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Fortnite-双子物語-

ここはブラックハート邸。
都市より少し離れた港町にあるその小さな街は、ブラックハート海賊団の領地で、その中でも一際でかいその建物こそが彼の家。

「せーーーーーーーーーーーーーー」
「ああ」
「んちょ!!!」
「長い、分けるな、もう返事した」
「船長、そろそろ人呼びません?」
「いやだ」
「だってこんな豪邸持ってるのに客が来たことないなんて宝の持ち腐れっすよ」
「うるせぇ俺だって欲しくて貰った家じゃねぇ」
「でね、俺、誘おうと思ったんすよ」
「は?おい?」
「ねぇ、船長。最近、仲のいい友人がいるらしいっすね」

ブラックハートは大きく口を開いた。

【嫌な予感がしたんだ】

「うわぁ…ここが…ブラックハートさんの…おうち…?」
「…思ってたより…おおき…すぎじゃない!!!?」

ハイジとフェーブルが豪邸を目の前に悲鳴を上げた。

「まあ、アタシんちよりはデカいわね。でも国からのでしょ?そりゃこれだけデカくて当然よね。一般の持ち物じゃないもの」
「なんだっけ?元はどっかの貴族の持ち物を改築したんだっけ」
「没落貴族のだがな」
「確か、ハワイアンブルー辺境伯の物ですよね。国への反乱を企てて処刑されたのを確認しています。ただ、民には誠実な方だったので天国行きだったはずですよ」

豪邸に目もくれず、玄関口へと真っ直ぐ歩いていく4人。上から順にダスク、サンクタム、ヴェンデッタ、アークだ。
一昔前の時代に英雄として名をあげた2人の娘ダスク、吸血鬼の一族の1人として長い時代を生きてきたサンクタム、同じく天使として長く生きてきたヴェンデッタとアークの4人にとって、この程度の豪邸はよく見るものだった。
どっちかっていうと、一般家庭の家の方が構造が面白いよね、なんて会話も入れつつ。

「…私、改めてイカれた人たちと普段遊んでるんだと自覚したわ」
「俺も…」

フェーブルとアイコニックが目線を合わせてそういうと、一緒に肩を落とした。未だキラキラと目を輝かせているハイジが羨ましい。

「一般家庭で育った俺たちにはスケールデカすぎるよ…」

ブラックハートの家は元々、彼が買ったものではない。
…と言うのも、彼自身、普通の海賊ではないからだ。

私掠海賊団、というのを聞いたことはあるだろうか?
簡単に説明すると、国から決められた敵国の船を襲う、海の上の騎士達だ。彼は幼い頃からその道を歩き、そして、大人になると同時にその活躍が認められその褒美としてこの豪邸つきの土地をもらった。

本来ならば、貴族の爵位をもらったり、領地をもらったりと言うのが普通なのだが、この現代で貴族の爵位というのはあまり意味をなさず。都市の大きな豪邸を…と言いたいところだったが、海の上を愛する彼はそれを拒んだ。金銀財宝何を見せても、彼は首を縦にふらない。
海があれば、それでいい。その意思を尊重すべく、国の中でも一番海に近く、そして手付かずにされていたこの豪邸を改築してプレゼントした、というわけだ。
まあ、国としては荒地になりかけていた土地を手放せてwin-winなのだが。

「結果として、国の所有物であることに変わりはないわよ。だから、フェーブル、そんなに緊張しなくったっていいじゃない」
「ま、こんだけ贅沢な作りしてるのに、周りの風景は田舎そのものだもんなー。ゆっくりバカンスにはいいとこだけど、生涯住むところってなると退屈なもんだぜ」
「そうでしょうか?この辺の海には食べられる魚がたくさん泳いでいますし、農作物も魚達のおかげで随分育っていますから、食べ物には困りませんよ」
「アークちゃん退屈って意味知ってるぅ!?」
「釣りに畑仕事だけで充分、1日は終わると思いますが」
「アーク、たぶん、意味は違うと思う」
「えぇ!?」

世の中の国宝認定されている貴族の館というのに、ハイジは行ったことがある。それは中学の社会科見学で連れて行かれたわけなのだが、人が住むところとは到底思えなかった。
きらびやかな装飾に、ふかふかの絨毯、どこを見ても物語の中にいるようで、ふわふわとした感覚。

(こんなところに…ブラックハートさんが…?)

王子様のようだ。ハイジはそう思った。
幼い頃、母から何度も聞かされていた白馬の王子様。ブラックハートさんが乗るのは黒馬のイメージだが、それでもやっぱり物語の主人公。

(それで、あたしは?普通の一般家庭の女の子で、成績もフェーブルがいるからなんとかやっていけてて、フォートナイターとしての腕前も中途半端。…私…)

ハイジはチラリと前を歩く4人を見た。
豪邸に物おじもせず、なんなら飾ってある絵画の価値を目視だけでこうじゃないか、なんて言い合っている。その後ろを歩くフェーブルとアイコニックは緊張している様子はあるものの、最初の頃よりは緊張が解け、会話についていこうとはしているようだ。

(あたし、みんなが言ってること、ちっともさっぱり、わかんない。みんな素敵に見えるし、みんな高価に見えるし…)

「おぉ、来たか」

大きな絵画が飾ってあるエントランスを抜けると広い空間の中央に大きな階段があり、二階へ続くその先からブラックハートは降りてきた。いつもの着古したボロいコートではなく、新しく見えるシャツに濃い青のジーパン。

「もう玄関にいるってのになんで迎えがないんだよ」
「生憎、うちには召使いなんていないんでな。だからこうして俺が直々に出迎えに行こうとしてただろ」
「遅ぇんだよ!」
「それは悪かったな。ハイジだけが来るんだったらもっと早く出迎えたんだが」
「は?」
「あ?」
「喧嘩はやめなさい!」

開始早々、喧嘩の予感。慌ててダスクが仲裁に入った。

「召使いもどきの船員達はどうしたのよ?」
「あれは仲間だ。召使いじゃねぇ。…まあ、今、客が来るって大喜びで飯作ってるよ。デザート付きだと」
「デザート付きですか!?やったー!!!」
「へぇ、メニューも彼らが考えてるの?」
「ああ、お任せしてる。どうせお前らアレルギーないだろ」

落ち着いたと思ったのに、またサンクタムがブラックハートに掴みかかろうとした。

「聞くくらいの!!気持ちは!!!あってもいいだろ!!!!」
「俺はお前がアレルギーだがな」
「きぃいぃぃぃいいい素直じゃないわね!!!知ってるのよ!!このサンクタムちゃん、友人として招待されたってこと!!」
「うるせぇ、何かの手違いだろ」
「なんだとぉ!?」
「だから喧嘩はやめなさいって言ってるでしょ!!!」

ダスクの鉄拳が2人の頭に入る。流石に痛かったのか、2人は黙り始めたが、仲直りはしてないようで視線だけで喧嘩している。

「…なんだか、緊張してた私が馬鹿みたい。そうよね。こんな素敵な豪邸でも持ち主がコレだもの」
「フェーブル、コレって言い方は…でも、確かに。いつも通りのブラックハートさんでなんかホッとしたっていうか」
「ね、ハイジ」

フェーブルとアイコニックが振り返る。その言葉を聞いて他5人も一斉にハイジへと視線を向けた。ブラックハートの視線がハイジに突き刺さる。

「う、うん!そうだね!!」

言えなかった。まだ、どこか場違いに感じてる、なんて。
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