ミステリー要素ありなので、話が込み入ってきました。最初は夢主の名前を出さないつもりだったので、少し読みにくい部分があるかもしれません。
DC×刀剣乱舞×相棒 越境者
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ドアが閉まる直前、風見が乗り込んでくる。エレベーター内には三人しかいない。
安室がゆらりと動いた。ドン、と風見の顔の横の壁に拳を突き、低く呻る。
「連中は何者だ。公安じゃないだろう。なぜお前がサポートしている」
「ふ、降谷さん、落ち着いてください! 防犯カメラが」
一階分下がり、エレベーターのドアが開いた。
女性たちの驚きの声が上がった。エレベーターに乗ろうとしていたおばさま方が目を丸くして、中を見ている。
(やべっ!! 安室さんの不自然な体勢を誤魔化せねえと!!)
コナンは慌てて、安室の服の端を引いた。
「お兄ちゃん、やめて! お父さんびっくりしてる!! 反抗期だからって、荒れすぎ!!」
安室の顔に青筋が立った。風見がさらに真っ青になり、冷や汗が流れ落ちる。
誰も何も言えないまま、エレベーターのドアが閉まった。
おばさまたちは乗ってこなかった。
安室が風見から離れ、エレベーター扉に向き合って立つ。
「すまない、少し熱くなった。風見、頼んでいた資料は?」
「すでに調べ終わり、いつものアドレスに送付済みです」
「頼んでいた資料って? 松田刑事のこと?」
コナンが問いかけると、同時にエレベーターの扉が開いた。
若い男女の二人連れが乗ってきたので、コナンは黙る。
風見も安室も話さない。
エレベーターがロビーに着いた。
「コナンくん、行くよ」
安室がコナンの手を取り、歩き出す。
風見と、男女の二人連れも降りた。
土曜日だからか、病院のロビーは混んでいた。広々とした吹き抜けのホールを大勢の人が歩き回っている。百人近くいるだろう。
エントランスの自動ドアが開くのが見えた。ちょうど、杉下警部と神戸が出ていくところだ。コナンと杉下の目が合った。コナンが頷くと、杉下も微笑んで頷いた。
「あ、コナンくん!」
蘭の声が飛んだ。
コナンが逃げる前に、すぐ蘭に手を掴まれる。
蘭が心配そうな顔をして、コナンと目線を合わせた。
「安室さんと一緒だったの? 急に走っていったら危ないじゃない、ここ病院なのよ。もし誰かにぶつかったら……」
コナンは小言を切り上げたくて、子供らしい返事をした。
「はーい、ごめんなさーい!」
ちら、とコナンは杉下を見る。
杉下はまだ病院玄関で待ってくれていた。しかし、神戸が携帯を気にしていた。
もしかしたら、何か次の予定が入っているのかもしれない。
コナンは胸の中で舌打ちをする。
(杉下さんたち、何かの別の事件を追っているのか? 安室さんも、蘭も、俺の手を握っているから走れねえ。今、俺たちは病院の出入り口に向かっているから、うまく杉下さんたちに話しかけねえと)
毛利が安室に声をかける。
「なんだ、おめえと一緒だったのか安室。さっき、松田と一課の連中が走っていくの見たけどよ。なんかあったのか?」
「交番が爆発したそうですよ。その捜査に駆り出されたみたいです」
毛利と蘭が驚愕の声を上げる。病院の自動ドアを抜け、外に出た。
「交番が爆発ゥ!?」
「そんな……松田刑事、大変じゃないですか。奥さんが記憶喪失なのに、他の事件の捜査までしなきゃいけないなんて……」
「松田刑事も警察官ですからねえ。私情より仕事を優先しなければならないのが、我々社会人の辛い所です」
「杉下さんこんにちは~! 神戸さんも! まだ帰ってなかったんだね!!」
コナンはここぞとばかりに、大声で挨拶した。
杉下が身を屈め、コナンと目線を合わせる。
「こんにちは、コナンくん。今日も元気ですねえ」
「いや、さっき会ったばかりじゃないですか」
神戸が杉下にツッコミを入れた。毛利が瞠目する。
「警部殿! 何でここに……あ、また事件の捜査、勝手にやってるんスか? ダメっすよ~、また伊丹たちに小言、言われますよ」
杉下が毛利に目礼した。
「お構いなく。どうやら、今日は伊丹さんたちがいらっしゃらないようですから」
神戸が微笑みを漏らす。
「目暮警部の班に会うと、いつもどうしてか、伊丹さんたち居ないんですよね」
「不思議ですよねえ」
「え、でも杉下さんたち、今日はどうしてここに? まさか、松田刑事の奥さんの件で?」
「ええ、知り合いなので……ところで、そちらの方。毛利くんのお知合いですか?」
杉下が手で安室を示した。
安室が肩を竦め、口の端に笑みを浮かべた。しかし、目は笑っていない。
「はじめまして、僕は探偵の安室透です。毛利先生の助手を務めさせていただいています。
(どうしたんだ? 安室さん……杉下警部を警戒している? それに、神戸さんにも? 安室さんは、特命係の二人に気を許していない……潜入捜査官だとバレる可能性があるからか? 確かに杉下さんならすぐに気づいちまうだろうが……いや、そうじゃねえ。この感じ……何かもっと、深刻な……)
女の子の泣き声が、病院の玄関に響き渡った。
玄関を振り返ると、親子連れが院内から出て来たところだ。コナンは目を見開いた。
(あれ? あの父親、どっかで……)
安室が息を呑み、一歩、後ずさった。顔色が蒼白になり、安室の目は零れそうなほど見開いている。
毛利と杉下が親子連れに気付いた。
「あれ? 一課の伊達じゃねえか。何やってんだ?」
「こんにちは、伊達刑事。お嬢さんはどうなさいました?」
伊達が自分の頭の後ろに手を当て、苦笑した。
「あ、これは毛利さん、杉下警部まで。お騒がせしてすみません。家内を産婦人科に連れて来たんですが、上の子が……」
女の子がまた、癇癪を起して号泣する。
「やだっ! 赤ちゃん、やだ!! いらない!!!」
わーっと声を上げ、ボロボロと泣く。
蘭が慌てて駆け寄り、ハンカチを差し出した。
(ありゃあ、赤ちゃん返りだな。年齢は2~3歳ってところか? おそらく、産婦人科の待合スペースで癇癪起して、治まらねえから一旦、車に連れて行くところだったんだろうが……)
コナンは女の子に群がる大人たちを見て、肩を竦めた。
子どもが泣いているから、それなりに周囲の注目を集めている。
一足先に風見さんが場を離れ、車の方へ行った。
おそらく、車内で安室さんを待つつもりなのだろう。
風邪を引いた男が咳をしながら、コナンたちの周りを通り過ぎた。
見舞いなのか、男性は紙袋を下げている。紙袋を持つ手が震えていた。マスクで顔を隠し、野球帽で髪型を隠している。
コナンは、今、病院に入っていった男に違和感を持った。
女の子のギャン泣きに紛れて、神戸の声が聞こえる。
「安室くん、大丈夫? 顔真っ青だよ」
「神戸さん……俺は……俺の頭がおかしいのか、それとも、この現実がおかしいのか……」
神戸と安室が耳打ちしている。
コナンは驚き、安室の手を引く。
「まさか、一課の伊達刑事も」
轟音が轟轟と響き渡り、大地が揺れた。
空気が全身にぶつかってくる。
コナンは一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
空と目の前が回り、地面に叩きつけられる。
コナンの鼓膜がジンジンと痛んだ。身体は痛くない。何か暖かいものに包まれ、固くガードされている。
――人だ。誰かに、抱きしめられている。
ぼうっと炎が噴き出す音が聞こえた。
何かが音を立てて、燃えている。
絶叫と悲鳴、誰かの叫び声が遠くから聞こえる。
「大丈夫かい、コナンくん!」
安室に顔を覗き込まれる。コナンは、ようやく状況を把握した。まだ耳がジンジンと痛い。
(爆発!? 安室さんが庇ってくれたのか!)
「蘭! おっちゃん!!」
コナンは病院を振り返った。
目の前の光景に立ち尽くす。
病院内が、桃色の炎でいっぱいだった。自動ドアのガラスや、窓ガラスが粉々になっている。蛍光ピンクの炎が外に向かって、長い舌を伸ばしている。
「お父さん、しっかりして!! お父さん!!!」
蘭が毛利の肩を掴んで揺らしていた。
毛利は地面に倒れ、力なく両手足を伸ばしている。頭に瓦礫が当たったのか、出血していた。アスファルトに血が伸びている。
「蘭姉ちゃん、揺すっちゃダメだ! 救急車と消防に電話して!!」
「ナタリー!」
「ママ!!」
「ダメです! 院内は、もう」
伊達刑事と女の子が、炎噴き出す病院へ駆けこもうとする。
杉下が二人の前に立ちはだかり、止めている。
また爆発が起き、窓ガラスが落下する。
人々から悲鳴が上がった。
野次馬が集まってきている。
「建物から離れてください! 危険です!!」
「下がって!! 病院に近付かないで!!」
神戸と安室が市民へ指示を出す。
風見が血相を変え、駐車場から走ってくる。
神戸が風見を指差した。
「風見くん、本庁に連絡! 近隣の道路を封鎖、非常線を張って!! 爆弾犯は、きっと近くでこの惨状を見ている!!」
「あなたは……! わかりました!」
風見がスマホを取り出し、本庁へ通報する。
コナンは神戸の手を引いた。
「ねえ、神戸さん! さっき僕、変な人見たよ! 三十代か、四十代くらいの男の人! 紙袋を持って、怯えているみたいだった」
「本当かい、コナンくん!? どっちに行ったか、わかる!?」
「病院に入っていったよ! そしたら、すぐ爆発が……」
(でも、おかしい……この規模。総合病院が全焼しているんだぞ!? あんな紙袋一個じゃ)
女性の声がした。女の子と伊達刑事が駆け寄り、抱きしめ合っている。外国人なのか、金髪だ。妊娠中だから、おなかが大きい。
(あの人が伊達刑事の奥さん? だが、誰が助けた!? 産婦人科は病院の四階のはず。どうやって脱出した!? まさか、さっきの窓が割れた音……誰かが彼女を抱えて、窓から飛び降りたのか!? でも、四階から、しかも妊婦を抱えてなんて人間技じゃ)
「あの人は、ナタリーさん……! なぜ……!! 彼女も班長も、一年前に亡くなって……! しかも、子どもなんて、いなかったはず」
コナンは安室を見上げた。
安室が顔色を変え、立ち尽くしている。目を大きく見開き、額を押さえる。
「松田といい、班長といい、なぜ……!? じゃあ、ヒロは……!? ヒロも生きているのか!?」
「安室さん、しっかりして! とりあえず今は、市民の避難を!」
病院の上層階が爆発する。窓ガラスと火の粉が舞った。建物の破片が落ちてくる。
コナンと安室は、爆風から顔を庇った。
顔がチリチリと痛み、灰が舞った。熱気が来る。
救急車と消防車のサイレンが、やっと遠くから聞こえる。
「やめて! 痛い、離して!!」
記憶にある声がした。
コナンは野次馬の向こうを見る。
道路に白い車が止まっていた。
松田の妻が、数人がかりで車に押し込められている。
犯人の一人に、コナンは見覚えがあった。病室に来た看護師だ。
松田の妻が後頭部を殴られた。
彼女が気絶し、車に引っ張り込まれる。
ドアが乱暴に閉じた。
車が急発進する。
「安室さん、あそこ! 白いヴェルファイア!! 松田刑事の奥さんが拉致された!!」
「なんだって!? 風見、車を!!」
コナンは野次馬の足の隙間を通り抜ける。
安室が誰かに呼び止められる声がした。
若い女性の声だ。おそらく、ポアロの常連の女子高生たちだろう。
コナンは奥歯を噛み締めた。
(ダメだ、他の大人は避難誘導で忙しい! 俺が追うしか!!)
コナンは道路に出た。白いヴェルファイアがちょうど、交差点を猛スピードで曲がっていく。
コナンは眼鏡のピントを拡大し、車のナンバーを記憶した。
コナンの視界から車は消えるが、発信機の信号は消えない。
(よし、奥さんの発信機は生きている! これで)
コナンの前に影が差した。麻酔銃を構え、コナンは振り返ろうとする。
頭にガツンと衝撃が落ちる。目の前が霞み、力が抜ける。立っていられない。
(誰だ……!? この腕力、大人の……)
コナンの目の前が、暗黒に閉ざされた。
安室がゆらりと動いた。ドン、と風見の顔の横の壁に拳を突き、低く呻る。
「連中は何者だ。公安じゃないだろう。なぜお前がサポートしている」
「ふ、降谷さん、落ち着いてください! 防犯カメラが」
一階分下がり、エレベーターのドアが開いた。
女性たちの驚きの声が上がった。エレベーターに乗ろうとしていたおばさま方が目を丸くして、中を見ている。
(やべっ!! 安室さんの不自然な体勢を誤魔化せねえと!!)
コナンは慌てて、安室の服の端を引いた。
「お兄ちゃん、やめて! お父さんびっくりしてる!! 反抗期だからって、荒れすぎ!!」
安室の顔に青筋が立った。風見がさらに真っ青になり、冷や汗が流れ落ちる。
誰も何も言えないまま、エレベーターのドアが閉まった。
おばさまたちは乗ってこなかった。
安室が風見から離れ、エレベーター扉に向き合って立つ。
「すまない、少し熱くなった。風見、頼んでいた資料は?」
「すでに調べ終わり、いつものアドレスに送付済みです」
「頼んでいた資料って? 松田刑事のこと?」
コナンが問いかけると、同時にエレベーターの扉が開いた。
若い男女の二人連れが乗ってきたので、コナンは黙る。
風見も安室も話さない。
エレベーターがロビーに着いた。
「コナンくん、行くよ」
安室がコナンの手を取り、歩き出す。
風見と、男女の二人連れも降りた。
土曜日だからか、病院のロビーは混んでいた。広々とした吹き抜けのホールを大勢の人が歩き回っている。百人近くいるだろう。
エントランスの自動ドアが開くのが見えた。ちょうど、杉下警部と神戸が出ていくところだ。コナンと杉下の目が合った。コナンが頷くと、杉下も微笑んで頷いた。
「あ、コナンくん!」
蘭の声が飛んだ。
コナンが逃げる前に、すぐ蘭に手を掴まれる。
蘭が心配そうな顔をして、コナンと目線を合わせた。
「安室さんと一緒だったの? 急に走っていったら危ないじゃない、ここ病院なのよ。もし誰かにぶつかったら……」
コナンは小言を切り上げたくて、子供らしい返事をした。
「はーい、ごめんなさーい!」
ちら、とコナンは杉下を見る。
杉下はまだ病院玄関で待ってくれていた。しかし、神戸が携帯を気にしていた。
もしかしたら、何か次の予定が入っているのかもしれない。
コナンは胸の中で舌打ちをする。
(杉下さんたち、何かの別の事件を追っているのか? 安室さんも、蘭も、俺の手を握っているから走れねえ。今、俺たちは病院の出入り口に向かっているから、うまく杉下さんたちに話しかけねえと)
毛利が安室に声をかける。
「なんだ、おめえと一緒だったのか安室。さっき、松田と一課の連中が走っていくの見たけどよ。なんかあったのか?」
「交番が爆発したそうですよ。その捜査に駆り出されたみたいです」
毛利と蘭が驚愕の声を上げる。病院の自動ドアを抜け、外に出た。
「交番が爆発ゥ!?」
「そんな……松田刑事、大変じゃないですか。奥さんが記憶喪失なのに、他の事件の捜査までしなきゃいけないなんて……」
「松田刑事も警察官ですからねえ。私情より仕事を優先しなければならないのが、我々社会人の辛い所です」
「杉下さんこんにちは~! 神戸さんも! まだ帰ってなかったんだね!!」
コナンはここぞとばかりに、大声で挨拶した。
杉下が身を屈め、コナンと目線を合わせる。
「こんにちは、コナンくん。今日も元気ですねえ」
「いや、さっき会ったばかりじゃないですか」
神戸が杉下にツッコミを入れた。毛利が瞠目する。
「警部殿! 何でここに……あ、また事件の捜査、勝手にやってるんスか? ダメっすよ~、また伊丹たちに小言、言われますよ」
杉下が毛利に目礼した。
「お構いなく。どうやら、今日は伊丹さんたちがいらっしゃらないようですから」
神戸が微笑みを漏らす。
「目暮警部の班に会うと、いつもどうしてか、伊丹さんたち居ないんですよね」
「不思議ですよねえ」
「え、でも杉下さんたち、今日はどうしてここに? まさか、松田刑事の奥さんの件で?」
「ええ、知り合いなので……ところで、そちらの方。毛利くんのお知合いですか?」
杉下が手で安室を示した。
安室が肩を竦め、口の端に笑みを浮かべた。しかし、目は笑っていない。
「はじめまして、僕は探偵の安室透です。毛利先生の助手を務めさせていただいています。
(どうしたんだ? 安室さん……杉下警部を警戒している? それに、神戸さんにも? 安室さんは、特命係の二人に気を許していない……潜入捜査官だとバレる可能性があるからか? 確かに杉下さんならすぐに気づいちまうだろうが……いや、そうじゃねえ。この感じ……何かもっと、深刻な……)
女の子の泣き声が、病院の玄関に響き渡った。
玄関を振り返ると、親子連れが院内から出て来たところだ。コナンは目を見開いた。
(あれ? あの父親、どっかで……)
安室が息を呑み、一歩、後ずさった。顔色が蒼白になり、安室の目は零れそうなほど見開いている。
毛利と杉下が親子連れに気付いた。
「あれ? 一課の伊達じゃねえか。何やってんだ?」
「こんにちは、伊達刑事。お嬢さんはどうなさいました?」
伊達が自分の頭の後ろに手を当て、苦笑した。
「あ、これは毛利さん、杉下警部まで。お騒がせしてすみません。家内を産婦人科に連れて来たんですが、上の子が……」
女の子がまた、癇癪を起して号泣する。
「やだっ! 赤ちゃん、やだ!! いらない!!!」
わーっと声を上げ、ボロボロと泣く。
蘭が慌てて駆け寄り、ハンカチを差し出した。
(ありゃあ、赤ちゃん返りだな。年齢は2~3歳ってところか? おそらく、産婦人科の待合スペースで癇癪起して、治まらねえから一旦、車に連れて行くところだったんだろうが……)
コナンは女の子に群がる大人たちを見て、肩を竦めた。
子どもが泣いているから、それなりに周囲の注目を集めている。
一足先に風見さんが場を離れ、車の方へ行った。
おそらく、車内で安室さんを待つつもりなのだろう。
風邪を引いた男が咳をしながら、コナンたちの周りを通り過ぎた。
見舞いなのか、男性は紙袋を下げている。紙袋を持つ手が震えていた。マスクで顔を隠し、野球帽で髪型を隠している。
コナンは、今、病院に入っていった男に違和感を持った。
女の子のギャン泣きに紛れて、神戸の声が聞こえる。
「安室くん、大丈夫? 顔真っ青だよ」
「神戸さん……俺は……俺の頭がおかしいのか、それとも、この現実がおかしいのか……」
神戸と安室が耳打ちしている。
コナンは驚き、安室の手を引く。
「まさか、一課の伊達刑事も」
轟音が轟轟と響き渡り、大地が揺れた。
空気が全身にぶつかってくる。
コナンは一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
空と目の前が回り、地面に叩きつけられる。
コナンの鼓膜がジンジンと痛んだ。身体は痛くない。何か暖かいものに包まれ、固くガードされている。
――人だ。誰かに、抱きしめられている。
ぼうっと炎が噴き出す音が聞こえた。
何かが音を立てて、燃えている。
絶叫と悲鳴、誰かの叫び声が遠くから聞こえる。
「大丈夫かい、コナンくん!」
安室に顔を覗き込まれる。コナンは、ようやく状況を把握した。まだ耳がジンジンと痛い。
(爆発!? 安室さんが庇ってくれたのか!)
「蘭! おっちゃん!!」
コナンは病院を振り返った。
目の前の光景に立ち尽くす。
病院内が、桃色の炎でいっぱいだった。自動ドアのガラスや、窓ガラスが粉々になっている。蛍光ピンクの炎が外に向かって、長い舌を伸ばしている。
「お父さん、しっかりして!! お父さん!!!」
蘭が毛利の肩を掴んで揺らしていた。
毛利は地面に倒れ、力なく両手足を伸ばしている。頭に瓦礫が当たったのか、出血していた。アスファルトに血が伸びている。
「蘭姉ちゃん、揺すっちゃダメだ! 救急車と消防に電話して!!」
「ナタリー!」
「ママ!!」
「ダメです! 院内は、もう」
伊達刑事と女の子が、炎噴き出す病院へ駆けこもうとする。
杉下が二人の前に立ちはだかり、止めている。
また爆発が起き、窓ガラスが落下する。
人々から悲鳴が上がった。
野次馬が集まってきている。
「建物から離れてください! 危険です!!」
「下がって!! 病院に近付かないで!!」
神戸と安室が市民へ指示を出す。
風見が血相を変え、駐車場から走ってくる。
神戸が風見を指差した。
「風見くん、本庁に連絡! 近隣の道路を封鎖、非常線を張って!! 爆弾犯は、きっと近くでこの惨状を見ている!!」
「あなたは……! わかりました!」
風見がスマホを取り出し、本庁へ通報する。
コナンは神戸の手を引いた。
「ねえ、神戸さん! さっき僕、変な人見たよ! 三十代か、四十代くらいの男の人! 紙袋を持って、怯えているみたいだった」
「本当かい、コナンくん!? どっちに行ったか、わかる!?」
「病院に入っていったよ! そしたら、すぐ爆発が……」
(でも、おかしい……この規模。総合病院が全焼しているんだぞ!? あんな紙袋一個じゃ)
女性の声がした。女の子と伊達刑事が駆け寄り、抱きしめ合っている。外国人なのか、金髪だ。妊娠中だから、おなかが大きい。
(あの人が伊達刑事の奥さん? だが、誰が助けた!? 産婦人科は病院の四階のはず。どうやって脱出した!? まさか、さっきの窓が割れた音……誰かが彼女を抱えて、窓から飛び降りたのか!? でも、四階から、しかも妊婦を抱えてなんて人間技じゃ)
「あの人は、ナタリーさん……! なぜ……!! 彼女も班長も、一年前に亡くなって……! しかも、子どもなんて、いなかったはず」
コナンは安室を見上げた。
安室が顔色を変え、立ち尽くしている。目を大きく見開き、額を押さえる。
「松田といい、班長といい、なぜ……!? じゃあ、ヒロは……!? ヒロも生きているのか!?」
「安室さん、しっかりして! とりあえず今は、市民の避難を!」
病院の上層階が爆発する。窓ガラスと火の粉が舞った。建物の破片が落ちてくる。
コナンと安室は、爆風から顔を庇った。
顔がチリチリと痛み、灰が舞った。熱気が来る。
救急車と消防車のサイレンが、やっと遠くから聞こえる。
「やめて! 痛い、離して!!」
記憶にある声がした。
コナンは野次馬の向こうを見る。
道路に白い車が止まっていた。
松田の妻が、数人がかりで車に押し込められている。
犯人の一人に、コナンは見覚えがあった。病室に来た看護師だ。
松田の妻が後頭部を殴られた。
彼女が気絶し、車に引っ張り込まれる。
ドアが乱暴に閉じた。
車が急発進する。
「安室さん、あそこ! 白いヴェルファイア!! 松田刑事の奥さんが拉致された!!」
「なんだって!? 風見、車を!!」
コナンは野次馬の足の隙間を通り抜ける。
安室が誰かに呼び止められる声がした。
若い女性の声だ。おそらく、ポアロの常連の女子高生たちだろう。
コナンは奥歯を噛み締めた。
(ダメだ、他の大人は避難誘導で忙しい! 俺が追うしか!!)
コナンは道路に出た。白いヴェルファイアがちょうど、交差点を猛スピードで曲がっていく。
コナンは眼鏡のピントを拡大し、車のナンバーを記憶した。
コナンの視界から車は消えるが、発信機の信号は消えない。
(よし、奥さんの発信機は生きている! これで)
コナンの前に影が差した。麻酔銃を構え、コナンは振り返ろうとする。
頭にガツンと衝撃が落ちる。目の前が霞み、力が抜ける。立っていられない。
(誰だ……!? この腕力、大人の……)
コナンの目の前が、暗黒に閉ざされた。