ミステリー要素ありなので、話が込み入ってきました。最初は夢主の名前を出さないつもりだったので、少し読みにくい部分があるかもしれません。
DC×刀剣乱舞×相棒 越境者
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
中央合同庁舎第2号館のガラス戸をくぐる。見慣れたロビーが目の前に広がった。
安室の胸中に、妙な感慨が満ちる。
(まさか、『安室透』として警察庁内へ入るとは……)
中央合同庁舎第2号館の上層階に警察庁は入居している。『降谷零』にとっては馴染んだ庁舎だが、『安室透』にとっては初めての場所だ。
あえて、安室はきょろきょろと天井を見上げ、あちこちを見る。杉下が微笑ましい目をした。
「おやおや、そんなに周りを見て。珍しいですか?」
「僕、警視庁には何度か伺ったことがあるのですが、警察庁に来るのは初めてで。しかも、今日は毛利先生の名代なので……緊張するなあ」
安室は指先で自分の頬を掻いた。神戸が苦笑する。
「まあまあ、落ち着いて。別に官房長だって、取って食おうってわけじゃないだろうし。エレベーター、あっちだから行こうか」
「はい!」
杉下と神戸の後を、いかにも緊張している様子で安室は続いた。エレベーターに乗る。
途中で『降谷零』を知っている同僚も何人か乗ってきたが、神戸に声をかけても安室に声をかけてくることはなかった。話しかけてきた相手には、神戸が杉下と安室を「今の上司とお客さんです」と紹介し、相手も会釈程度で済ます。
現在、神戸は特命係にいるが、元々は警察庁の人間だ。
神戸は警察庁警備局警備企画課に長く在籍しており、『降谷零』の上司だった。
なぜ神戸が現在、特命係にいるのか『降谷零』も事情は知らない。
(だが、おそらく神戸さんの任務は杉下右京の内偵……杉下右京は切れ者だが、警察内の厄介者。彼が警察に必要な人間なのか、上からの指示を受けて警視庁にいるのだろう。その神戸さんと、まさか安室として出会ってしまうなんて)
エレベーターが目的の階に到着する。軽い音を立てて、扉が開いた。
誰かの話し声と、忙しない靴音がした。女性の声が、妙に安室の耳に響く。
聞き覚えのある声だと安室は思った。声の持ち主を思い出そうとして、安室は違和感を持った。
(誰の声なのか思い出せない。頭の中が、煙に巻かれたような……)
神戸がさっと表情を変え、エレベーターから出た。
「あれ? 今のは……」
「知り合いですか、神戸くん」
杉下が問いかけた。神戸が頷く。
「ええ、昔の部下で……いつ警察庁に帰って来たんだろう? 都道府県警察に出ていたはずなのに」
「出向中だった、ということは、若い方ですか?」
「そうです。ちょうど、安室くんと同じくらいの年齢だったと思いますけど」
「おや、随分若い。まだ見習いさんじゃないですか」
安室は、神戸の発言に違和感を持った。
数名、安室は同年代の警察キャリアの顔を思い浮かべる。
神戸が言及した人物は、やはり思い当たらない。
誰か、忘れている焦燥を安室は感じた。
「神戸さんは警察庁の方だったんですね。何か、その人に気になる理由が?」
安室は神戸に質問した。
「えっ、どうして?」
神戸が逆に、安室へ問いかけてくる。
「あくまで、僕の個人的なイメージですが……きっと警察庁の中では、都道府県警察の出向から戻ってくるなんて、珍しいことではない。ただの転属ですからね。なのに、神戸さんは元部下の方を特別、気に掛けているように見える。だから、何か配慮すべき事情がある方なのかと思ったんです」
神戸が納得した顔で頷いた。
杉下も興味深そうな顔で神戸を観察している。
「ああ、そういう……確かに、ちょっと配慮しなきゃいけない子だったんだよ。メンタル崩して、療養も兼ねて都道府県警察に出た子だったから。東京に戻ってきたってことは、だいぶ調子が良くなったんだろうけど」
「東京から離れなければならない理由があったのですか?」
杉下が神戸に問いかける。
「彼女の婚約者が殉職したんです。亡くなった婚約者は、ノンキャリの警察官。事件現場や、亡くなった婚約者と思い出がある場所へ行くと、過呼吸を起こすようになってしまって。日常生活にも支障があるレベルだったので、少し休職して、婚約者と思い出がない県に。初めて暮らす場所ならトラウマも刺激されず、普通に生活できるそうですから」
安室は、言葉にならない引っ掛かりを感じた。
(なんだ? この話……どこかで聞いたような……でも、いったいどこで? 思い出せない)
「なるほど。しかし、随分と警察官の仕事にこだわりがある方なんですね。日常生活に支障が出るレベルなら、警察を辞める道もあったと思いますが。僕が言うのもなんですが、警察は色々とストレスが多い仕事ですから」
「本人の強い希望があったんです。辞めたくないと。少なくとも、婚約者を殺した犯人が捕まるまでは。その犯人も今年捕まりましたし……元部下がどうなったか、少し気になっていて。優秀でしたし。辞めちゃうのが勿体無いレベルの」
安室は瞠目した。
(今年、犯人が捕まった?)
杉下も神戸を凝視する。
「おや、何の事件ですか?」
答えようとした神戸が固まる。
困惑した顔で、神戸が自分の口元を片手で触れる。
神戸は、言葉が出てこない様子だ。
「もしや、確実に何かの事件を念頭に置いて話していたはずなのに、いざ、その事件を話そうとすると思い出せない?」
杉下の質問に、驚いた顔で神戸が頷く。
「どうしてわかるんですか?」
安室は息を飲み、奇妙な納得を得た。
(僕だけでなく、神戸さんにも記憶の齟齬が生まれている。僕と神戸さんの共通点は『公安警察』。だが、風見は普段通りの様子だった。同じ公安でも、風見に記憶の齟齬は生れていない。記憶の齟齬が出る条件はなんだ? ……所属か? 僕と神戸さんは警察庁所属で、風見は警視庁だ)
長船と長谷部の人形めいた端正な顔が、安室の脳裏をよぎる。
(病院で出会った長船警部と長谷部警部補……公安を名乗っていたが、彼らの正体も不明だ。風見に調べさせているが、どこまでわかるか……)
「なるほど……やはり、そうですか」
杉下の声に、安室は全身の血の気が引いた。
安室は思考を杉下に全て、見透かされた気持ちになる。
神戸も虚を突かれた顔で、杉下を凝視している。
不穏に、杉下一人だけが、納得した顔で頷いていた。
安室は杉下を不気味に思った。
(今の神戸さんの情報で、杉下警部は何がわかった? 何を掴んだ?)
神戸が片手を小さく上げ、杉下に質問する。
「えっ、ちょっと待ってください。今のやり取りで、何かわかったんですか?」
「神戸くんの件は、また後で。事態は切迫しています。今はまず、官房長のお話を聞きましょう」
杉下が澄ました顔で、颯爽と歩き出す。
神戸が一瞬だけ不満そうな顔をして、杉下の後を追う。
二人の後ろに続きながら、安室は杉下への警戒を深めた。
(神戸さんの発言で、確実に何かを杉下警部は掴んだ。僕も今回、杉下警部と行動を共にする以上、常にリスクがある。僕の正体も、いつ杉下警部に露見するか……)
安室の背筋や掌に冷や汗が流れ始める。両の拳を、密かに安室は握り締めた。
(できれば、杉下警部は敵に回したくない男だ。風見によれば、杉下警部は組織の事件や存在に興味を持っている。コナンくんと杉下警部が関わってしまったから。絶対に僕の潜入を、杉下警部に悟られるわけにはいかない。杉下警部の命を守るためにも)
安室の胸中に、妙な感慨が満ちる。
(まさか、『安室透』として警察庁内へ入るとは……)
中央合同庁舎第2号館の上層階に警察庁は入居している。『降谷零』にとっては馴染んだ庁舎だが、『安室透』にとっては初めての場所だ。
あえて、安室はきょろきょろと天井を見上げ、あちこちを見る。杉下が微笑ましい目をした。
「おやおや、そんなに周りを見て。珍しいですか?」
「僕、警視庁には何度か伺ったことがあるのですが、警察庁に来るのは初めてで。しかも、今日は毛利先生の名代なので……緊張するなあ」
安室は指先で自分の頬を掻いた。神戸が苦笑する。
「まあまあ、落ち着いて。別に官房長だって、取って食おうってわけじゃないだろうし。エレベーター、あっちだから行こうか」
「はい!」
杉下と神戸の後を、いかにも緊張している様子で安室は続いた。エレベーターに乗る。
途中で『降谷零』を知っている同僚も何人か乗ってきたが、神戸に声をかけても安室に声をかけてくることはなかった。話しかけてきた相手には、神戸が杉下と安室を「今の上司とお客さんです」と紹介し、相手も会釈程度で済ます。
現在、神戸は特命係にいるが、元々は警察庁の人間だ。
神戸は警察庁警備局警備企画課に長く在籍しており、『降谷零』の上司だった。
なぜ神戸が現在、特命係にいるのか『降谷零』も事情は知らない。
(だが、おそらく神戸さんの任務は杉下右京の内偵……杉下右京は切れ者だが、警察内の厄介者。彼が警察に必要な人間なのか、上からの指示を受けて警視庁にいるのだろう。その神戸さんと、まさか安室として出会ってしまうなんて)
エレベーターが目的の階に到着する。軽い音を立てて、扉が開いた。
誰かの話し声と、忙しない靴音がした。女性の声が、妙に安室の耳に響く。
聞き覚えのある声だと安室は思った。声の持ち主を思い出そうとして、安室は違和感を持った。
(誰の声なのか思い出せない。頭の中が、煙に巻かれたような……)
神戸がさっと表情を変え、エレベーターから出た。
「あれ? 今のは……」
「知り合いですか、神戸くん」
杉下が問いかけた。神戸が頷く。
「ええ、昔の部下で……いつ警察庁に帰って来たんだろう? 都道府県警察に出ていたはずなのに」
「出向中だった、ということは、若い方ですか?」
「そうです。ちょうど、安室くんと同じくらいの年齢だったと思いますけど」
「おや、随分若い。まだ見習いさんじゃないですか」
安室は、神戸の発言に違和感を持った。
数名、安室は同年代の警察キャリアの顔を思い浮かべる。
神戸が言及した人物は、やはり思い当たらない。
誰か、忘れている焦燥を安室は感じた。
「神戸さんは警察庁の方だったんですね。何か、その人に気になる理由が?」
安室は神戸に質問した。
「えっ、どうして?」
神戸が逆に、安室へ問いかけてくる。
「あくまで、僕の個人的なイメージですが……きっと警察庁の中では、都道府県警察の出向から戻ってくるなんて、珍しいことではない。ただの転属ですからね。なのに、神戸さんは元部下の方を特別、気に掛けているように見える。だから、何か配慮すべき事情がある方なのかと思ったんです」
神戸が納得した顔で頷いた。
杉下も興味深そうな顔で神戸を観察している。
「ああ、そういう……確かに、ちょっと配慮しなきゃいけない子だったんだよ。メンタル崩して、療養も兼ねて都道府県警察に出た子だったから。東京に戻ってきたってことは、だいぶ調子が良くなったんだろうけど」
「東京から離れなければならない理由があったのですか?」
杉下が神戸に問いかける。
「彼女の婚約者が殉職したんです。亡くなった婚約者は、ノンキャリの警察官。事件現場や、亡くなった婚約者と思い出がある場所へ行くと、過呼吸を起こすようになってしまって。日常生活にも支障があるレベルだったので、少し休職して、婚約者と思い出がない県に。初めて暮らす場所ならトラウマも刺激されず、普通に生活できるそうですから」
安室は、言葉にならない引っ掛かりを感じた。
(なんだ? この話……どこかで聞いたような……でも、いったいどこで? 思い出せない)
「なるほど。しかし、随分と警察官の仕事にこだわりがある方なんですね。日常生活に支障が出るレベルなら、警察を辞める道もあったと思いますが。僕が言うのもなんですが、警察は色々とストレスが多い仕事ですから」
「本人の強い希望があったんです。辞めたくないと。少なくとも、婚約者を殺した犯人が捕まるまでは。その犯人も今年捕まりましたし……元部下がどうなったか、少し気になっていて。優秀でしたし。辞めちゃうのが勿体無いレベルの」
安室は瞠目した。
(今年、犯人が捕まった?)
杉下も神戸を凝視する。
「おや、何の事件ですか?」
答えようとした神戸が固まる。
困惑した顔で、神戸が自分の口元を片手で触れる。
神戸は、言葉が出てこない様子だ。
「もしや、確実に何かの事件を念頭に置いて話していたはずなのに、いざ、その事件を話そうとすると思い出せない?」
杉下の質問に、驚いた顔で神戸が頷く。
「どうしてわかるんですか?」
安室は息を飲み、奇妙な納得を得た。
(僕だけでなく、神戸さんにも記憶の齟齬が生まれている。僕と神戸さんの共通点は『公安警察』。だが、風見は普段通りの様子だった。同じ公安でも、風見に記憶の齟齬は生れていない。記憶の齟齬が出る条件はなんだ? ……所属か? 僕と神戸さんは警察庁所属で、風見は警視庁だ)
長船と長谷部の人形めいた端正な顔が、安室の脳裏をよぎる。
(病院で出会った長船警部と長谷部警部補……公安を名乗っていたが、彼らの正体も不明だ。風見に調べさせているが、どこまでわかるか……)
「なるほど……やはり、そうですか」
杉下の声に、安室は全身の血の気が引いた。
安室は思考を杉下に全て、見透かされた気持ちになる。
神戸も虚を突かれた顔で、杉下を凝視している。
不穏に、杉下一人だけが、納得した顔で頷いていた。
安室は杉下を不気味に思った。
(今の神戸さんの情報で、杉下警部は何がわかった? 何を掴んだ?)
神戸が片手を小さく上げ、杉下に質問する。
「えっ、ちょっと待ってください。今のやり取りで、何かわかったんですか?」
「神戸くんの件は、また後で。事態は切迫しています。今はまず、官房長のお話を聞きましょう」
杉下が澄ました顔で、颯爽と歩き出す。
神戸が一瞬だけ不満そうな顔をして、杉下の後を追う。
二人の後ろに続きながら、安室は杉下への警戒を深めた。
(神戸さんの発言で、確実に何かを杉下警部は掴んだ。僕も今回、杉下警部と行動を共にする以上、常にリスクがある。僕の正体も、いつ杉下警部に露見するか……)
安室の背筋や掌に冷や汗が流れ始める。両の拳を、密かに安室は握り締めた。
(できれば、杉下警部は敵に回したくない男だ。風見によれば、杉下警部は組織の事件や存在に興味を持っている。コナンくんと杉下警部が関わってしまったから。絶対に僕の潜入を、杉下警部に悟られるわけにはいかない。杉下警部の命を守るためにも)