慟哭の宇宙
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各自、パイロットスーツから制服へ着替える。
身支度を整えてから、再度、ヴェサリウスでミーティングとなった。
ガモフへ着艦したイザークたちはいない。
私がブリッジへ行くと、まだクルーゼ隊長は来ていなかった。
アスランや他のパイロットと談笑中だったミゲルが、私に片手を上げる。
私もミゲルに片手を上げ返す。
他にも同僚パイロットが数人いて、アスランがいた。
アスラン・ザラはプラントの有名人だ。
アスラン自身の端正な容貌も目を引くが、父親がプラント最高評議会の委員で、国防委員長。
アスランの母親は植物学者だったが、「血のバレンタイン」で殺された。
地球連合が農業用コロニー「ユニウスセブン」に核を打ち込んだとき、アスランの母も「ユニウスセブン」にいたからだ。
アスランの婚約者は、プラント最高評議会議長の娘にしてプラント一の歌姫、ラクス・クライン。
何かとアスランはプラントで話題になる、上流階級の人間だ。
ラクスとアスランが婚約した時もマスコミは大騒ぎだった。
アスランがザフトのアカデミーに入った時もトップニュースだったらしい。
アスランは軍のプロバカンダにも大いに利用されている。
市民にとってアスランは若き英雄だ。
プラントの護り手、報復者、正義の執行者などなどマスコミの付けた渾名は数知れず。
アスラン・ザラは地球連合に殺された、母親を含む二十四万人以上の市民の無念を晴らすため、日々ナチュラル共と戦っている……と謳われている。
地球連合との戦局は膠着状態なので、市民の戦意高揚にザフトの広報局も必死だ。
プラントには徴兵制度がないため、ザフトへの入隊を強制できない。
兵士集めに必死すぎて、最近の軍の広報から私は胡散臭さを感じている。
プラントも地球連合も、すぐに終戦となる予測で戦争を開始した。
一年以上、戦争が長期化するとは双方、予想していなかったため、市民に厭戦の雰囲気が漂い始めている。
戦争を嫌い、プラントや地球連合から、中立国へ移住する市民も増加している。
軍の誇大広告を見るたびに、私はラクス・クラインから聞いていたアスランの話を思い出していた。
アスランと目が合った。
私はアスランに微笑みかける。
「機体越しに一度話したけれど、初めまして。なまえ・カナーバです……格納庫では、とんだ初対面になっちゃったけど」
アスランが苦笑する。
差し出した私の手を、アスランが掴んでくれた。
アスランは華奢な美少年の癖に、手は予想外にがっしりとしている。
戦う軍人の手だ。
「アスラン・ザラです。作戦前は私の同期のイザークが、申し訳ありません。先輩に対して、無礼なふるまいを」
「気にしないで。むしろイザークが元気そうで安心した。アスランも、あまり肩ひじ張らないで。私、ラクスとは親しくさせてもらっていたの。私がザフトに入る前は」
「ラクスと!?」
アスランが驚いた顔をした。
予想通りの反応に、私は笑う。
「ラクスと私は、幼馴染なの。あなたの名前はラクスから、よく聞いていた。お写真も見せてもらって。ラクス曰く、優しいのだけれど、とても無口みたいね。初めてアスランと会った時、花束を持ってきてくれたって、嬉しそうに言っていたの、ラクスは」
アスランの頬が、ぽうっと桃色になった。
ミゲルが面白そうに笑って、アスランの肩を掴む。
「何々? オフの日とか、女の子同士で噂話してんの? キャッキャうふふ可愛いことしてるね~。アスランの婚約者だもんな、ラクス・クラインは」
「茶化すなよ、ミゲル!」
アスランの少年らしい振る舞いに、私は笑った。
「敬語より、素の貴方のほうが面白いわ。私にも普通に話してね」
クルーゼ隊長がブリッジに入ってくる。
一気にブリッジの雰囲気が変わった。
私たちはクルーゼ隊長へ敬礼した。
クルーゼ隊長がモニターの電源を付ける。
宙に電子スクリーンが開く。
「すでに各員、状況はわかっているな。目標の内、四機は入手。だが、残り一機が依然としてコロニー内部にある。ミゲルが入手した、映像データを見てくれ。地球連合の開発した機動兵器は、脅威的な性能だ」
クルーゼ隊長がモニターを操作した。
トリコロールカラーの機体が電子スクリーンに表示される。
私は一瞬、動揺した。
コロニー内部で、私とミゲルを見逃してくれた機体だ。
機体は縦横無尽に駆け、スラスターを噴かす。
一気に、トリコロールカラーの機体がミゲルの機体へ肉薄した。
二本のダガーをミゲルの機体に突き刺す。
(やはり、コクピットを狙ってこない。私そっくりの少年は、軍人じゃないのか。ヘリオポリスは中立コロニーだ。住人の中には戦争を嫌がり、避難していたコーディネーターもいたはず。あの少年は戦闘に巻き込まれて、やむおえず機体に搭乗したんじゃ)
「ミゲルが敵の映像を持って帰ってきてくれて、助かったよ。でなければ、いくら言い訳した所で地球軍のモビルスーツ相手に機体を損ねた私は、大笑いされていたかもしれん」
私はクルーゼ隊長のブラックジョークを笑えなかった。
コーディネーターとナチュラルの対立は根深い。
コーディネーターは、受精卵の段階で遺伝子操作され、母親の胎内で育ち誕生してくる。
一方、ナチュラルは遺伝子操作されていない人間だ。
コーディネーターの方がナチュラルより、身体的にも能力的にも優れている。
コーディネーターはナチュラルを見下しているし、ナチュラルはコーディネーターに嫉妬している。
両者の差は埋めがたい。
遺伝子操作を受けているため、コーディネーターはナチュラルに勝って当たり前だ。
学校の成績も、各分野の学会の研究成果も。
でも、コーディネーターが野蛮なナチュラル共、愚かなナチュラル共と見下す言葉を聞くたびに、私は自分の中の何かが削れていく気がする。
クルーゼ隊長がモニターを差し、コロニー内部の状況を説明した。
新型モビルスーツの他に、新型戦艦。
ザフトから鹵獲されたジンが一機に、中破しているメビウスゼロ。
私は敵対対象の位置を把握する。
「オリジナルのOSについては、君らもすでに知っての通りだ。なのになぜ、この機体だけこんなに動けるかはわからん。だが、我々がこんなものをこのまま残し、放っておくわけにはいかんということは、はっきりしている。捕獲できぬとあれば、今ここで破壊する。戦艦もな。侮らずにかかれよ」
クルーゼ隊長が敬礼した。
副官のアビス艦長が指示を下す。
「ミゲル、オロール、なまえは直ちに出撃準備。D装備の使用許可が出ている。今度こそ完全に息の根を止めてやれ」
私たち三人は、そろって返答した。
すぐさま私たちはブリッジの出入り口へ向かう。
背後から、アスランの声が聞こえた。
「アデス艦長、私も出撃させてください」
出入り口の扉が閉まり、アスランの声も途絶える。
ミゲルが驚いた様子で言う。
「なんだなんだ。アスランの奴、随分やる気だな。もう自分の仕事は済んだって言うのに」
「それだけ、敵の新型を脅威に感じているんだろう。アスランのイージスのOSは、酷い出来だったしな。一番の完成系を取り残したんじゃ、潜入組としては悔しさ倍増だろう」
オロールがアスランへ理解を示す。
私は、オレンジの髪の少年を思い出した。
一度見ただけだが、快活そうな少年だった。
「ラスティも亡くなっているしね。アスランの目の前だったって聞いた。気持ちはわかる」
ミゲルとオロールが、一瞬黙る。
気遣うような視線をミゲルが私に寄越す。
「そっか……クロエも……」
「お喋りだったけどクロエは気のいい子だった。せめてもの手向けとして、戦艦は墜とさせてもらう」
私は通路の壁を蹴って、方向転換する。
女子用のロッカールームへ私は向かった。
身支度を整えてから、再度、ヴェサリウスでミーティングとなった。
ガモフへ着艦したイザークたちはいない。
私がブリッジへ行くと、まだクルーゼ隊長は来ていなかった。
アスランや他のパイロットと談笑中だったミゲルが、私に片手を上げる。
私もミゲルに片手を上げ返す。
他にも同僚パイロットが数人いて、アスランがいた。
アスラン・ザラはプラントの有名人だ。
アスラン自身の端正な容貌も目を引くが、父親がプラント最高評議会の委員で、国防委員長。
アスランの母親は植物学者だったが、「血のバレンタイン」で殺された。
地球連合が農業用コロニー「ユニウスセブン」に核を打ち込んだとき、アスランの母も「ユニウスセブン」にいたからだ。
アスランの婚約者は、プラント最高評議会議長の娘にしてプラント一の歌姫、ラクス・クライン。
何かとアスランはプラントで話題になる、上流階級の人間だ。
ラクスとアスランが婚約した時もマスコミは大騒ぎだった。
アスランがザフトのアカデミーに入った時もトップニュースだったらしい。
アスランは軍のプロバカンダにも大いに利用されている。
市民にとってアスランは若き英雄だ。
プラントの護り手、報復者、正義の執行者などなどマスコミの付けた渾名は数知れず。
アスラン・ザラは地球連合に殺された、母親を含む二十四万人以上の市民の無念を晴らすため、日々ナチュラル共と戦っている……と謳われている。
地球連合との戦局は膠着状態なので、市民の戦意高揚にザフトの広報局も必死だ。
プラントには徴兵制度がないため、ザフトへの入隊を強制できない。
兵士集めに必死すぎて、最近の軍の広報から私は胡散臭さを感じている。
プラントも地球連合も、すぐに終戦となる予測で戦争を開始した。
一年以上、戦争が長期化するとは双方、予想していなかったため、市民に厭戦の雰囲気が漂い始めている。
戦争を嫌い、プラントや地球連合から、中立国へ移住する市民も増加している。
軍の誇大広告を見るたびに、私はラクス・クラインから聞いていたアスランの話を思い出していた。
アスランと目が合った。
私はアスランに微笑みかける。
「機体越しに一度話したけれど、初めまして。なまえ・カナーバです……格納庫では、とんだ初対面になっちゃったけど」
アスランが苦笑する。
差し出した私の手を、アスランが掴んでくれた。
アスランは華奢な美少年の癖に、手は予想外にがっしりとしている。
戦う軍人の手だ。
「アスラン・ザラです。作戦前は私の同期のイザークが、申し訳ありません。先輩に対して、無礼なふるまいを」
「気にしないで。むしろイザークが元気そうで安心した。アスランも、あまり肩ひじ張らないで。私、ラクスとは親しくさせてもらっていたの。私がザフトに入る前は」
「ラクスと!?」
アスランが驚いた顔をした。
予想通りの反応に、私は笑う。
「ラクスと私は、幼馴染なの。あなたの名前はラクスから、よく聞いていた。お写真も見せてもらって。ラクス曰く、優しいのだけれど、とても無口みたいね。初めてアスランと会った時、花束を持ってきてくれたって、嬉しそうに言っていたの、ラクスは」
アスランの頬が、ぽうっと桃色になった。
ミゲルが面白そうに笑って、アスランの肩を掴む。
「何々? オフの日とか、女の子同士で噂話してんの? キャッキャうふふ可愛いことしてるね~。アスランの婚約者だもんな、ラクス・クラインは」
「茶化すなよ、ミゲル!」
アスランの少年らしい振る舞いに、私は笑った。
「敬語より、素の貴方のほうが面白いわ。私にも普通に話してね」
クルーゼ隊長がブリッジに入ってくる。
一気にブリッジの雰囲気が変わった。
私たちはクルーゼ隊長へ敬礼した。
クルーゼ隊長がモニターの電源を付ける。
宙に電子スクリーンが開く。
「すでに各員、状況はわかっているな。目標の内、四機は入手。だが、残り一機が依然としてコロニー内部にある。ミゲルが入手した、映像データを見てくれ。地球連合の開発した機動兵器は、脅威的な性能だ」
クルーゼ隊長がモニターを操作した。
トリコロールカラーの機体が電子スクリーンに表示される。
私は一瞬、動揺した。
コロニー内部で、私とミゲルを見逃してくれた機体だ。
機体は縦横無尽に駆け、スラスターを噴かす。
一気に、トリコロールカラーの機体がミゲルの機体へ肉薄した。
二本のダガーをミゲルの機体に突き刺す。
(やはり、コクピットを狙ってこない。私そっくりの少年は、軍人じゃないのか。ヘリオポリスは中立コロニーだ。住人の中には戦争を嫌がり、避難していたコーディネーターもいたはず。あの少年は戦闘に巻き込まれて、やむおえず機体に搭乗したんじゃ)
「ミゲルが敵の映像を持って帰ってきてくれて、助かったよ。でなければ、いくら言い訳した所で地球軍のモビルスーツ相手に機体を損ねた私は、大笑いされていたかもしれん」
私はクルーゼ隊長のブラックジョークを笑えなかった。
コーディネーターとナチュラルの対立は根深い。
コーディネーターは、受精卵の段階で遺伝子操作され、母親の胎内で育ち誕生してくる。
一方、ナチュラルは遺伝子操作されていない人間だ。
コーディネーターの方がナチュラルより、身体的にも能力的にも優れている。
コーディネーターはナチュラルを見下しているし、ナチュラルはコーディネーターに嫉妬している。
両者の差は埋めがたい。
遺伝子操作を受けているため、コーディネーターはナチュラルに勝って当たり前だ。
学校の成績も、各分野の学会の研究成果も。
でも、コーディネーターが野蛮なナチュラル共、愚かなナチュラル共と見下す言葉を聞くたびに、私は自分の中の何かが削れていく気がする。
クルーゼ隊長がモニターを差し、コロニー内部の状況を説明した。
新型モビルスーツの他に、新型戦艦。
ザフトから鹵獲されたジンが一機に、中破しているメビウスゼロ。
私は敵対対象の位置を把握する。
「オリジナルのOSについては、君らもすでに知っての通りだ。なのになぜ、この機体だけこんなに動けるかはわからん。だが、我々がこんなものをこのまま残し、放っておくわけにはいかんということは、はっきりしている。捕獲できぬとあれば、今ここで破壊する。戦艦もな。侮らずにかかれよ」
クルーゼ隊長が敬礼した。
副官のアビス艦長が指示を下す。
「ミゲル、オロール、なまえは直ちに出撃準備。D装備の使用許可が出ている。今度こそ完全に息の根を止めてやれ」
私たち三人は、そろって返答した。
すぐさま私たちはブリッジの出入り口へ向かう。
背後から、アスランの声が聞こえた。
「アデス艦長、私も出撃させてください」
出入り口の扉が閉まり、アスランの声も途絶える。
ミゲルが驚いた様子で言う。
「なんだなんだ。アスランの奴、随分やる気だな。もう自分の仕事は済んだって言うのに」
「それだけ、敵の新型を脅威に感じているんだろう。アスランのイージスのOSは、酷い出来だったしな。一番の完成系を取り残したんじゃ、潜入組としては悔しさ倍増だろう」
オロールがアスランへ理解を示す。
私は、オレンジの髪の少年を思い出した。
一度見ただけだが、快活そうな少年だった。
「ラスティも亡くなっているしね。アスランの目の前だったって聞いた。気持ちはわかる」
ミゲルとオロールが、一瞬黙る。
気遣うような視線をミゲルが私に寄越す。
「そっか……クロエも……」
「お喋りだったけどクロエは気のいい子だった。せめてもの手向けとして、戦艦は墜とさせてもらう」
私は通路の壁を蹴って、方向転換する。
女子用のロッカールームへ私は向かった。