無重力下なのに、少女の髪がわずかに逆立つ。
少女がイザークを睨みつけた。
「あなたの母上から何も聞いてないの?」
「何っ」
少女がイザークを平手打ちした。
小気味良い音が、モビルスーツデッキに響く。
澄んだ高い音に、他のパイロットたちも整備兵も、クルーゼ隊長すら動きを止めた。
イザークが呆然として、少女を凝視する。
少女は震えていた。涙が少女から漂う。
「呆れた。あなたの母上から言われたの、プラントでは、子供のできないカップルに意味なんかないって! これ以上、あの子の時間を奪わないで欲しいって!」
イザークもアスランも息を呑む。
ニコルも驚愕して、自分の口を押さえた。
少女が自分の胸を抑え、イザークに訴える。
「だから私はザフトに入ったの。どこかで戦死したかった! 怒りをぶつける場所が欲しかった! 自分の母親でしょ!? 母親のコントロールくらい自分でしなさいよ! 好きな人と結婚もできないなんて! コーディネイターになんか、生まれて来たくなかった!」
悲痛な叫びが、アスランの胸にも突き刺さる。
少女がイザークを突き飛ばす。
イザークが我に帰り、少女を追いかけようとした。
「着いて来ないで! 顔も見たくない!」
少女が鋭く叫ぶ。泣いたまま、少女がモビルスーツデッキの二階部分へ飛び込んだ。行き場を失ったイザークが拳を握り締め、「クソっ!」と毒づく。
ニコルが悲しげな顔で、イザークに話しかけようとした。白い人影が、ニコルの言葉を遮る。
「やれやれ、着任早々とんだトラブルだな。最初は、アスランから話しかけた様子だったが……」
アスランとイザークは急いで姿勢を正した。
「っ! 隊長」
「お騒がせをして申し訳ありません」
「何があった?」
クルーゼが、仮面の向こうからアスランに視線を向ける。
アスランは敬礼を解き、説明した。
「私がカナーバ隊員を友人と間違え、話しかけました。イザークが私とカナーバ隊員に割って入り、その……」
「申し訳ありません、隊長。私とカナーバ隊員の個人的なトラブルです」
クルーゼ隊長が、口の端だけで笑う。
「そうだな、極めて個人的なトラブルと見た。お前もなかなか隅に置けないな、イザーク」
「いえ、そんな……」
イザークが気まずい顔をして、クルーゼ隊長から顔を逸らす。
「だが、コーディネイターになど生まれてきたくなかった、とは……まるでブルーコスモスの発言だな。少し、気に掛かる。我々の同胞の中には、生まれを恨み、地球連合軍に加担する者もいるからな」
思わずアスランも、息を呑む。
ニコルも困惑した表情で、クルーゼ隊長を見た。
イザークが首を横に降り、クルーゼ隊長を睨みつけた。
「そんな……ありえません! 寝返りなど、あいつに限って!」
「人の心の内など、他人にはわからぬものだ。目に見えるゆえ、確かめようもない……私の友人が、以前言っていたよ。己の体質が原因で愛する者と一緒になれぬ絶望は、他人が想像する以上に心に突き刺さるものだと。まだ若い君には、馬鹿らしく思えるかもしれぬが……見誤るなよ、イザーク。失いたくないのなら、手放さぬことだ」
クルーゼ隊長が、アスランたちから離れていく。
アスランは、少し意外な思いでクルーゼ隊長の背を見送った。
(まさか隊長が、男女の仲についてアドバイスをするなんて)
イザークは隊長の背を厳しい目つきで見つめていた。
何かを考え込んでいる。
「隊長のお話も、一理ありますね」
イザークがニコルを睨みつける。
「ニコル貴様! お前も、アイツがプラントを裏切ると言いたいのか!?」
「違います! だけど……」
ニコルが、なまえ・カナーバが出て行った扉の方を見る。
「カナーバ隊員が、とても傷ついているのは事実です。今すぐじゃなくても、イザークは彼女と話し合った方がいい。あなたには、彼女と話す責任があると僕は思います」
「言われなくてもわかっている!」
イザークがモビルスーツデッキ二階の出入り口へ向かって、飛び出そうとした。アスランは思わずイザークを制止する。
「ちょっと待てイザーク! ニコルの話を聞いていなかったのか!? 時間を置けと言っただろう! それに、今はもうすぐ作戦が開始する! じっくり話し合っている暇はない!」
「うるさい! いちいち言われなくともわかっている! 今は会わん!」
アスランの腕を振り払い、イザークがモビルスーツデッキから廊下へ出ていく。
アスランは、思わずため息をついた。
自分のことじゃないのに、どっと重い疲労がアスランに襲ってくる。猛々しい嵐が去った気持ちだった。
ニコルがアスランを気遣う微笑みを浮かべる。
「イザークとカナーバ隊員、うまく行くといいですね」
「ああ、本当にな……」
アスランはため息交じりに答える。
イザークと同室のディアッカが、大変だろうとアスランは思った。
苛立つとイザークは、物に当たる悪癖がある。
1/10ページ