Fortnite-双子物語-
彼は朝から浮かれていた。
浮かれすぎて朝から鼻歌なんか歌っちゃって、その勢いでシャワーも浴びちゃって、その後、歯もこれでもかってくらい磨いて、そんで目玉焼き焦がした部下に朝食のお礼を言うくらいに。
だから、すぐに気づけなかったのだ。
「…まだか…?」
待ち合わせはハイジの家の前。
時間より20分も早めにやってきた。
え?普通は人混みの多い場所で彼女の姿を探しながら待つのが学生恋愛の醍醐味だろ?ふざけんな俺は紳士だしもう学生じゃない。
レディの送り迎えは当たり前だからな。なんて誰も見てないのに格好つけた。
12月24日。世の中はクリスマスとやらで騒いでる日。
去年の今頃は船の上で戦闘を繰り返していたが、今日はいつも身に付けてるボロい服も脱ぎ捨て、新しく買ったコートも羽織ってる。
髭も整えてきたし、口臭も…うん、大丈夫。
プレゼントは?ばっちり。財布の中身も?んん!ばっちり!!
さあ、あとは主役が来るだけさ。
…なんて思ってたのが1時間前。
今日のデートコースを見直しながらルンルンで待っていても、さすがに首を傾げた。
「…遅すぎないか…?」
そう。主役が来ないのだ。家の前にいるのに。
扉を開けたらすぐそこに俺がいるのに。
寝坊か?それとも服選びにまだ時間がかかってるとか?
ありえない。
だって、彼女がデートに遅れるのはこれが初めてなのだから。
「とりあえず、連絡…えっと、お嬢さん、今、家の前で待っています。まだ支度はかかりそうですか。と」
シュポ。いつもは秒でつく既読がつかない。
なぜ?どうして?なんでなの?何か嫌われるようなことした?
はっ!もしかしてフェーブルの仕業か!?
そうだな!?そうに違いない。
いつもデートの邪魔してきやがって…!!!
そんなに妹が可愛いか!?可愛いよな!!!
こうなったらフェーブルに直接メッセージを送るべきか?
それとも恋人のアイコニックに協力を頼むべきか?
お前らこんな日くらい大人しくデートしろよ俺の邪魔をするな!
そう、スマホの画面を睨みつけていると。
「あんれー?ブラックハートじゃん」
「うげ」
真冬なのに袖なしを着ている男がやってきた。
サンクタム。認めたくないが、少ないお友達の1人。
「相変わらず寒そうな格好だな」
「吸血鬼だからな。寒さとかもう全然感じない!超元気!冬って最高だね!!!ダスクちんの頬が寒さでちょっと赤くなってかぁーわいいのさ!!ま、俺ら寒さ感じないからチークなんだけどな!冬マジックってやつ!!!」
うるさいですね。
「ほら見て!今日のダスクちんあまりにも化粧に時間かかってるから、一回、ハイジに借りてた漫画返しにきたんだよ!で?お前はそんなオシャレ着を着ながら、独りで何してんの?」
「ハイジの漫画って…少女漫画読むのかお前…」
「最近の少女漫画っておもしれぇのよこれが。お前も読む?この恋は本能寺を燃やした炎より熱い」
「こえぇよタイトルが。どこで売ってんだよそんなの」
「ハイジの部屋」
「俺の恋人のセンス…」
こんなにウキウキして出てきたのに、最初に話す人間がコイツって…いや、コイツ人間じゃなかった…。
ブラックハートはガックリと肩を落とした。最愛のハイジ、せめて来れない理由くらい本人の口から聞きたかった。
「ハイジとデートの約束をしたんだが、出てきてくれないんだ。24日に会おうってことは話してて、いつもデートの待ち合わせは家の前、決まった時間だったから……」
「え?お前、まさか、ここでずっと待ってたわけ!?」
サンクタムがこれでもかってくらい目を見開いた。
「当たり前だろ。女待たせる男がどこにいる」
キメ顔で答えたブラックハート。お前も男なら俺を見習え。
そう言う意味を含めたかっこいい台詞だったはずなのに…。
サンクタムはお腹を抱えて笑い出した。それはもう生まれたての子鹿のようにプルプルと立っているだけで精一杯。これが部屋の中だったのなら、地面を叩いて大喜びしてしまいたいほどに面白い。ああ、外なのが恨めしい。
「なんだよ…」
「うはは、いや、おま、ふふ、うん、ははははははお前ばっかじゃねーの!!ばーかばーか!!24日は!まだ!!学校です!!!!!」
「…は?クリスマスなのに?」
「クリスマスだろうとなんだろうと世の中の学校にとっては平日なワケよ。小学生でも学校に行ってるぜ?なら学生のハイジも学校ですぅー」
「……じゃあ、もしかして」
「もしかしなくても」
「…放課後デートのお誘いだった…?」
「ぎゃははははははっはははあはっはははっはは」
放課後デートのお誘いなら時間も待ち合わせ場所もまた別だ。
くそ、普通の人間の平日やら祝日が俺にわかるわけないだろ!!
馬鹿にしやがって…!!!!!
「おもしれー!!超いいもん見れたわ!!いやー、朝から走ってみるもんだね!!じゃ!俺、ダスクちん待ってるし、ハイジの母ちゃんに漫画渡したら帰るわ!お疲れ!!」
嵐のようにやってきた男は、嵐のように去っていった。
ブラックハートは呆然とスマホを見る。
フェーブルに文句を書く前でよかったと心の底から思った。
「そうか…今日、一般的には平日か…」
ふと、また少ない友達の1人であるヴェンデッタにメッセージを送ってみた。
“今日、クリスマスなのに普通に学校あるって知ってたか?”
幸運なことにヴェンデッタはすぐに既読をつけた。
“一般常識だろ?”
ブラックハートは煙草に火をつけた。
その煙が目に染みた気がして、静かに目を閉じた。
【クリスマスってなんで平日なんだろうね】
「ブラックハートさん、ごめんなさい!今、メッセージ見たの。やっっと一限目終わってね。あたし、今日祝日じゃないっていうの忘れてたから…寒いのに待たせたでしょう!?本当にごめんなさい!」
「いや、いいんだお嬢さん。お嬢さんが無事ならそれでいい」
「代わりに今日は!私が奢るね!」
「恋人に奢らせる男はいないさ。気にしなくていい」
「でも…サンクタムさんがフイッターでブラックハートさんしょんぼりしてるって…」
「あ!い!つ!!!!!!……お嬢さん、すまない。急用ができたからもう電話を切るよ。またあとで」
「え?そうなの?わかった。またあとで、ね!会えるの楽しみにしてるねブラックハートさん!」
「ああ、俺もだ」
“サンクタム@dusk-love
今日学校があることを知らなくて
しょんぼりブラックハート”
“ヴェンデッタ@14aowpapqo35
返信先 @dusk-love
ああ、だから平日に学校があるか聞いてきたのか”
“サンクタム@dusk-love
返信先@14aowpapqo35
おもしろすぎてさっきから
ダスクちんにうるさいって怒られたぴえん。
ヴェンデッタまで笑かさないで”
“ヴェンデッタ@14aowpapqo35
返信先@dusk-love
笑かしたつもりはないが…”